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首都決戦

 ニューヨークは消滅した。最大の都市を失ったことによりアメリカ経済はいよいよ崩壊。継戦能力は大幅に失われたと言っていいだろう。しかし、アイゼンハワー首相はなおも降伏を拒絶していた。


「ニューヨークなんぞ、ただ金持ちが集まってるだけの街だ。工場は一つもない。軍需物資の生産には何の影響もないのだ!」

「そうは言いますがね、首相閣下、ニューヨークには我が国の経済を維持するのに必要な機能が詰め込まれていました。それが瓦礫の山となったのですから、経済への影響は深刻です」


 ニクソン副首相はそう言うが、首相は聞く耳を持たない。


「経済なんぞクソ喰らえだ! 国民全員が工場で働いていれば、経済など必要ない!」

「流石に極端過ぎると思いますが」

「戦争の継続に必要なもの以外は全て切り捨てる。それが総力戦だ」

「そんなことを言っている時点で勝ち目がないと思うんですが――」


 と、その時であった。ロンメル元帥が早速次の演説を行っているという報告が飛んできたので、アイゼンハワー首相は急いでラジオのスイッチを付けさせた。


『――アメリカの如何なる都市にでも核攻撃を行う能力があるということは、これで分かったでしょう。大陸間弾道ミサイルを撃墜することは不可能ですから、我々は今すぐホワイトハウスに原子爆弾を投下することもできるのです。無論、我々は民間人を犠牲にするつもりはありません。無警告で原子爆弾を使用することは決してないと、ここに約束します。


 さて早速ですが、我々は次の目標を決定しました。バージニア州リッチモンドです。攻撃はちょうど1週間後に行われます。国連軍は核攻撃までの間、リッチモンドへの攻撃を中止します。民間人も兵士も、リッチモンドにいる全ての人々は直ちに避難してください。


 何度も申し上げている通り、国際連盟はいつでもアメリカの降伏を受け入れます。アイゼンハワー首相並びに閣僚諸君には、賢明な判断を下すように期待します』


 最後の砦と位置付けられたリッチモンドへの核攻撃が宣告された。大陸間弾道ミサイルを撃墜するのは不可能であるから、リッチモンドが1週間後に突破されることは確定したのである。ワシントンまでの道を遮るものは最早ない。


「どうされるんですか、首相閣下?」

「…………リッチモンドまで瓦礫の山にする必要はない。どうせ陥落するのなら、こちらから明け渡す方がいい。ロンメルに伝えろ。リッチモンドは無血開城させるから、核攻撃は中止しろとな。マーシャル元帥、それで構わないな?」

「もちろんです。無意味に都市を一つ破壊する必要はないでしょう」


 アイゼンハワー首相は速やかにリッチモンドを明け渡し、更なる核攻撃は回避された。ロンメル元帥としても、リッチモンドを突破できるのなら、核攻撃を行う必要は全くなかった。


「さて、これでワシントンは丸裸です。我々に残された手段は、首都に立て籠って決戦を挑むか、或いはワシントンを捨てて抗戦するか、その二択です」


 マーシャル元帥は首相に選択肢を提示した。


「ワシントンを捨てるか……。確かに我が国は広い。国連軍に占領されているのはほんの一部だ。幾らでも逃げられる場所はある」

「しかし首相、ワシントンが陥落したなんて話を聞いたら、連邦は空中分解します」


 ニクソン副首相は言う。アメリカは広いが、それ故に中央からの統制は緩い。先の大戦の末期には多くの州がルーズベルトに反旗を翻し、合衆国は簡単に崩壊した。ワシントンが占領されればもっと酷いことになるのは想像に難くない。


「決めたぞ。首都決戦だ。ワシントンは誰にも渡さない。動ける部隊は全部集めて徹底的に抗戦しろ!」


 アイゼンハワー首相の決断は、首都で敵を迎え撃つことであった。国連軍もワシントンを核攻撃することは躊躇うに違いない。ここでなら思う存分抵抗することができるだろう。


 ○


 一九五六年八月十七日、ノースカロライナ州キティホーク沿岸。


 チェサピーク湾の80cm要塞砲は依然として健在であり、ワシントンに水上から乗り込むことはできないが、空から攻撃するのは容易である。リッチモンドを確保した国連軍はいよいよワシントンに乗り込む段階に入った。国連海軍はワシントンから330km程離れたキティホークの沿岸に大西洋艦隊の空母を集結させ、大規模な航空援護を行っている。


 未だにいがみ合っている月虹とドイツ軍であるが、流石に今だけは協力していた。とは言ってもある程度の線引きがあって、月虹はエンタープライズなどアメリカ海軍を攻撃してその注意を引き、ドイツ軍は陸上の敵を攻撃するという体制である。


「流石にこんな大量の艦載機に襲われたら、エンタープライズも防戦一方って感じね」


 と、瑞鶴は呟く。国連軍は実に2,300機の艦載機を飛ばしている。エンタープライズは自分自身と僚艦を防衛することに精一杯であり、地上への航空支援はほぼ提供できていなかった。


『ふはは! エンタープライズめ、とっとと沈めてくれようではないか!』


 ツェッペリンは楽しそうに言う。


「沈められるなら沈めてもいいけど、その必要はないわ」

『後々の為にも奴は沈めておいた方がいいのではないか?』

「後々って言ってもね。この戦いが終われば、この戦争も終わるわ。エンタープライズは敵じゃなくなる」

『ツェッペリンさん、沈める必要はありません。この戦争が終わった時、アメリカ海軍はあってくれた方が、妙高達にとって得になります』

『そ、そうか。まあその程度、造作もないことだがな!』


 妙高の言うことは素直に聞き入れるツェッペリンであった。

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