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予想外の援軍

『ソユーズお姉ちゃん!?』

『大丈夫かい、ソユーズ?』

「ああ、問題ない。航行にも特に支障はないな」


 魚雷の2本程度で沈む柔な艦体ではない。スクリュープロペラや舵に直撃されない限り、特に問題はないのだ。


『クソッ! お姉ちゃんを傷付ける奴らは殺さないといけないのに! 弾が届かないよ!』

「落ち着け、同志ウクライナ。我々は戦艦だ。砲弾が届く訳がないだろう」

『分かってるけどさ……。ああもうムカつく!』

「長期的に見れば、我々は勝てる。時間は掛かるが」


 ソビエツキー・ソユーズ級戦艦の方が瑞鶴より優速なのである。相当な時間は掛かるだろうが、いずれ瑞鶴に追いつけることは確実なのだ。


『と、ソユーズ、敵の魚雷がそろそろ来るよ。私達が盾になっていう方針は変わらないかい?』

「無論だ。このまま受け止める」


 妙高達が発射した魚雷がソユーズ級戦艦の右舷に次々命中する。しかし既に魚雷の軌跡は判明しているから、急所を避けて受け止めることができる。航行に支障はなく、浸水による速力の低下は僅かである。


『少し速力が下がってしまった』

「浸水しているのだから当然だろう。大した問題ではない」

『いや、それなりに問題だと思うよ。元より敵艦隊とこちらの速度差は小さいから、この速度低下が与える影響は大きい』

「なるほど。確かに、同志ベラルーシの言う通りか……」


 1ノット未満の速度低下であっても追い付くのに掛かる時間は相当に伸びる。とは言え、時間を掛ければ勝てるという状況に変わりはない。ソユーズは戦闘を継続すると決定した。


 だが、その時であった。ノヴォロシースクからソユーズに報告が入る。


『同志ソユーズ、新手です。恐らくクイーン・エリザベス級戦艦が、敵艦隊に近付いています』

「何? それはどういう状況だ?」

『よく分かりませんが、敵対する様子はなさそうですから、敵の援軍なのでは?』

「イギリスだと……。何を考えている……」


 予想外の勢力が現れ、ソユーズは対応を迫られる。が、考える暇もなく、向こうから通信の呼び掛けがあった。ソユーズはすぐさま会話に応じる。


『私はイギリス海軍のクイーン・エリザベスです。妹のウォースパイトを伴い、貴女方を止める為にやって参りました』

「止めるだと? つまり月虹の連中を守るということか?」

『ええ、その通りです』

「どういう風の吹き回しだ」

『私は不名誉な行いが嫌いです。アメリカの討伐に手を貸してもらった恩のある相手を、戦争が終わって隙が見えたからと襲い掛かるとは、強盗と違いありません』


 その回答はソユーズにとって想定外のものであった。


「そ、そんな個人的な理由なのか? 政治的な思惑とかは、ないのか?」

『ありませんが、何か?』

「……ま、まあ、それはどうでもいいか。しかし、失礼なことを言うが、お前達で私達に勝てると思っているのか?」


 クイーン・エリザベス級戦艦とソビエツキー・ソユーズ級戦艦。幾らソ連が海軍後進国とは言え、建造された時代に30年も差があれば、その能力は隔絶している。排水量は倍以上であるし、主砲もソユーズ級の方が強力なものを1門多く装備している。おまけにエリザベス側が2隻なのに対しこちらは3隻だ。


『とても勝てはしないでしょう』

「分かっているのか」

『しかし、貴女方が私達を攻撃すれば、どうなるかは明白では?』

「……お前達のやりたいことは分かった。少し待て。対応を協議する」


 一旦電話を切り、ソユーズはベラルーシに意見を求めた。


『――クイーン・エリザベスはどうやら勝手に動いているようだが、月虹のように軍艦籍から抜けた訳じゃない。攻撃すれば確かに、イギリスと戦争になる』

「奴らの方が先に仕掛けてきたんじゃないか」

『彼女達はまだ何もしていない。ただそこにいるだけだ。加えて、私達の任務は非公式。イギリスに抗議することもできない』

「つまりは、諦めろと?」

『そういうこと。同志ソユーズは戦闘を継続しても何とかなる目算があるのかい?』

「いや、ない」


 イギリスはドイツの一部のようなものである。月虹の軍艦を確保することと、ドイツとの関係が悪化することと、どちらがより重大かと言えば後者だろう。ソユーズは艦隊司令官のゴルシコフ大将に問い合わせ、作戦中止の命令を受けた。


「全艦に告ぐ。作戦を終了する。撤収だ」


 結局、ソ連海軍の狡猾な作戦は失敗に終わったのであった。


 ○


 さて、クイーン・エリザベスは彼女自身が言っていた通り、本国の命令を受けず勝手に動いていた。エリザベスの行動を察知した本国から当然ながら怒りの電話が掛かってくる。


『おいエリザベス、自分が何をしているのか分かっているのか?』

「ええ、もちろんです、ヴァンガード」


 相手はグランド・フリート旗艦の戦艦ヴァンガードである。エリザベスにとっては上司にあたる。


『はぁ……。私の命令を聞かないどころか、ソ連と戦争になるところだったんだぞ』

「結果的にはなっていません」

『戦争になる危険を冒したことが大問題なんだ!』

「ソ連に月虹の戦力が渡るのは、我々としても不利益です」

『それはそうだが……。取り敢えず、とっとと戻ってこい』


 ヴァンガードは盛大に溜息を吐いた。人の話を聞かないエリザベスに手を焼かされている苦労人なのである。

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