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エンタープライズの決断

「流石に守りが堅いわね……」

『あんなに大言壮語を吐いていた割に、大したことないじゃないか、ツェッペリン?』

『何だと!? お前こそ何もできておらぬではないか! 大体、妹の分際で生意気なのだ貴様は!』

「はいはい、痴話喧嘩はまた今度ね」


 世界最強の船魄をもってしても、エンタープライズに致命傷を与えることはできないでいた。いや、致命傷どころか、爆弾一つすら投下できていない。


『瑞鶴さん、この調子だと地上の人達が困ってしまうと思うのですが……』


 妙高は言う。エンタープライズを沈めるよう急かしてくるとは、なかなか思い切ったものだ。


「分かってる。何とかしないといけないんだけど……」

『では、エンタープライズさんの船魄を直接狙うというのはどうでしょうか』


 思い付いたことをすぐ口に出してしまう妙高の癖が出た。


「え、どういうこと?」

『ええと、船魄は艦橋にいますよね? しかもアメリカの船魄は艦橋から動けない。そこを機銃とかで攻撃すればいいんじゃないでしょうか』

「エンタープライズを直接撃ち殺すってことね。正直言ってあんまりやりたくないけど」

『そうなんですか?』

「何か、ズルした気分じゃない」


 人間の軍艦でも艦橋を吹き飛ばされれば戦闘能力は大幅に低下するが、全く動かなくなる訳ではない。第二艦橋や作戦指揮所や防空指揮所など、他にも指揮機能を持つ場所は存在するからだ。


「それにあんた、エンタープライズを殺せって言ってるようなもんだけど、それでいいの?」

『より多くの命を守る為なら、仕方ないかと……。ですが、殺さずに済むならその方がいいです』

「殺さずに艦橋を吹き飛ばせって? まあ不可能ではないと思うけど、流石に狙ってやれるものじゃないわ」


 艦橋には船魄と艦を繋ぐ制御装置が色々と組み込まれている。瑞鶴もそうだが、船魄固定式のアメリカ艦艇であれば尚更だろう。艦橋にある装置を幾らか破壊するだけで無力化できる可能性は高い。とは言え、耐久力は生身の人間でしかない船魄を傷付けずに周囲のものを破壊するなど、意図してできる筈がない。


『それもそうですね……。ですが、今優先すべきはドイツの人達の命です。本当ならエンタープライズさんも殺したくはないのですが』

「分かった。やれるだけやってみるわ」


 妙高の強い推しに、瑞鶴も折れた。戦闘機で対艦攻撃を行うというのは瑞鶴にも経験がないが、対応できない訳ではない。


 ○


「おや? 瑞鶴の飄風です。戦闘機なんて何を考えてるんでしょうか」


 瑞鶴が艦上戦闘機を繰り出してきたと、エンタープライズはマッカーサー元帥に報告する。


「まさか戦闘機で特攻するつもりじゃないだろうな」

「さあ。私に聞かれても分かりませんよ」

「とにかく、突っ込んでくるなら全部確実に落とせ」

「ふふ。艦上戦闘機が相手だと、それも厳しいかもしれません」


 当然のことではあるが、艦上爆撃機や艦上攻撃機と比べ艦上戦闘機は遥かに身軽である。それが突っ込んできたら、エンタープライズも迎撃しきれないかもしれない。


「あら、本当に突っ込んできました」

「撃ち落とせ!」


 10機ばかりの飄風が急降下してきた。マッカーサー元帥はやや焦った声音で命令する。エンタープライズは真面目に40mm機関砲で迎撃するが、やはり落とし切るのは難しかった。


「おやおや、そういうことでしたか」


 飛行甲板に真正面から突っ込む勢いで降下してくる6機の戦闘機を見て、エンタープライズは瑞鶴の目的を察した。だがそれをマッカーサー元帥に伝えるには、時間が足りなかった。


 一瞬だけ機首をエンタープライズの艦橋に向けた戦闘機は、30mm機関砲で艦橋を薙ぎ払う。艦橋の硝子は粉々になり、弾が当たった兵士は身体が真っ二つになる。エンタープライズ周囲の機械も破壊されたが、しかしエンタープライズ自身は奇跡的に無傷であった。


「私も幸運艦の端くれ、ということでしょうかね」


 一瞬にして血みどろの地獄と化した艦橋を、エンタープライズは見渡した。するといつも隣にいる顔が見えなくなったことに気が付いた。


「元帥閣下、貴方も撃たれてしまったんですね」

「そのよう、だな……。クソッ……」


 マッカーサー元帥は腹が半分ほど抉られ、2つにちぎれてしまいそうな有様であった。だが辛うじて息はあった。


「お前は、無事、なのか……?」


 掠れる声で元帥は問いかける。


「ええ、私は無事です」

「そう、か……。それは、よかった…………」

「ふふ。生きている間は邪魔としか思っていませんでしたが、死んでしまうと寂しいものですね」

「おい……そういうことは、俺が死んでから、言え……」


 元帥は血を吐きながらも冗談を欠かさない。


「まだ生きてらしたんですか。てっきり死んだかと」

「まあ、残り、数分の命、だろうがな……」

「そうですか。では遺言でも聞いて差し上げましょう」

「遺言、か……。そう、だな……。お前に、言っておく。お前のお目付け役は、もう、死ぬ。お前は、好きに、していいんだ」

「好きに、ですか……。それは楽しそうですね。とても心が踊ります」

「ああ、お前は、その方が、似合ってる…………」


 今度こそ、マッカーサー元帥の心臓は永遠に止まった。そして彼の言った通り、エンタープライズを縛っていた兵士達は死んだか重傷で動けない。


「さて。好きにするとしましょうか」


 エンタープライズは侵入者に備えた隔壁を下ろし、艦橋からアメリカ兵を締め出す。そして艦橋に生き残って邪魔をしてくる士官は容赦なく撃ち殺した。エンタープライズを縛るものは何もない。

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