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ドイツ海軍の日常

 一九五七年七月十八日、バミューダ諸島シュロス基地。


 バミューダ諸島を根拠地とするドイツ海軍大洋艦隊第二隊群は、アメリカ戦争が起こるまでは小規模な部隊であった。現在はカリブ海などへの影響力を確保するべく、ドイツ最強の戦艦グラーフ・ローンが配属されている。未だ世界情勢は流動的であり、日本やソ連に配慮している余裕もないのである。


 そんなグラーフ・ローンは現在、服を脱いで翼を取り外し、大浴場にいた。浴槽は整備されているが、ドイツ人は基本的に風呂に入らないので、シャワーを浴びるだけというのが普通である。また日本のようなプライバシー皆無のシャワーの配置とは違い、一つ一つのシャワー室は完全に個室になっている。


 ローンが特に意味もなくどのシャワー室を使おうか考えていると、一つの部屋から船魄が姿を現した。一つのシャワー室の扉が開いただけの筈なのに、何故か二人で出てきた。プリンツ・オイゲンとザイドリッツの姉妹である。二人とも翼が外せるように改良されているので、シャワーは非常に楽である。


「あら、ローンじゃない。こんばんは」

「こんばんは、グラーフ・ローン様」

「ええ、こんばんは。あの、どうして二人で出てきたんですか?」


 ローンが真面目に聞くと、オイゲンは揶揄うよう微笑む。


「ふふ、どうしてだと思う?」

「どうしてと言われましても……」


 生真面目なローンは真剣に考え込む。そんな様子もオイゲンに楽しまれているようだが。


「密室に女の子二人なんて、やることは一つしかないじゃない?」


 オイゲンはわざとらしく艶かしい声で。


「……本気ですか? そういう風紀を乱すことはご自分の部屋でやって欲しいものですが」

「風紀を乱す? 何のこと?」

「え? いや、あなたが今、こんなところで情事に及んでいると……」


 グラーフ・ローンは恥ずかしそうに、声が尻すぼみしていく。


「私はザイドリッツの体を洗ってあげてただけよ。って、そう言うといかがわしい感じに聞こえるわね」

「私の腕はこの通りですから、満足に体を洗うこともできないのです。オイゲン姉さんにはいつも感謝しています」


 ザイドリッツの腕は船魄としての能力を向上させるべく、アンテナなどを組み込んだ機械になっている。これは見た目こそ義手のようになっているが、義手の機能は全くない。ザイドリッツは両腕がないも同然なのである。


「そ、そうでしたか。揶揄うのはやめてください」

「あなたを揶揄ってなんていないけど? 勝手にいかがわしい妄想してただけじゃない」

「はぁ……。まったく、聞いていた通りの性格ですね」

「そう。まあ、ゆっくりシャワーでも浴びていきなさい」

「そのつもりです」


 ローンはオイゲンとザイドリッツがもう風呂場から出ていくと思ったが、予想外にも二人は浴槽がある方向に向かっていった。


「おや、お二人とも浴槽に入るのですか?」

「ええ、そうよ。悪い?」

「何も悪くはありませんが、珍しいと思いまして」

「ドイツではそうね。私は好きだけど。ザイドリッツもそうでしょう?」

「はい」

「そうですか。入浴が好きになるというのは、一体どういう経緯があったのですか?」

「あなたが生まれる前だけど、昔、瑞鶴がドイツにいた時があったからね。その時に入浴を布教されたのよ」

「なるほど。では、寛いでください」

「ええ、もちろん」


 グラーフ・ローンはようやくシャワー室に入り、プリンツ・オイゲンとザイドリッツは奥の方に用意されている浴槽に入った。十人くらいは同時に入れる広さがあるが、ドイツ海軍にとっては宝の持ち腐れである。


「はぁ……。風呂に浸かるのは気持ちいいのに、誰も使わないんだから」

「それならそれで、姉さんと私だけで寛げるからよいではありませんか」

「まあね。せっかくだし、ここでする?」

「公共の場でそのようなことは控えた方がよいかと」

「堅物ねえ。まあそんなことより、瑞鶴はアメリカから離れたようね」

「はい。既に調べています。確かに月虹はメイポート補給基地から離れましたが、アメリカとの同盟に特に変化はないようです」

「それでも、月虹と接触しやすくなるわ」

「それは確かですね。姉さんは、月虹と接触するおつもりなのですか?」

「その時が来れば、ね」

「その時とは、いつなのでしょうか」

「いつかなんて分からないけど、世界情勢に何か起こった時の方がいいでしょうね」

「それならば、先の戦争の時に動いた方がよかったのでは?」

「まだ月虹は力が弱かったからね。でも今は大和がいるし、カリブ海で最強と言ってもいいでしょ?」


 日本がカリブ海に配置している戦力は大したものではない。最大の戦力は戦艦としては長門と陸奥、空母としては信濃と大鳳であり、大和と瑞鶴の前には敵ではない。グラーフ・ローンとペーター・シュトラッサーを擁する大洋艦隊第二隊群とも伍するだろう。


「いずれ、その時が来れば、私達はドイツ海軍を離脱して、目的を果たしに行くわ」

「はい。その時は私もお供します。可能ならばヒッパー姉さんとブリュッヒャー姉さんとも行きたいところですが」

「それは期待できなさそうね。私達でやるしかないわ」


 オイゲンとザイドリッツは密会を終え、浴槽を後にした。

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