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エンタープライズの説得

「もういっそ、無理やり押し入ったら?」


 愛宕が提案するが、それには誰も賛同しない。


「愛宕さん……そんなことしたら一生嫌われますよ、多分。月虹もお終いです」

「そうかしら」

「当たり前です、愛宕。瑞鶴さんと仲違いしたら、わたくし達は路頭に迷うことになります」


 どうやら瑞鶴を部屋から出すのは無理そうなので、一同は共用の大部屋に戻り、再び作戦会議を開くことにした。とは言っても、こんな事態への対処の経験がある船魄などおらず、大した作戦が出てくる訳もなかった。


 しかし、その時であった。予期せぬ足音が聞こえてきたのである。


「何だ? 瑞鶴か?」

「あれだけ拒否して自分から出てくると思う?」


 やがて、扉を開けて一人の少女が現れる。真っ白い髪と赤い目をしたアメリカ人が、不気味に微笑みながら姿を現したのである。


「何だ貴様?」

「ふふ。船魄としてはお初にお目にかかりますね。私は原子力空母のエンタープライズです」

「な……何だと!?」


 月虹にとっても国連海軍にとっても最大の敵であったエンタープライズの船魄が、突然に姿を現したのである。ツェッペリンはすぐさま拳銃を抜き、その銃口をエンタープライズに向けた。愛宕も同様、エンタープライズをいつでも殺せるようにする。


「あらあら、そんな怖い顔をしないでくださいよ」

「何をしに来た、貴様?」

「瑞鶴が引き籠もりになってしまったと聞きまして、私としても困りますから、皆さんを手伝いに来たんですよ」

「アメリカ人を信用などできるか」

「まあまあ、ツェッペリンさん、アメリカ海軍は今のところは味方な訳ですし、銃は下ろしてくださいよ……」

「……うむ。分かった」

「愛宕も、そこまでする必要はありませんよ」

「分かったわよ」


 妙高と高雄の仲裁を受けて一触即発の状態からは脱することができたが、その二人とてエンタープライズを信用していないのは同じであった。


「それで……エンタープライズさん、本当に妙高達に協力するつもりはあるんですか?」

「ええ、当たり前じゃないですか。このまま瑞鶴が大和に執着しっぱなしでは、私のものにできませんからね」

「……ま、まあ、途中までは協力できそうですね」

「本当によいのか、妙高? こいつ、瑞鶴を引きずり出したらロクなことをしない気がするが」

「その時はその時で、何とかしましょう……。今だけは、エンタープライズさんは頼りになる気がします」


 今のエンタープライズはかつて瑞鶴が殺したエンタープライズとは別人だが、しかし記憶を受け継いでおり、ほとんど同じ人間のようなものだ。同じ人間として数えれば、瑞鶴の一番古い知り合いが彼女ということになる。


 妙高は一先ずエンタープライズと情報を共有し、彼女の助言を求める。やるかどうかの判断はあくまで月虹が担う。


「――エンタープライズさん、何か作戦があるのでしょうか?」

「11年前に大和を沈め、今日まで昏睡状態にしたのは、私です。ですから私が瑞鶴を挑発すれば、私を殺そうと部屋から出てくるかと」

「そ、それは……確かに部屋からは出てくるかもしれませんが……」

「私の心配は結構ですよ、妙高さん」

「あなたの心配なんてしてないでしょう。そんな状態の瑞鶴がマトモに話に応じるとは思えないってことよ」


 愛宕は敵愾心を剥き出しにして言う。


「あらあら、酷いことを仰いますね。まあその辺は何とかしますよ。一度私にやらせてくれませんか?」

「最悪の場合はこいつを殴り倒せば何とかなるだろう。よいのではないか?」

「ちょ、ツェッペリンさん、それは流石に……」

「構いませんよ、それでも。では行ってきます」


 エンタープライズがやけに乗り気だったので、妙高達は取り敢えずやらせてみることにした。エンタープライズは瑞鶴と大和の部屋の前に立ち、扉を叩く。


「おはようございます、瑞鶴」

「あ……? その声、エンタープライズか?」


 ツェッペリンも聞いたことがないような殺意の籠った声で、瑞鶴は応える。


「ええ、ご名答です。私の声を覚えていてくださるなんて嬉しいです、瑞鶴」

「何でお前がこんなところにいるんだ。私に殺されに来たのか?」

「ちょっと大和さんのご様子を伺おうかと思いまして。私に殺されるのはどんな気分かと伺いたく――」


 と言った瞬間、銃声と共に扉に風穴が開き、エンタープライズの髪束が少々床に落ちた。扉の向こうから大和が焦って色々言っている声が聞こえる。


「失せろ! 二度と私達に話し掛けるな!」

「そんなに私を嫌ってるんですか? 流石に悲しくなって――」


 二度目の銃声が鳴り響く。銃弾はエンタープライズの右腕を掠め、深い切り傷のような傷ができて大量の血が流れ出す。


 やはり大和に対する瑞鶴の愛情は半端なものではないようだ。それは分かっていたことではあるが、瑞鶴が扉越しに発砲してくるのはエンタープライズでも予想外であった。エンタープライズは無理そうだと悟って戻ってきた。


「おい、瑞鶴が出てこんではないか」

「申し訳ありません、グラーフ・ツェッペリンさん。失敗してしまいました。どうやら私は嫌われ過ぎていたようです」

「そ、そんなことを言っている場合ですか! 早く応急処置をしませんと!」

「おや、そんなに私のことを心配してくださる人は初めてです」


 高雄は大急ぎで救急箱を取ってきてエンタープライズの銃創に包帯を巻き付けた。高雄は早く医者にかかるよう言ったが、エンタープライズは瑞鶴を優先すると言って聞かなかった。

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