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反乱

「それで、私の身はどうなるんでしょうかね? 私は別に処刑されても構いませんが」


 ニクソン首相はおどけた調子でシュニーヴィント元帥に尋ねた。


「ニクソン首相閣下には、キューバ侵略を謀議した罪が問われています。しかし、あくまで主体となったのはアイゼンハワー首相です。死刑ということはないでしょう」

「そうですか。では誰が責任を取るのか、という話になりますが」


 戦争の責任は、誰かが取らなくてはならない。そうしなければ世論が納得しないからだ。ニクソン首相は自分を含めて誰かを生け贄に差し出すべきだと考えている。


「アイゼンハワー首相は既に死んでいるのです。それで世論の溜飲は下がるでしょう」

「そういうものでしょうかね」

「お言葉ですが、政治家を処刑して喜ぶのはアメリカ人とフランス人くらいなものです」

「……まあ、そういうことと思っておきましょう」

「無論、通例の戦争犯罪については、厳重に処罰します。死刑の可能性は大いにあります」


 国際連盟は政治的な意味での戦争責任をアイゼンハワー首相に被せると決めた。そして人道的な意味での責任、この戦争でアメリカに殺された無辜の民へ責任は、ルメイ大将に大部分を負わせる。戦後の生贄とするべく、アイゼンハワー首相はルメイに戦争犯罪となる仕事を片っ端から任せていた。


「それは無論です。我が国としても、ちょうど不必要な人材を処分できます」

「それはそれは。ともかく、一先ずは国連軍が駐屯するまで――」


 と、その瞬間であった。突然に爆発音が轟き、ドレッドノートの艦体が大きく揺られた。


「な、何だ、ドレッドノート!」


 シュニーヴィント元帥は突然の出来事に動揺しているが、ドレッドノートは落ち着き払っている。


「何者かから攻撃を受けています。しかしご安心を。この程度の攻撃では、艦内まで砲弾が貫通することはあり得ません」

「そ、そうか。敵の所在は確認できるか?」

「はい、既に。南東およそ15km地点、陸上に大砲が幾らかあります」

「ならば反撃だ。叩き潰すぞ!」


 元帥がそう言うと、ドレッドノートは目を丸くして、応えに窮する。


「何をぼうっとしている?」

「い、いえ。まさか私が戦える日が来るとは思いませんでしたので。ニクソン首相達は万一に備え、下に行ってください」

「了解だ」


 艦で最も安全な機関室に客人達を移動させつつ、ドレッドノートとシュニーヴィント元帥は艦橋に上がった。


「元帥閣下がここに来られる必要はないと思いますが」

「ああ、確かに。ツェッペリンに乗っていた頃の癖がまだ抜けていないらしいな」

「左様ですか。しかし、目標は既に捕捉しています。後は撃つだけです」

「場所は? 周囲に民家などはあるか?」

「そのようなものは確認できません」

「ならば存分にやってくれ」

「はっ。P、Q、Y砲塔、撃ち方始め!」


 敵はドレッドノートから見て後方におり、港から出る暇もないので、その状態で交戦することになる。現代の戦艦は砲塔が一直線に並んでおり真後ろ方向に火力を発揮しにくいが、ドレッドノートは舷側にも砲塔が配置されているので、真後ろに3基6門の主砲を向けることが可能である。


 イギリス人は謎のこだわりを持っているらしく、現代ではとても実用的ではないドレッドノートも、実戦に投入できる万全の整備がなされていた。加えて、ドレッドノートは当時は存在すらしなかったレーダーを使いこなしている。いざと言う時に備えて訓練を欠かさなかった証拠だ。


 戦闘は、あっけなく終了した。


「確認した敵の陣地は全て破壊しました」

「よくやった」

「まだ他から攻撃を受ける可能性があるかもしれません」

「まあ、その時はその時だ。一先ず下に戻ろう」


 50年前の骨董品とは言え、ドレッドノートは戦艦である。ドレッドノートの装甲を撃ち抜けるほど巨大な大砲を気付かれずにボルチモアに運び込むなど非現実的だ。シュニーヴィント元帥とニクソン首相は再び食堂で相まみえた。


「彼らは、首相閣下を助けに来たのでしょうか?」


 元帥が問うと、ニクソン首相は迷いなく首を横に振った。


「和平なんて真っ平御免という連中が、私を殺そうとしたんでしょう。国内の統制は取れていなかったようです」

「そうでしたか。とは言え、幸いなことに敵は頭が悪いようです」

「ええ、まったくです。戦艦に野戦砲で勝てる訳がない。ドレッドノート、よくやってくれた。感謝する」

「お褒めいただき光栄です」

「で、敵は誰なのでしょうか? 降伏に反対する人間なんて幾らでもいるでしょうが」

「これほど派手にことを起こせるだけの力を持っているのは、ルメイ大将でしょうね。どうせ処刑されるならアメリカをぶち壊そうと思うのは、そう無理もありません」


 ニクソン首相の言葉は単なる予想だったが、すぐにルメイの側からそれを証明してきた。


「た、大変です! たった今、ルメイが合衆国から独立すると宣言しました!」


 ルメイが縄張りにしている西部が、アメリカ合衆国正統政府を自称して独立を宣言したのである。

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