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真実を知る時

 一九五七年七月十七日、大日本帝国神奈川県横須賀市、横須賀鎮守府。


 カリブ海に配置されている船魄の敵味方識別装置を無効化した帝国海軍であるが、一部で始めたなら最早止めることはできず、ついに全艦隊の敵味方識別装置を解除し始めた。第五・第六艦隊で敵味方識別装置を無効化した時に取り立てて問題が出なかったことを踏まえたものである。


 とは言っても残りの全艦隊で同時に装置を解除するのは手間なので、全体を3つほどに分けて順次敵味方識別装置を解除することとなった。最初に解除するのは内地に配属されている第一・第二艦隊である。


 第一艦隊旗艦の摂津は、旗艦の義務として麾下の船魄に敵味方識別装置の説明を行った。和泉はあくまで連合艦隊旗艦なので、第一艦隊に責任を負うのは摂津である。まずは第一艦隊の空母赤城・加賀・蒼龍・飛龍を集めた。


「じょ、冗談を言ってるんですか、摂津さん……」


 話を聞いた加賀は、震えた声でそう問い返す。他の空母は表面上は平静を保っているが、加賀だけは見た目を繕うこともできないでいた。


「私がこんな冗談を言うと思うか? 全て真実だ。加賀、お前が沈めてきたのは全て船魄だ」

「う、嘘……嘘ですよ、そんなの……」


 酷く狼狽する加賀。妙高や高雄と比べると、加賀が殺してきた船魄の数は桁違いだ。事実を知った時の衝撃が遥かに巨大であることは、そうおかしなことではない。


「加賀ちゃん……。ちょっと休もう? い、いいよね、摂津?」


 加賀の肩に手を置きながら、赤城は尋ねる。


「ああ、構わない。好きにしてくれ」

「行こう、加賀」

「え、ええ……」


 加賀はすっかり心ここに在らずといった様子であったが、赤城に手を引かれて自室に戻っていった。一方で蒼龍と飛龍は外から見る限りでは平然としていた。


「お前達は大丈夫か、蒼龍、飛龍?」

「わ、私は何ともないよ! 一航戦なんかと一緒にしないでよね!」

「別に強がらなくてもいいのだが――」

「強がってないし! 船魄って言ってもアメリカ人でしょ? 殺したところで何だって言うのよ!」


 蒼龍はそう自分に言い聞かせるのであった。


「分かった。これ以上は何も言うまい。飛龍はどうだ?」

「そう、だね。人類の敵アイギスなんてものが嘘だったのなら、これから戦争になれば、殺すのは船魄になるのかな?」

「その可能性が高いだろう。輸送船などを攻撃することは考えられるが」


 末期のアメリカは人間だけの艦を最前線に投入していたが、それはあくまで非常事態だったからである。真っ当な戦争であれば彼女達が戦うことになるのは船魄だろう。


「それもそうだね。私は、船魄を殺すのは嫌だな」

「そ、そうなんだ、飛龍ちゃん……」

「蒼龍は、同類を殺すのが好きなのかい?」

「そ、そんな訳ないでしょ! でも、その……」

「ああ。アメリカ人なら殺しても構わないと思うのは、自然な反応だよ。自分の心を守る為にね」

「飛龍ちゃん……」

「達観しているのだな、お前は」

「そんな大それたものじゃない。けれど私は、できるのであれば船魄を殺さずに済むような世の中になることを祈っているよ」


 飛龍は奇しくも妙高と似たような思想に至った。その発想はそれほど突飛なことではないだろうが。


「そうか。船魄にできることなどほとんどないだろうが、もしもその時が来れば、可能な限り努力しよう」

「摂津は協力してくれるのかい?」

「ああ。好き好んで同類を殺したい筈がなかろう」

「そうだね。いつか、そんな日が来るといいね」


 少なくとも第一艦隊の空母達には、反乱の意図などないようであった。摂津は最悪の場合には海兵に船魄を制圧してもらうことも考えていたが、その必要はなさそうで安堵した。


 ○


 一方その頃。赤城と加賀は加賀の部屋に籠っていた。赤城はベッドの上に正座して、加賀に膝枕をしている。


「赤城ちゃん……私は、どうすればいいんですか……」

「そんなこと、聞かれても……私も分からない、から……」

「何でもいいから、何か答えてください……」


 甚だ不合理な要求をしているとは加賀も理性では分かっていたが、しかし赤城に安心させて欲しくてたまらなかったのである。


「え、ええと……私も加賀ちゃんと同じくらい船魄を殺したから、一緒、だね」

「罪の重さは一緒と……?」

「う、うん。加賀ちゃんだけが悲しむ必要はない、と思う」


 果たしてこんな回答が正解なのかは全く分からなかったが、赤城は精一杯加賀を元気づけようとした。


「赤城ちゃんと一緒に、罪を背負えば、軽くなるんでしょうか……?」

「ぜ、絶対に、そう。私がいるから、そんなに落ち込まないで、加賀ちゃん」

「そう、ですね……。赤城ちゃん……私を、安心させて欲しいです……」

「うん。私も、安心したい」


 赤城も決して余裕がある訳ではない。自分より酷い様子の加賀を前に強がっていただけなのだ。二人は口付けしながら、お互いの着物を脱がせる。

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