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ソ連艦隊の襲撃、再び

 さて、比叡の晩餐会は基本的に和やかに進められた。愛宕だけはツェッペリンと同様に毒殺を警戒して毎度毎度高雄の料理の毒味をしていたが。いつもうるさい霧島も、美味しい料理に夢中にさせれば黙らせることができた。


「せっかくだから鳳翔と夕風も来ればよかったのに」


 瑞鶴はぼやく。


「あのお二人は、帝国の国家機密のようなものです。用が済めば速やかに内地に帰投するのは当然のことでしょう」

「もう機密とかないようなものだと思うんだけど」


 会議室限定ではあるものの、鳳翔は外国人を多数艦内に受け入れていた。とても国家機密が取る行動とは思えない。そう言われると、比叡は苦笑いするしかなかった。


「まあ……確かに。とは言え、何が機密かを判断するのかは大本営です。機密は機密なのです」

「なるほどねえ」


 晩餐会はやがて終わり、別れの挨拶をする時がやってきたようだ。


「では、皆様とはお別れになりますね。またお会いする時は、敵になっているかもしれませんが」

「あんたもそういうこと言うのね」

「事実ですから」

「姉さん! 瑞鶴とやり合っていいの!?」


 霧島はまるで空気を読まずに叫ぶ。


「またお会いする時と言ったでしょう。まったく、霧島にはまだまだ躾が必要のようですね」

「えー? 今度っていつー?」

「そんなことは分かりません。案外すぐかもしれませんが」

「やったー!!」

「まったく……。妹がご迷惑をお掛けしたことは、改めてお詫びしておきます」

「別に大丈夫よ。気にしないで」


 霧島のせいで風情というものがまるでなくなってしまったが、別れの挨拶を済ませ、比叡と霧島はインドに戻っていった。月虹はアメリカ討伐が始まる前の五隻、瑞鶴・ツェッペリン・妙高・高雄・愛宕だけに戻ってしまった。


 ○


 一九五六年十月十二日、フロリダ半島沿岸。


 さて、日本の艦艇はおおよそが撤退し終え、月虹は取り敢えずキューバに身を寄せることにした。月虹の当初の目的は帝国海軍を自由に動けなくする為にキューバ戦争を終わらせることであり、それはおおよそ果たされていたのだが、月虹の力を欲しがっている者は未だ数多い。


 フロリダ半島とキューバの間(キューバの領海内)に持って来た海上要塞でのんびりしていたところに、面倒な報せが飛んできた。瑞鶴がベッドでぐっすり眠っていたところに、急報を告げる着信音が鳴り響いた。相手はツェッペリンである。


「何よ……寝てたんだけど……」

『もう昼間だろうが。ロシア人共が近くにいる。我らを襲いに来たのだろうな』

「ソ連海軍が? はぁ……面倒臭い連中ね」


 取り敢えず海上要塞のドックに籠っていては何もできないので、月虹全艦は海上要塞を出て戦闘に備える。


「ツェッペリン、敵の戦力は?」

『戦艦が3、空母が1だな。戦艦はソビエツキー・ソユーズ級だ』

「あ、そう。レーニンはもう帰ったのかしら?」

『さあな。我は知らん』

『レーニンさんでしたら、既にソ連本土へ帰投している最中です』


 と、高雄は伝え聞いている。51cm砲艦を保有していないソ連にとって、レーニン級戦艦はドイツ海軍と対峙する上で必須の戦力。本土から長く離しておくことは党が許さないのだ。


「じゃあ、何とかなるかしら」

『瑞鶴さん、もう戦う気なんですか?』


 妙高は尋ねる。


「え、向こうから戦いに来たんでしょ? 当たり前でしょ?」

『まだそうと決まった訳ではないのでは……』

「そうとしか考えられないと思うんだけど、まあ何か言ってくるまで待ちましょうか」

『そうでないと困りますよ……』


 月虹から戦いを仕掛けたという口実を与えてはならない。最初の砲弾はあくまでソ連海軍に撃たせなければならないのだ。案の定、ソ連海軍から月虹に通信の呼び掛けがあった。ここはいつも通り瑞鶴が受ける。


『こちらはソビエト連邦海軍太平洋艦隊第一親衛隊群旗艦、ソビエツキー・ソユーズだ』

「わざわざ名乗らなくても分かるわよ。こちらは瑞鶴だけど」


 瑞鶴は世間話でもするかのように軽い口調だが、ソユーズは至って真剣である。


『瑞鶴、単刀直入に言おう。我が軍に加われ。秀でた戦闘能力を持つお前達ならば、我が海軍でも相当に良い待遇が受けられるだろう』

「そういう時は待遇を保証するとかじゃないの?」

『私にその権限はない』

「じゃあ事前に軍部と相談してくるとか、やりようはあるでしょ」

『うぐ……』


 瑞鶴に超弩級の正論をぶつけられ、ソユーズは何とも言い返せなかった。話を有耶無耶にして進めるのは、彼女の性格上無理である。であるので、いつもの流れでソビエツカヤ・ベラルーシが代わりに出てくる。


『こちらはソビエツカヤ・ベラルーシ。まあ、建前とかはどうでもいいんだ。私達にここで降伏するか戦うか、君達が選んでくれ』

「あ、そう。交渉する気はないって訳ね。条件次第では、あり得ないこともないのに」

『瑞鶴貴様、裏切る気か!?』


 ツェッペリンは電話に向かって叫ぶ。


「私達の後ろ盾になってくれるなら悪い話じゃないでしょ。まあ、その可能性は向こうから潰してきたみたいだけど」

『で、どうするんだい?』

「そりゃあ、降伏なんて嫌よ。戦うわ」

『そうか。まあ予想通りだが』


 と言って、通信は切られた。

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