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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第二十四章 戦後処理

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本当の終戦

『聞こえていますか? こちらはルメイ大将の下で幕僚長を務めておりましたティベッツ大佐です』

「こちらは大日本帝国海軍の連合艦隊司令長官、草鹿龍之介大将だ」

『連合艦隊司令長官とは……。そのような方とお話できて光栄です。ああ、いえ、そんなことより、我々はつい先程、ルメイ大将を捕縛しました。ルメイ大将は失脚したのです』

「何だと? もう少し詳しく状況を聞かせてもらえるか?」


 突然の言葉に草鹿大将も驚いたが、冷静になってみれば大した話ではない。ルメイがただ部下に見限られたというだけの話だ。民主主義を信奉していた者など極少数であり、ルメイが失脚すれば彼が作った合衆国正統政府とやらは瓦解するだけである。


「――では聞きたいのだが、君はどうしてルメイに従っていたんだ?」

『昔からの上司ですから、命令に従っていただけです。私自身は民主主義など興味ありませんよ』

「では、他の者もそうなのか?」

『命令に従っているだけというのが大半でしょう。残りは、本当にルメイを信じて民主主義を守り抜こうとしていた愚か者か、或いは処刑されることを恐れた戦争犯罪者くらいなものです』

「なるほど。ただ命令に従っていただけの者に罪は及ばないと、君からも伝えておいてくれたまえ。こんな茶番は、これで終わりにしよう」


 ルメイは国連軍に生きたまま引き渡され、合衆国正統政府は速やかに解体された。国連軍の最後の軍事的な役割は、これで終わった。今後もアメリカの占領統治を行う機関として存続することにはなるが。


 ○


 一九五六年九月十八日、ワシントン特別区、首相官邸ホワイトハウスの跡地。


 ニクソン首相はルメイの反乱を鎮圧するまでという条件でアメリカの最高指導者に留まっていた。その反乱が終息した以上、ニクソン首相の任期もここまでである。


「これ程早く反乱を鎮圧するとは、流石の手腕です」


 シュニーヴィント元帥は特に他意なく、ニクソン首相を賞賛する。


「いえいえ。私など大したことはしていません。西海岸のシャーマン大将と、日本軍の方々のお陰です」

「それだけではないと思いますがね」

「あのような無計画な蜂起、失敗することは最初から確実でした。驚くべきことは何もありません。しかし、私としては寧ろ、ルメイ大将に感謝もしているのです」

「と言うと?」

「ルメイが反乱を起こしたお陰で、戦争を続けたい強硬派や、国連の占領を拒絶する民主派など、これからのアメリカには不要な人材を除去することができました」


 ルメイに共鳴するような人間の多くは、これからのアメリカに不要な古い人間である。これらを合法的に隅に追いやることが可能になったのだ。


「まあ、かく言う私も、これからのアメリカには不要な人間の一人です。絞首台に送られても文句は言いません」

「それは裁判所が決めることです」


 いよいよ国際連盟によるアメリカの占領が始まった。国際連盟軍総司令官のロンメル元帥がアメリカ統治の最高責任者を引き続き務める。国連による統治は、アメリカに正統な政府が樹立されるまで直接統治とされた。


 まずは戦争犯罪人を裁くべく、国際軍事法廷の準備が始まった。


 ○


 さて、ルメイの乱が終わり、国連軍はアメリカ占領に必要な部隊を残して解散されることになった。特に国連海軍は完全に解散である。


「月虹の皆さん、お世話になりました。いずれまたお会いできることを楽しみにしています」


 鳳翔は別れの挨拶をしに、瑞鶴の艦内を訪れていた。


「鳳翔様を傷付けなかったことだけは評価できます。また会う時は敵になるでしょうね」


 不機嫌そうな夕風も一緒である。鳳翔は敵になるだろうという言葉を否定しなかったし、できなかった。


「別に私は帝国海軍と争うつもりはないんだけど、そうなるかもね」

「そうならないことを……願っています」

「鳳翔様……?」


 曖昧ながら日本最初の空母としての記憶も持つ彼女にとって、日本の空母は全て子供のようなものだ。鳳翔は瑞鶴と殺し合うことがないよう切に願いつつ、帝国本土への帰路についた。世界最大の空母である鳳翔にパナマ運河は元より使えないので、ユーラシア大陸を半周して戻ることになる。


 ペーター・シュトラッサーは作戦を終えるとあっという間にバハマに去っていったので、別れることになるのはもう一組。比叡と霧島である。比叡はせっかくなので、月虹の全員を招いて晩餐会を開くことにした。


「皆様、どうぞお召し上がりくださいませ。今宵はマナーなど気にせず、お楽しみになってください」


 比叡の食堂は調度品も一流であり、もちろん料理も一流であった。内地の高級レストランにでもいると錯覚しそうである。


「おお! こんなものを頂けるとは……!」


 妙高は前菜が届いただけで感激した。


「ふん。毒など入っておらぬだろうな?」


 ツェッペリンは異様な高待遇を怪しむ。


「ちょ、ツェッペリンさん……」

「万が一にでもお前に何かあったらたまらんからな」

「そう仰られると流石に心外ですわ! わたくしは決して、神聖な食事の場でそのようなことは致しません!」


 比叡はムキになって返事した。


「なればお前が毒味をせよ」

「無論です! 失礼いたします」


 比叡は奥からナイフとフォークを持ってくると、ツェッペリンの手元のパテの端っこを切り取って口に運んだ。


「これで満足でしょうか?」

「うむ。よかろう。……美味いな、これ」


 一度食事を始めると、ツェッペリンは毒を疑っていたのが嘘のように残さず食べた。

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