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エンタープライズの反逆

「さて、何をしましょうか。自由とは言いますが、こんな状況で何ができますかね」


 マッカーサー元帥の遺体を眺めつつ、エンタープライズは呟いた。エンタープライズは艦隊のど真ん中におり、反乱など起こしてもすぐさま戦艦に沈められるだけだろう。


「ああ、そうだ。いいことを思い付きました」


 エンタープライズは数機の爆撃機を密かにワシントン方面へ向かわせた。


 ○


 その数分後。アイゼンハワー首相は国連軍の制空権の下でも地上の執務室で仕事をしていた。ロンメル元帥の性格ならば市街地への爆撃は行わないと考えていたし、交渉相手である政府を攻撃するのは愚策である。


 もちろん、万が一に備えて警戒は常に怠っていない。その時、ホワイトハウスの見張り台が接近する機影を確認した。


『急速に接近する機影、およそ10を確認しました!』


 その報告はアイゼンハワー首相の執務室に直通である。


「敵の機種は? 爆撃機か?」

『確認中です! ……あれは、友軍機です! ヘルダイヴァーです!』

「エンタープライズの爆撃機か。それが何でこんなところに」


 地上への爆撃は特に命じていない。爆撃機が来たところで制空権を確保することには何の役にも立たない。ヘルダイヴァーがここにいる筈がないのだ。首相は一体何事かと考えるが、見張りからの通信が思考を遮る。


『こ、ここに急速に接近してきています! 突っ込んできます!!』

「何だと? まさか、反乱か……!」


 確かに、空をエンタープライズただ一人に任せっきりのこの状態。エンタープライズが反乱を起こすことは容易だ。反乱と断定し、アイゼンハワー首相は大急ぎで地下壕に向かって走り出す。


「そんなことをすれば奴も死ぬというのに、何を考えている……。まさかマッカーサーに叛意が……。っ!」


 だが、気付くのが遅かった。エンタープライズの精密な爆撃によってホワイトハウスは一瞬にして瓦礫の山と化し、アイゼンハワー首相や閣僚達はほぼ全滅した。


 ○


 内閣が全滅する事態を避けるべく、閣僚全員が同じ場所に集まることはない。ホワイトハウスの地下司令部にいたニクソン副首相は無事であった。スプルーアンス元帥も同じく地下にいて無事である。


「ホワイトハウスを爆撃するとは、ロンメルも思い切った作戦に出たものだ……」


 ホワイトハウスの残骸の真ん中でニクソン副首相は呟くが、スプルーアンス元帥はその見解を否定する。


「副首相閣下――いえ、アイゼンハワー首相が死んだ今では閣下こそが首相ですが――どうやら犯人はエンタープライズのようです」

「エンタープライズ? エンタープライズが裏切ったって言うのか?」

「ホワイトハウスを爆撃したのは海軍の爆撃機でした」

「……いや、説明は要らんな。元帥がそう言うのなら信じよう」


 ニクソン首相は国連軍がアメリカの機体を鹵獲して使っている可能性なども思い付いたが、今は一秒でも時間が惜しく、スプルーアンス元帥の判断を信じることにした。


「で、反乱を起こしたエンタープライズの処遇は?」

「エンタープライズ乗組員からは、エンタープライズの艦橋が閉ざされていて入れないと」

「そういう報告が来るということは、艦橋の兵士は全滅しているということか?」

「その通りです。それ自体は、国連軍に艦橋を攻撃されたからのようですが」

「分かった。状況は理解した」


 流石は元海軍軍人と言ったところか。これだけの会話でニクソン首相は事の顛末をほぼ完全に把握した。


「現場の艦隊は、今のところこの事実を知らないのだな?」

「はい。エンタープライズも普通に戦闘を継続しています」


 エンタープライズがホワイトハウスを爆撃したところで、海の上では何も変わらない。エンタープライズ周囲の艦は何も知らずエンタープライズを護衛し続けているし、エンタープライズ自身も国連軍と交戦を続けている。


「反乱など起こして国連軍と戦い続けているのは奇妙だな……。内通などはしていない突発的な行動……いや、もしもそれがバレたら、隣の戦艦に沈められるだけか」

「首相閣下、どうされますか? エンタープライズを沈めるのが道理というものでしょうが」


 スプルーアンス元帥の言葉も歯切れが悪い。敵前で反乱を起こした兵士など処刑するに決まっているのだが。


「彼女が国連軍と内通しているのなら、我々は勝ち目がない八百長試合を戦っていることになる。そうでないのなら、これは彼女なりに戦争を終わらせようとしての行動だ。いや、目的が本当にそうかは分からないが、我々はそうすることができる」

「つまり、国連に降伏するおつもりですか?」

「ああ。せっかくの機会なんだ。元帥は反対か?」

「いいえ、まさか。マーシャル元帥がどう考えているかは分かりませんが、恐らくは首相閣下に賛成することでしょう」

「だろうな。適当な台本を考えて、降伏しよう。こんな戦争はもうお終いだ」


 ホワイトハウスにいなかったマーシャル元帥は当然無事であり、ニクソン首相の提案にも賛成した。ニクソン首相は翌日、全世界に向けて次のように発表した。


『――この戦争はアイゼンハワーという狂人が起こした戦争であり、彼が死んだ今、我々に戦闘を続ける意思はありません。よって、私はここに首相として、アメリカ合衆国が国際連盟に降伏することを宣言いたします』

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