表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
538/606

民主党の攻撃

 民主党と名乗る組織からの犯行声明は、各地に衝撃を与えた。アメリカ総督府にいたアーレイ・バーク首相にもまた、この声明は届いていた。


「民主党……忌々しい響きだ。あの犯罪組織が地獄から戻ってきたとでも?」

「さ、さあ……。しかし、あのトルーマンは間違いなく本物でした」


 ルーズベルト政権末期に反旗を翻し政権から排除されたトルーマン元副大統領であるが、死んだ訳ではなく、ルーズベルトを殺そうとしたことを評価されて戦争犯罪人からは外されていた。しかし戦争指導者の一人とみなされ、政界に復帰することは叶わず下野していた。そのトルーマンが再び民主党を率いているらしい。


「首相閣下! 一大事です!!」


 と、その時、慌てた伝令が執務室に飛び込んできた。


「何事だ?」

「北西地区が化学兵器で攻撃されています!!」

「そ、それは、ワシントンの北西地区のことか?」

「はい! 我々がいるこの都市が、攻撃を受けています!!」

「被害状況はどうなっている!?」

「現場の混乱が激しく、不明です! 近くに寄った救急隊員などが次々と倒れ、収拾がつきません!!」

「民主党め……やってくれるな……」


 民主党の化学兵器は相当に質がいいらしい。救急隊員が気付かないうちに死んだということは、色もなく臭いもないということだ。不純物が非常に少ないということである。民主党は相当前から化学兵器の生産を始めていたと考えられる。


「ど、どうされますか?」

「闇雲に人を送っても、却って状況を混乱させるだけだ。しかし……化学兵器への備えなど、ほとんどないようなものだぞ……」


 化学兵器が大々的に使われた最後の事例は第一次世界大戦である。1925年に化学兵器の使用が国際的に禁止されたからだ。その後も少数の使用例があるものの、列強と列強の戦争では一切使われて来なかった。一度使ってしまえば化学兵器の報復合戦になるからである。


 それ故に、化学兵器対策の研究こそ行われているものの、実践的の備えは全く整っていない。これはアメリカに限った話ではなく、どんな国も平時にいきなり化学兵器を使われるとは夢にも思っていないだろう。


「陸軍で化学兵器に対処できる部隊はあるか?」

「即応できる部隊は、存在しません。化学防護隊など、真っ先に削減してしまいましたからね……」


 アメリカ連邦の財政は壊滅的な状況であり、軍の維持もままならず、不要不急と判断された部隊は解体されてしまったのである。


「クソッ……。こんなことまで想定するのが国家の指導者なのか……?」

「そこまで見通せる人間なら、簡単に世界征服でもできるかと」

「誰でもいい! 化学兵器に詳しい人間に連絡を取れ!」


 総督府は学識のありそうな人間に手当たり次第連絡を飛ばしていたのだが、そこに更なる凶報が入る。


「別の攻撃です!! 南東地区が攻撃されました!!」

「クソッ。住民を避難させることくらいしか、できないか……」


 ワシントン中の病院の病床を無理やり空けさせるが、攻撃の現場には近づくこともできず、被害者を運び出すことすらできなかった。手をこまねいている間に犠牲者は増えていき、既に二千人は死者が出ていると予想される。


 結局何もできないまま、最初の攻撃からおよそ40分が経過した。


「毒ガスの種類が判明しました! サリンです!」

「ナチスの毒ガスだと? まさかドイツが背後にいるのか……」


 サリンはドイツが20年前に開発した化学兵器である。アメリカも技術供与を受け、それなりの量を生産していた。それがどこかから漏れて民主党の手に渡ったのかもしれない。


「いや、そんなことより、すぐに救助を始めろ! 軍人でも警察でも使える人間は全て動かせ!」


 種類が分かれば対策は容易である。サリンは通常のガスマスクと防護服で十分に防護できるので、直ちにそれら装備を身に付けた兵士が派遣された。


 救助活動が始められるが、負傷者の数は数万人に上り、救急車はまるで足りなかった。バーク首相は軍の装甲車や戦車までをも負傷者の搬送に投入し、それでも足りないので民間の車で負傷者を運ぶという非常手段に訴えた。そこまでしても負傷者の半分以上を現場に放置するという有様であり、ワシントンは地獄のような有様であった。


 しかし、民主党の目的は、ただ民衆を虐殺することではない。それは手段に過ぎないのだ。


 前兆もなく、総督府のすぐ側で、突如として銃撃戦が始まった。


「首相閣下!! わ、我々が、この総督府が、攻撃を受けています!!」

「そんなことは分かっている! 敵の戦力は? 敵は誰だ?」

「敵の規模はおよそ300! 所属は不明です!」

「そんな数で攻め込まれたら、総督府の防衛は不可能です!!」

「そうか……それが狙いだったということか……」


 バーク首相は全て理解した。民主党の目的は、ワシントンにサリンをばら撒いて軍の能力を飽和させ、政権を乗っ取ることだったのだ。実際、総督府の援軍に駆けつけられる部隊は全く残っておらず、首相を守るのは僅かに50人ばかりの警備兵に過ぎない。


「敵はアサルトライフルで武装しています。我が方は拳銃程度しかありません。時間を稼ぐことすら困難です」

「首相閣下、直ちに脱出を! ここはもう持ちません!」

「何てこった……」


 首相は秘密の地下道を通って辛くも脱出することに成功した。しかし総督府は民主党に制圧され、間もなく政府の主要機関が同時に押さえられた。民主党がワシントンを乗っ取ったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ