ルメイの乱Ⅱ
一九五六年九月七日、メキシコ合衆国カリフォルニア州、サンフランシスコ。
ルメイは自らが奪い取ったサンフランシスコをアメリカ正統政府の臨時首都と位置付け、ここから全軍の指揮を執っていた。だがこの戦争に勝ち目がないことなど、最初から誰にも分かっていたことである。
「大将閣下、第1艦隊のシャーマン大将から入電です」
「奴は何と?」
「貴殿の要請に応じ貴殿をぶち殺しに行こうと思う、とのことです」
「――そうか。シャーマン大将も民主主義を裏切ったようだな。独裁者の手先と成り下がったか。しかし、我々は世界で最後の民主主義の砦である! 民主制は独裁制に必ず打ち勝つのだ! 我々の勝利は約束されている!!」
そのルメイの言葉を本気で受け取った者など、片手で数えられる程度しかいないだろう。
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同日。メキシコに逃げ込んでいた大日本帝国陸軍北米方面軍司令官の辻政信中将は、ついに反撃を行うと決意した。
「補給のない軍隊など、何の脅威でもない。我々はこれまで、この時に備えて準備を進めてきた。負ける筈がない」
アメリカが健在であってもいずれ反撃を行うべく、辻中将は準備を進めて来た。十式戦車1,500両を中核とする3個機甲師団は万全の準備を整えている。十式戦車はソ連のT54を日本向けに少々改良した戦車である。メキシコ軍と合わせて総兵力は60万程度だ。
「第8、第9戦車師団はサンフランシスコ方面に進軍し、ルメイの根拠地を叩く。第10機甲師団はラスベガス方面に進軍し、敵の戦力を引きつける。電撃的に進軍し、敵に反撃の隙を与えるな。私もサンフランシスコ方面に同行する」
ソ連に軍艦の建造技術を供与した代わりに、戦車や装甲車など陸上兵器の技術がもたらされた。帝国陸軍の技術力は世界標準に十分達している。
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南から日本軍の反撃が始まると同時に、アメリカ政府も動き始めていた。ニクソン首相はハワイにいるロンメル元帥と直接に電話をしている。
「ロンメル元帥閣下、今回の反乱を鎮圧するべく、我が軍を動かす許可をいただきたい」
『元よりアメリカ軍には手を出さないという条件が、シュニーヴィント元帥からお伝えしている筈ではありませんか?』
「それはそうですが、国連軍の占領下、勝手に軍を動かすのは許されないというのが普通かと」
『ふむ、そういうものですか。では無論、軍事力の行使を許可します。加えて我が軍も協力しましょう』
「有難いお言葉ですが、これは我が国の問題です。ドイツ軍の助けが必要な程まで落ちぶれてはいませんよ」
ニクソン首相はドイツ軍にも介入されたくなかった。それを口実に領土の更なる割譲を迫られることを恐れたからである。ロンメル元帥にそんな気はなさそうだが、ドイツ政府がそうとは限らない。ロンメル元帥はニクソン首相の考えを感じ取ったようだ。
『……分かりました。では兵器の援助だけ行いましょう』
「それはとても助かります。多分なご配慮に感謝します」
ドイツとアメリカは一応同盟国だったので、共通する装備も多い。ドイツからの支援はそのまま実戦に投入することができる。マーシャ元帥率いる陸軍およそ120万が、西海岸に向けて進軍を開始した。
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一九五六年九月九日、カリフォルニア州サンフランシスコ。
ルメイの『独立宣言』から3日が経過した。ルメイに味方する者など当然のように現れず、彼を仕留めるべく3方向から圧倒的な戦力が向かってきている。ルメイが使える兵士は西海岸に配置されていた50万程度であり、使える軍艦は一隻もなかった。
「第1艦隊はワシントン州の沿岸に到達しました。数日のうちにサンフランシスコに到達することは間違いありませんかと」
「ふん。海軍だけで何ができると言うんだ」
「日本軍がサンディエゴに到達しました!」
「死守せよ。最後の一人になっても降伏は許さん!」
「し、しかし、敵の航空支援が非常に強力であり、抗戦は困難とのこと」
「航空支援だと? ……メキシコにそんな航空機がある訳がない。敵に空母がいるな」
無駄に明晰なルメイの頭脳は、与えられた状況から直ちに状況を把握する。
「空母は確認されていませんが……」
「何百kmと先にいる空母を肉眼で見つけられる訳がないだろ! 今すぐ偵察機を飛ばして空母を探せ!」
撃墜されることを前提に、倉庫で余っているB29を180機ほど飛ばし、敵の空母を炙り出す。
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さて、こんな場所にいる空母が誰かと言えば、第五艦隊の面々であった。ようやくカリブ海に戻って長門達と合流できると思っていたところ、ルメイの反乱に巻き込まれ、地上への支援に駆り出されているのである。
『あ、あの、信濃さん……。敵の爆撃機が近寄って来ます……』
大鳳はおずおずと。
「我も確認している。数は僅かであるから、偵察と言ったところか」
『それじゃあ……こっちの位置はもうバレてますよね……』
当然のことだが、爆撃機より空母の方が遥かに巨大だ。こちらの電探が敵を捉えたということは、敵にはとっくに捉えられているということだろう。




