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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第二十六章 南北戦争

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ソ連の切り札

 一九五七年八月六日、ドイツ国ヴィルヘルムスハーフェン。


 同じ頃、ドイツでも異変が起こっていた。ドイツ海軍は主力の大半をドイツ本国にそのまま残し、ソ連を牽制するつもりでいたのだが、ソ連海軍が動き出したのである。デーニッツ国家元帥から旗艦ビスマルクに電話が入った。


『――ビスマルク、一大事だ。ソ連海軍が動いた。バルト海を出るつもりだと思われる』

「アメリカに向かおうとしている、ということでありますか」

『恐らくはな。そうでなければ、わざわざレニングラードから出てくる理由がない』

「確かに。それで本艦の任務は何なのでありますか?」

『取り敢えず、黙って見過ごす訳にはいかない。今すぐ全艦を率いて敵艦隊を牽制しに向かってくれ』

「了解であります」

『言うまでもないが、くれぐれも勝手に交戦状態に入ることだけは避けてくれ』

「無論であります。本艦を誰だと思っているのでありますか?」


 ドイツとソ連の国境の付近で、万が一にも砲火を交える訳にはいかない。一歩間違えれば独ソ全面戦争に発展しかねないからである。つまりこれは、国の意地を賭けた我慢比べなのである。


 ビスマルクは早速、大洋艦隊第一隊群を率いてヴィルヘルムスハーフェンを出撃した。その麾下には妹のティルピッツに、グラーフ・ローン級二番艦プリンツ・ハインリヒの姿もある。艦隊はバルト海の出口、デンマークとスカンジナビア半島の間にあるカテガット海峡に進出した。


「ほう。あれがソ連の切り札でありますか」

『ああ、世界最大の空母と謳っているのは、嘘ではなさそうだ』


 ビスマルクとティルピッツは、海峡を抜けつつある空母をまじまじと観察していた。その空母の名はウリヤノフスク。ソ連がキエフ級空母の次世代として建造した空母であるが、その全長は325mに達し、鳳翔より数十cmだけ長い。両者の差は大したものではないが、ウリヤノフスクが世界最大の空母であることは確かである。


「あれほど巨大な空母、仮にソ連と戦争になれば如何程の脅威になるでしょうか」

『単独の空母としては世界最高の搭載能力を誇っているが、それだけだ。私達の方が航空戦力は秀でている』


 所詮は一隻の空母である。ドイツ海軍がリヒトホーフェン級空母を二隻出せば、それだけで航空機の数は上回る。ソ連海軍の空母はそもそもウリヤノフスクを含めて五隻しかなく、ウリヤノフスクの存在は寧ろ、空母の量の差を埋めたいソ連指導部の焦りの表れだろう。


「なるほどであります。では我が艦隊は縦列になり、敵艦隊の側面を抜けていきましょう」

『何? 奴らの行く手を阻むとかじゃないのか?』

「どの道我々は一発の銃弾を使うこともできないのであります。であれば、我が艦隊がバルト海方面に向かう意志を見せる方が優先なのであります」

『なるほど。了解した』


 そういう訳でビスマルク艦隊は、ソ連艦隊と戦う様子など微塵も見せず、バルト海に向かって一直線に進み始める。両艦隊の距離が20kmばかりに迫ったところで、ビスマルクはウリヤノフスクに通信を掛けた。


「こちらはドイツ海軍大洋艦隊第一隊群旗艦、ビスマルクであります」

『…………』


 返事は沈黙であった。無線は確実に繋がっている筈なのにこれとは、喧嘩を売っているとしか思えない。


「ウリヤノフスク殿、応答を願うのであります。さもなくば、予期せぬ戦争を招きかねないのであります」


 ビスマルクが脅すように言うと、次の瞬間、気の抜けた声で返事が返ってきた。


『あ、ああ、あの……! わ、わた、私は、ウリヤノフスク、なんだけど…………』


 忙しない様子に、ビスマルクは過度に脅しすぎたかと反省する。


「落ち着いて欲しいのであります。本艦はあくまで平和的な話し合いを望んでいるのであります」

『あ、そ、そう、なんだ……。そ、その、わた、私、焦ってとかない、から、だけど、人と話すの、苦手で……』

「そうなのでありますか。その様子で旗艦とは、大変でありますね」

『別に、わ、私なんて、ただのお飾り、だから……』

「それでも旗艦は旗艦であります。話すのが苦手だと仰るのなら、本艦の言葉を上層部なりに伝えて欲しいのであります」

『は、はい』

「我々大洋艦隊第一隊群の主力艦は、貴艦らがアメリカ方面に向かうのであれば、ゴーテンハーフェンに移動するのであります。無論、ヨーロッパでソ連と交戦するつもりはありませんが。このように、お伝え願えますか?」


 旧ポーランドのゴーテンハーフェンはドイツ領であるが、ソ連に近過ぎるということで、ソ連に配慮して少数の駆逐艦しか配置されていない。


『わ、分かった。そ、そう、する……』

「よろしくお願いするのであります」


 一先ずは通信を終了し、ビスマルクは艦隊の速度を落とさせた。


『あんな様子で本当に大丈夫なのか?』

「仮にも旗艦なのであります。仕事は問題なくこなせましょう」


 それから6時間ほどが経過した。両艦隊は既にカテガット海峡内ですれ違っている。ウリヤノフスクからビスマルクに、再び通信が掛かってきた。


『――え、ええと、フルシチョフ書記長から、ど、ドイツ海軍がドイツ国内のどこにいようと連邦とは関係ない……だ、そうです……』

「なるほど。ソ連も随分と強気に出たものでありますね」


 フルシチョフはモスクワのすぐ近くに敵の大艦隊が野放しになっていても構わないと言う。どうやらソ連は本気でアメリカを切り取るつもりのようだ。


『え、そ、そう、なの?』

「ええ、まあ。では本艦からの用事は済んだのであります」

『よ、よかった……』

「……そういうことは通信を切ってから言うべきでは?」

『ご、ごめんなさい!』

「まあ、本艦は特に気にはしませんが」


 あまりにも子供っぽいウリヤノフスクにビスマルクはついつい甘くなってしまった。しかし、ドイツとソ連の胆力勝負の軍配はソ連に上がったようだ。


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