大和とエンタープライズ
翌朝、高雄はベッドの上で目覚めた。そのすぐ隣では妙高が寝息を立てている。やや汗臭いのは不快だったが、妙高が隣にいる幸せの方が遥かに優る。
「妙高、起きてください。朝ですよ」
「あ、ああ……うん、おはよう、高雄」
欠伸をしながら妙高は目を開けた。眠たそうな妙高を愛おしそうに見つめながら、高雄は静かに話し出す。
「わたくしには結局、分かりませんでした。あなたを妙高という個人として好きなのか、それとも鈴谷の代わりとしてしか見ていないのか……」
「そんなの、どっちでもいいんじゃないかな? 好きなことに変わりはないんでしょ?」
「妙高がそれでよろしいのなら……これ以上は気にしない方がよさそうですね」
「うん、そうだよ。難しいことは考えなくていいんだよ」
「そう、ですね。妙高と一緒にいられれば、わたくしは幸せです。それだけでいいのですね」
高雄は結論を先送りにするという結論を出して、一件落着であった。
その後、ツェッペリンは妙高とこっそり交渉し、高雄と一緒に寝ない日は一緒に寝てくれるという約束を取り付けることに成功した。高雄も妙高も一人で寝る権利を失ってしまった訳である。
○
さて、相変わらず部屋に引き籠もりがちな瑞鶴と大和にも、波乱が迫っていた。正確には大和が波乱に近寄ろうとしているのだが。
「瑞鶴さん、大和はエンタープライズと会うべきだと思うんです」
「え? エンタープライズと……? そんな必要はないと思うけど」
「暫くはアメリカ軍と行動を共にする予定、なんですよね? でしたら、エンタープライズを避け続けるのも、現実的ではないかと」
「そ、そんなことはないわ。この宿舎に来させなければ二度とエンタープライズの顔を見ずに済むわよ」
「瑞鶴さん……そこまで気を遣われると、大和は逆に傷付きますよ?」
大和は冗談めかして言ったが、瑞鶴は大和の言葉を一から十まで間に受けてしまう。
「そ、そう……。ごめんなさい。ただ私は、あなたをもう失いたくないだけで……」
「そ、そんなに真剣に受け取ってもらわなくても大丈夫です。ですが、エンタープライズと会っておきたいというのは、本当です」
大和の切実な願いを拒否するのは、瑞鶴には無理だった。瑞鶴は深呼吸してしゃがみこみ、ベッドの縁に座った大和に向かい合う。
「……本当に、大丈夫なのね? エンタープライズは……あなたを殺したような奴なのよ?」
「大丈夫です。それに、大和は死んではいませんよ」
「ま、まあそうだけど、それは特別って言うか……。いえ、あなたの気持ちを尊重するわ。行きましょう」
瑞鶴は速やかに段取りを整えた。エンタープライズは瑞鶴が呼び出すと仕事を放り投げて即座に宿舎にやって来た。瑞鶴と大和が空き部屋の一室でエンタープライズを待ち受けていると、エンタープライズが扉を叩いた。
「とっとと入ってきなさい」
「まさか瑞鶴にお招き頂けるとは。それだけで私は幸せです」
「そういうのやめてよね、ほんと」
エンタープライズが部屋に入ってくる。車椅子に座った大和の後ろに瑞鶴が護衛のように立っており、拳銃を堂々と見せびらかしていた。
「あなたが、エンタープライズさん、ですか……?」
「ええ。私がエンタープライズです。もっとも、あなたを沈めたエンタープライズとは別人ではありますが」
「それは、聞いています。でも、あのエンタープライズの記憶はあると……」
「はい。同一人物のようで同一人物ではない、不思議な状態ですね」
瑞鶴が警戒の眼差しで睨み付けていても、エンタープライズは全く気に留めない。
「それで、わざわざ私に会いたいだなんて、どういう心情なんです?」
「特に用事がある訳ではありません。ただ、いつかは会っておかないといけないと、思っただけです」
「まあ確かに、永遠に顔を合わせないでいるのは不可能ですからね。どうですか? 私と会って、何か思うところはあるんですか?」
「そう、ですね……。思ったより、平常心のままです。あれは戦争ですから、エンタープライズさんへの恨みはありません。悪いのはルーズベルトで、軍人は何も悪くないですから」
「そうですか。ふふ、そんな小さい体なのに、強い心をお持ちですね。しかし、私は結構瑞鶴を傷付けました。それについての恨みはないんですか?」
そう言われると、大和も顔が曇る。しかしエンタープライズを恨んでいるとは決して言わなかった。
「仮に報復するとしたら……戦争を起こした政治家が相手です。エンタープライズさんは、その対象になりません」
「そこまで一貫しているとは、流石ですね。まあ大和さんのお知り合いは誰も殺していませんから、殺したらまた違うのかもしれませんが」
「それは……大和にも分かりません」
「そろそろいいでしょ、大和?」
瑞鶴が話を強制的に終わらせに入った。
「え、ええ、そうですね……」
「あら、もう終わりですか。では今度は瑞鶴とお話を――」
「拒否するわ。さようなら」
「そんなぁ。あなたの対応次第では、もっと協力してあげられるのに」
「結構よ」
「つれないですね。そんなところも愛おしいですが」
エンタープライズは瑞鶴と話ができただけで幸せなのであった。




