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高雄の寄る辺

「そうそう、私達の部屋は同じ部屋になるってことだから、よろしくね」

「そ、そうなのですか? あれだけ空き部屋があるのに、ですか?」

「えー、高雄ちゃん、私と一緒は嫌?」

「そ、そんなことはありません!」

「よかったよかった。船魄は二人一緒くらいの部屋にするってのが原則? らしいからね。まあ暫くは、ここの決まりを知る上でも、ずっと一緒にいる人がいた方がいいでしょ?」


 船魄は基本的に二人部屋というのは、いつの間にか帝国海軍全体で暗黙の了解のようになっている。元は生まれたばかりの船魄を精神的に支える存在を近くに置いておくことが目的だったようだが、その目的はかなり形骸化している。因みに高雄もついこの間まで愛宕と一緒の寝室であった。


「それとも信濃と一緒の部屋がいい?」

「そ、それは……遠慮しておきます……」


 流石に信濃と寝食を共にしていては身が持たないと思い、高雄は鈴谷と一緒の部屋になれることに安堵した。


「さて、じゃあ早速部屋に行こう。晩御飯までやることないしね」

「左様ですね。少し疲れました。ああ、しかし、荷物は運び込まないといけませんね」


 高雄の私物は全て自分の艦に詰め込んで運んできたが、今はまだドックに入ったままである。


「そんなの後でやろうよ。取り敢えず休もう?」

「それもそうですね。荷物は逃げませんし」

「よーし。寝るぞー」

「は、はあ……」


 やけにやる気を出した鈴谷に引き連れられ、高雄は鈴谷と高雄の部屋に入った。


「じゃあ私は寝るね。お休み」

「え? ええと……鈴谷さんは昼に寝て夜に起きる、的なものですか?」


 戦場では寝ずの番も必要だ。鈴谷は鎮守府でそういう役割を担っているのかと、高雄は思った。だが違うらしい。


「うん? 違うよ? 夜はちゃんと寝るよ」

「え、では何故今寝るのですか?」

「眠いから寝るんでしょ?」


 鈴谷は「何を当然のことを」と言わんばかりに問い返す。


「そ、そうですね……」


 鈴谷の勢いに、高雄は反論する気が失せてしまった。鈴谷は二段ベッドの下の方に転がり込むと、本当にすぐさま寝てしまった。高雄は一人、部屋に取り残されてしまった。


「わたくしは上を使えばよいということでしょうか……。別に寝たい訳ではありませんが……」


 高雄は私物をほぼ何も持ってきていないので、鈴谷が寝てしまうとすることもなくなってしまった。赴任早々に任務を任せるのは酷だという長門の思いやりではあったが、そのせいで暇なのである。晩御飯まで本当にやることがない。


 という訳で、高雄は自分の艦から荷物を運んでくることにした。家具などは流石に鎮守府に常備されているものを使うので、数回往復すれば全て運び込むことができた。


 荷物を運び込んで広げていると時間も過ぎ、日が落ちてきた頃、ようやく鈴谷が起き上がってきた。


「え、これ全部高雄ちゃんが持ってきたの?」

「はい。私物を持ってこないとやることもありませんので」


 と言うと、鈴谷は溜息を吐いた。どうしてそんな反応をされるのか、高雄には分からなかった。


「高雄ちゃんって何でも一人でやりたがるよね。よくないと思うよ、そう言うの」

「そ、そうでしょうか……。わたくしの私事ですし、鈴谷さんのお手を煩わせる訳には――」

「そういうのがよくないの! 少しは人を頼りなよ、高雄ちゃん」

「人を頼る、ですか……」


 高雄は人に頼るということがなかった。常に長姉として妹達の面倒を見なければならないと思っていたし、それ以外の同僚にも頼られるばかりで高雄が頼ることはなかった。それが高雄にとって当たり前だったのだ。


「うん。これからは私を頼ってね。まあ私じゃなくても、この鎮守府の誰かを頼ればいいよ」

「そ、そう、ですね……。それならば、鈴谷さんが一番頼れそうです」

「そう思ってくれると嬉しいよ」

「でも鈴谷さん、この部屋に来たらたちまちに寝てしまったではありませんか」

「手伝って欲しいことがあるなら寝てなかったって。言ってくれれば手伝ったよ」

「では、これからはそうするよう努力します」

「努力ねえ。まあ何でもいっか。それよりも、夜ご飯食べに行こう!」


 取り敢えず鈴谷に食堂に連れていかれたが、昼に見た通り、第五艦隊の食事は缶詰やら乾パンやらの携行食ばかりであり、高雄に言わせれば酷いものであった。しかもそんな様子だから、特に全員が集まることなく、各々勝手に棚から缶詰を取り出して、温めたり砕いたりして食べているだけである。


「長門さん、ここの食事は、いつもこのような感じなのですか?」


 たまたま一緒になった長門に高雄は尋ねる。


「うむ。いつもこうだ。うちには料理ができる船魄がいないからな」

「では、わたくしが料理をします! よろしいですよね?」

「お、おう。そうしてくれるとありがたいが、そんな負担を押し付けて大丈夫か?」

「この程度の人数ならば問題ありません」

「そうであれば、いつでも頼みたい。手間賃くらいは給料を割増しておこう」

「い、いえ、そんなことはして頂かなくても……」

「タダ働きは艦隊の規律を乱す。他の者がしていない仕事をするなら、報酬を受け取れ。これは命令だ」

「は、はい。ではそのように」


 という訳で高雄が第五艦隊の料理番をすることが決定した。

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