表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
474/606

二度目の原爆投下

 一九五六年七月三十日、ハワイ王国オアフ島、国際連盟軍最高司令部。


 リッチモンドは戦場と化した。ロンメル元帥が住民ごと吹き飛ばす無差別攻撃を禁じている為に、戦闘は建物一つを丸一日掛けて奪い合うような泥沼と化している。アイゼンハワー首相の狙い通り、数ヶ月程度の時間を稼ぐことは十分に可能だろう。


 そんな戦況の報告を聞き、ロンメル元帥は頭を抱えていた。


「総司令官閣下、このままでは被害が拡大するだけです。爆撃を許可するべきではありませんか?」


 山下元帥がロンメル元帥にそう提案するが、ロンメル元帥は受け入れられない。


「それは民間人を積極的に殺害することを意味します。国連軍がそのような作戦を取るわけにはいかないのです。それではアメリカ軍と何も変わらなくなってしまう」

「我々の国民の命と、アメリカ人の命と、どちらの方が重いかは明確ではありませんか?」

「命に貴賎はありません。ルーズベルトやチャーチルのような犯罪者は別ですが。現場の兵士や一般市民に、生きるに値しない命はありません」

「左様ですか。しかし、いずれにせよリッチモンドで泥沼の戦いを続けるのは厳しいと言わざるを得ないのでは? 何か他の手段を講じるべきかと」

「他の手段、ですか……。原子爆弾で脅迫する、という手はありますが……」


 ロンメル元帥の歯切れが急に悪くなる。その手段は可能な限り避けたいものであったが、合理的に考えればそれが最善である。ソ連軍がワシントンに到達するまで待つ、というのも考えられるが、それはソ連軍に多大な犠牲が出るだけだ。


「妥当かと。しかし、以前に瑞鶴達が無人の荒野に原子爆弾を落とした時は、効果がありませんでした。今度は都市を標的にしなければならないでしょう」

「避難勧告を出し、十分な避難の時間を確保した上でなら、承認できます」


 あくまで原子爆弾の威力を見せつけることが目的である。荒野に落としたところで原子爆弾の威力は大して伝わらなかっただろうが、都市を破壊すれば頭の悪いアメリカ人にも事の重大さが伝わるだろう。


 ロンメル元帥は、原子爆弾の投下を承認した。そして全世界に向けて作戦を公表する。


 ○


『――国連軍は、ニューヨーク市へ原子爆弾を投下することを決定しました。場所はアメリカン・インターナショナル・ビルディングの直上。日時は1週間後の8月6日、現地時間にして12時丁度です。


 我々の目標は殺戮ではありません。ニューヨークに住む全市民は、直ちに脱出してください。原子爆弾の投下を阻むこと、原子爆弾の炎の中で生き残ることは不可能です』


 エンパイア・ステート・ビルとクライスラー・ビルは既に月虹が爆破しているので、このアメリカン・インターナショナル・ビルがニューヨークで一番高い建造物である。


 ラジオ放送でその発表を聞いたアイゼンハワー首相は流石に驚いた。だが、その程度で降伏する訳もなかった。


「ふざけた発表だが、ロンメルは本気だろう。今すぐニューヨークから全市民を退避させろ! 軍用車もありったけ投入して構わん。それと、動ける兵士はテント作りだ」


 軍を総動員してニューヨークからの避難が開始された。ニューヨーク市民を受け入れられるだけの住居など存在しないので、テントやプレハブも全速力で用意する。


「避難はいいとして、ロンメルは原子爆弾の投下を阻むことは不可能と言っていたな?」


 首相はマーシャル元帥に確認した。


「その通りです」

「アメリカを舐めやがって。場所と時間を指定して、迎撃されないとでも思ってるのか?」

「ロンメルには余程の自信があるようです。何の根拠もなくこんなことを言うとは思えませんな」

「だからニューヨークは諦めろと言うのか?」

「迎撃に失敗すれば、その場の全ての兵士が死ぬことになります。まあ船魄達に任せれば、犠牲者は出なくて済むでしょうが」

「敵は艦上戦闘機では迎撃できない高度から原子爆弾を落とすつもりだろう。高射砲と要撃機は必要だ」

「確かに。では、せめて志願を募ることにしましょう」


 失敗すれば全員即死という条件付きであったが、ニューヨーク守備隊への志願は予想以上に多く、くじ引きで選抜することになった。総勢およそ3,500人の兵士が、ニューヨーク各所に設置された高射砲と要撃機のパイロットに配置された。


 アイゼンハワー首相は一般市民全員を避難させるよう命じたが、中には断固としてニューヨークに残る者もいた。軍を信用している楽観的な者や、死んでもニューヨークに残ると考えている者である。そんな死にたがりに対処する人手はないので、首相は彼らを放置することにした。


 ○


 一九五六年八月六日、グリーンランド、カースートスップ、ドイツ軍チューレ基地。


 アメリカに非常に近く、アメリカに侵略される危険に常に晒されているグリーンランドには、3個師団ほどのドイツ軍が常駐している。3個師団とは言っても普通の師団は2つだけであり、残り1つは核兵器を運用する大統領直属の親衛隊である。


「ブラウン博士、本当にこれをニューヨークのビルに命中させることなんてできるんですか?」


 ミサイルとロケットの父、世界初の有人宇宙飛行を達成させたドイツのヴェルナー・フォン・ブラウン博士は、親衛隊員にそう問われた。彼らの目の前には巨大な弾道ミサイルが何本も横たわっている。


「目標は近い。現在の命中精度ならば、誤差は半径10m以内に収まる。建物一つを狙撃することも十分に可能なのだ」

「まあ、多少外したところで、目撃者は全員蒸発しますから大丈夫でしょう」

「目撃者がいないからと言って妥協することは間違っているぞ。さあ、燃料の注入を始めよう」


 ドイツ軍は爆撃機を使うつもりなどなかった。フォン・ブラウン博士の弾道ミサイルは、現在の技術で迎撃することは絶対に不可能である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ