アメリカ月虹同盟
再会を喜ぶのも束の間、長門・信濃・陸奥は長門の執務室に集まって大真面目な会議を開いていた。
「して、月虹の状況はどうなっている?」
信濃は長門に尋ねる。
「どうやらアメリカと同盟を結んだらしい。確かに、奴らが庇護を求める先としては、アメリカが一番になるのかもな」
「あの瑞鶴がアメリカに庇護を求めるか」
「消去法って奴でしょ」
陸奥は言う。確かに、日本は隙を見せたら瑞鶴を奪還しに動く可能性があるし、ドイツは月虹と仲良くする気はなさそうだし、ソ連は武力で月虹を取り込む気満々であるから、戦力を少しでも欲しがっているアメリカを選ぶのは必然と言える。
「しかし、月虹の手元にある大和はどうなる?」
大和の地位は宙に浮いている。今のところは現状維持ということで、フロリダ海峡の海上要塞ドックに収められているようだが。
「私には分からん。有賀中将は、今のところ動くつもりはないそうだが」
「瑞鶴がアメリカと組んだのであれば、大和を返還するのが道理」
「いや、そうとも限らんぞ。帝国海軍は月虹が有事の際に帝国に手を貸すことを条件に、大和を与えたのだ。その約定が撤回された訳ではない」
「アメリカと組むなど、帝国を裏切ったも同然では?」
「そうと決まった訳じゃないと思ってるから、皆大和を放置しているんでしょうね」
「……できるなら、大和を取り返したいところだが」
「今は争いを起こすべきではないだろう。ようやく平和が訪れたのだからな」
いずれにせよ、せっかくの平和を台無しにすることは池田首相が絶対に許さないだろう。帝国海軍は月虹に手を出せないのだ。
○
一九五六年十一月二日、アメリカ連邦フロリダ州ジャクソンヴィル、メイポート補給基地。
ノーフォーク海軍基地などがドイツ軍に吹き飛ばされたお陰で、フロリダのメイポート補給基地がアメリカ最大の海軍基地となっている。月虹は約束通りアメリカ海軍に整備を受けるべく、このメイポート補給基地に入っていた。アメリカ海軍艦艇より月虹の方が優先してドックに入れてもらえた。
さて、瑞鶴は色々と打ち合わせをすべく、アメリカ海軍大西洋艦隊司令長官ジョン・ケネディ中将と面会していた。ケネディ中将は護衛をつけず瑞鶴を訪れ、反対に瑞鶴艦内にはキューバ軍の兵士が二百名ほど詰めていた。
瑞鶴はケネディ中将を応接室に案内して、お互い高級なソファに座って向かい合った。
「瑞鶴、一先ずは我が軍の要請に応じてくれて感謝する」
「私達に利益があるから協力してあげてるだけよ」
「それでも、君達がアメリカ軍に強い不信感を持っていることは知っている。それを曲げてまで手を貸してくれたことには、感謝するしかないよ」
「あ、そう。そんなことより、早く修理を始めて欲しいんだけど」
「もちろんだ。取り敢えず、君の修理については特に問題ないだろう。一時的に乾ドックに入ってもらうことになるが、構わないかな?」
本格的な整備や修理を行う為には、一度艦体を陸揚げする必要がある。つまりその間は全く動けなくなるということだ。
「ええ、問題ないわ。あんた達が妙な気起こしても、高角砲と機銃で皆殺しにできるからね」
「了解だ。それと、大和についてだが、君自身の整備と同時に、目覚めさせられるか調べる予定だ」
「ええ。大和が起きなかったら、また別の条件を追加させてもらうわ。大和に妙なことしたら、その時はもちろん皆殺しよ」
「分かっている。取り敢えず、君の大和のところに案内してもらえるか?」
十数の技術者を伴い、瑞鶴とケネディ中将は瑞鶴の機関室の近く、三重の扉で防護された一室に入った。そこにはベッドが一つだけあり、黒髪の小さな少女が寝かされていた。
「この子が、大和の船魄か」
「ええ。あなた達が作業している間はずっと見張らせてもらうわ。さっきも言ったけど、妙なことしたらその場で撃ち殺すから、よろしく」
とは言うものの、瑞鶴は特殊能力で彼らに敵意があるかどうか知ることができるので、脅す意味はない。しかしそれでも、瑞鶴の目が届かないところで彼らが大和に触れることは決して許せなかった。
ケネディ中将との打ち合わせは一先ず問題なく終わり、月虹各艦は乾ドックに入って本格的な整備を受けることになった。
そんな中、問題が一つあった。当然のことだが日本製の兵装に用意がないのである。副砲程度ならアメリカ製でもなんとかなるが、主砲を交換する必要がある重巡洋艦達にその問題は顕著であった。主砲問題について話し合うべく、月虹の重巡洋艦三隻をデモインが訪れた。妙高の艦内で四名の船魄が相対する。
「私はデモイン。あなた達とは何度か交戦したことがある」
「あなたが、デモインさんですか……。お互い色々ありましたが、今は味方です。よろしくお願いします」
妙高はデモインと握手した。
「こいつ、お姉ちゃんを傷付けた奴でしょ? せっかくだしここで殺しましょうよ」
「愛宕! 幾らなんでも言い過ぎです!」
「私を殺すの? 本気で言っているの?」
「私は本気だけど」
「愛宕は少し黙っていてください。わたくしも流石に怒りますよ」
「お姉ちゃんが言うなら、仕方ないわね」
殺伐とした空気の中、会談は始まった。