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反乱の終わり

 一九五六年九月十六日、カリフォルニア州サンフランシスコ。


「閣下、サンディエゴは陥落しました。日本・メキシコ連合軍はこのままロサンゼルスに攻め込むことでしょう」


 ルメイの幕僚長、ティベッツ大佐は報告する。ルメイの作戦は脆くも崩れ、サンディエゴはメキシコに奪還された。


「サンディエゴは一人残らず玉砕したんだな?」

「サンディエゴは音信不通ですから、不明です」

「まあいい。降伏した奴は専制の手先だ。どうせ役に立たなかった連中だろう」

「はぁ。それはともかく、ロサンゼルスもサンディエゴと同様、長くは持たないかと」

「最後の一人になっても戦い続けろと言っただろうが! 徹底抗戦だ!」

「お言葉ですが閣下、我々に勝ち目などありません。敗北までの時間を少し長くすることに、何の意味があるのですか」

「その時は、全員死ねばよい。民主主義は決して独裁に屈しないと世界に示し、我々は殺されるのだ。いずれ我々の意志を継ぐ誰かが、民主主義を復活させるだろう。我々は、民主主義の生贄となるのだ!」


 自らの罪の重さに耐えかねて、イデオロギーを信じ込むことで罪悪感を薄れさせうとしているのか。或いは本当に生来の狂人なのか。ルメイの心中を知る者は誰もいない。


 ○


 一九五六年九月二十日、サンフランシスコ沿岸。


 ルメイ討伐に出撃したアメリカ第1艦隊は、早々にサンフランシスコに到達していた。信濃率いる帰還途中の小部隊すら撃退できないルメイの海軍に、第1艦隊を食い止める術などある筈もない。海で使える戦力と言えば、信濃と大鳳に容易に完封されたPTボートくらいなものなのだ。


 海に面したサンフランシスコからは、まるで水平線が軍艦によって埋め尽くされているかのように見える。と言うのも、実は日本海軍も第1艦隊に助力するという名目で参戦していたからである。和泉と摂津など日本の第一・第二艦隊を中核とする臨時編成の艦隊が、サンフランシスコ攻略に加わっている。


『手柄を奪うようなら戦争だ。分かっているな、和泉?』


 ハワイは敵意を剥き出しにして和泉に呼び掛ける。


「手柄なんて興味はないよ。私はただ、圧倒的な戦力でルメイを絶望させるのが楽しいだけだ」

『変な奴め。これだから黄色い猿共は』

「はは。白い猿の能力では目先のことを考えるのが限界のようだね」

「おい、やめるんだ、和泉。それにハワイも」


 放っておくとすぐさま喧嘩を始める両名を、連合艦隊司令長官草鹿龍之介大将が諌める。連合艦隊旗艦和泉がいるならば、連合艦隊司令長官もいるのである。大将はこの件に限ってはシャーマン大将と密接な協力関係を築いていた。


「せっかく面白いところだったのに」


 和泉は呆れたような表情をわざとらしく作る。


「こんなことを面白がるな。我々の目的はアメリカ海軍を支援することで、喧嘩をしに来た訳ではない」

「そんなことは分かっているよ。私を馬鹿にしているのかな?」

「分かっているのなら、それに相応しい行動を取れ」


 内情はともかくとして、和泉型戦艦とハワイ級戦艦という世界最強の戦艦同士が表面上は協力しているのである。ルメイ陣営はさぞ絶望していることだろう。


 サンフランシスコを海上封鎖したところで、シャーマン大将はルメイに降伏を呼び掛けた。ルメイが戦争犯罪の咎で処刑されることは間違いないだろうが、この反乱については不問にし、部下の誰も罪に問わないという寛大な処置であった。これはニクソン首相直々の指示でもある。


 しかし、ルメイは降伏しなかった。


『我々は民主主義の砦である! 我々は独裁者の手先には決して屈しない! 我々は民主主義の勝利を勝ち取るか、或いは専制の手先によって殺されるまで、決して歩みを停めないのだ!』


 ルメイはそう宣言したのである。


『これは、話になりませんな』


 シャーマン大将は草鹿大将に通信を繋いで、心底呆れたように言った。


「ええ、まったくです。ルメイが降伏することはないでしょう。徹底的に武力で殲滅するか、或いは内部崩壊を促すか、くらいしかありません」

『後者であれば楽ですが、上手くいきましょうか』

「まさかルメイの部下までもが奴のような狂人ではないでしょう。マトモな人間が残っていれば、十分に期待できるかと」

『そう願います』


 一先ずサンフランシスコは包囲するだけで手を出さず、草鹿大将とシャーマン大将は様子を見ることにした。


 ○


「閣下、選択肢は二つです。降伏するか、サンフランシスコを放棄して内陸部で抵抗するか。どうされますか?」

「どちらも論外だ! 私は決して退きはしない!!」

「では、ここで殲滅されるのを待つしかありませんね」


 ティベッツ大佐はこんな土壇場で裏切ることを好まず、ルメイと心中して名誉を守るつもりでいた。


「…………そうだ、原子爆弾を使えばいい! あの独裁者の手先共を、原子爆弾で殲滅しろ!!」


 即応体制を維持するべくルメイが管理していた核兵器は、今なお彼の手元にある。原子爆弾を投入することは、技術的には可能である。


「本気ですか、閣下?」

「当たり前だ!」

「閣下、戦術核兵器の使用は、地獄の門でしかありません」


 戦略核兵器は戦争の抑止に有益であるが、戦術核兵器は戦場を地獄に変えるだけだ。


「国連の奴らも使っていただろうが!」

「あれは確かに戦術核とも言えますが、グレーです。直接の被害は出ていません」

「そんな御託は聞いていない!! これは命令だ! 今すぐあの目障りな連中を原子爆弾で吹き飛ばせ!!」

「閣下……。閣下がその気ならば、私は個人的な名誉より、人類の幸福を優先せざるを得ません」


 ティベッツ大佐はルメイの頭に拳銃の銃口を向けた。一度誰かがそう決意すれば、ルメイの幕僚達が彼を見限るのは一瞬であった。

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