要塞の崩壊
ラーテはあらゆる地上兵器の攻撃を無力化し、その主砲は簡易な地下壕程度なら粉砕することが可能である。
「12インチ要塞砲が吹き飛ばされました!」
「38から41番要塞砲、大破!」
「どの要塞砲も、戦艦に撃たれることなんて想定していない……。このままでは、何の役にも立たず全滅してしまう……」
空爆の的になると予想された41cm要塞砲だけはかなりの重防御を誇っていたが、それ以外の要塞砲の防御は精々15cm砲に耐え得る程度だ。艦砲射撃に耐えられる防御力を全ての要塞砲に持たせるのは非現実的であるし、その必要もないと思われていたからである。
ラーテの28cm砲の砲撃で、リッチモンド要塞は破壊されていく。まるで目の前に移動してきた要塞と戦っているかのようであった。
「何か、反撃の手段は……」
「どんな大砲も効果がない以上は、歩兵による肉弾攻撃しかありません。幸いにして、敵に随伴歩兵はおりません。あれに乗り込んで、中から制圧するのです!」
「自殺行為としか思えないが……」
唯一ラーテを倒す方法があるとすれば、その内部に侵入して占拠することである。リッチモンド要塞からの砲撃を恐れてか、ラーテを護衛する歩兵も戦車もいないので、成功する可能性はある。
このまま黙って全滅させられるくらいなら、僅かでも勝機がある作戦を採用するのは当然のことであろう。敵の増援が来る前にラーテに乗り込まないといけないから、アメリカ軍はジープなど快速の乗用車を200両ほど出撃させた。
「突入部隊、攻撃を受けています! ラーテの副砲です!」
「犠牲など気にするな!」
流石に28cm砲と小さな車とは相性が悪いが、ラーテには副砲として取り回しのいい128mm砲が2門備え付けられている。榴弾で攻撃してくるが、分散して接近するジープの群れ相手にはこれでも分が悪い。
「突入部隊、まもなくラーテと接触します!」
「よし! いけるぞ!」
ラーテまでの距離が早くも1,000mを切った。だが、その時であった。ラーテの背中から20人ばかりの兵士と機関砲が姿を現したのだ。
「ラーテには機関砲が搭載されている模様です!」
「近接防御に機関砲くらいあっても不思議ではないが」
「こ、これは……ダメです! ラーテに全く近寄れていません! 片っ端から蜂の巣にされています!」
「リボルバーカノンか……」
先の大戦中にはドイツが開発しており、現在のドイツ海軍主力艦に対空機関砲として装備されているリボルバーカノン。その非常に高い発射速度から、撃たれれば確実に即死できるので、世界で一番人道的な武器とも呼ばれている。
ラーテの背中にはそれが12門装備されており、地上から接近しようとする敵兵を一人残らず粉砕する。
「突入部隊、全滅!」
「作戦は失敗です。我々では相手になりません」
「ラーテが動き出しました!!」
「クソッ。終わりだ」
戦艦のようなラーテが迫って来ると、兵士達も流石に恐怖に耐えられず、塹壕から這い出して戦闘を放棄した。ラーテは要塞を文字通り踏み潰し、火の海に変えていく。その後にはドイツ軍の主力部隊が突入し、リッチモンド要塞はあっという間に機能を喪失した。
○
リッチモンド要塞が壊滅状態という報せは、当然ながらアイゼンハワー首相にも入っていた。
「クソッ! 何とかできないのか!?」
「お言葉ですが、我が軍の地上兵器でラーテに対抗できるものはありません。一部の列車砲ならば対抗できる可能性はありますが、動き回る目標を列車砲で狙うのはまず不可能です」
マーシャル元帥は淡々と状況を分析する。
「なら、コメットだ! コメットを投入しろ!」
首相は苛つきながら叫ぶが、スプルーアンス元帥が否定する。
「コメットはあくまで対艦兵器です。ラーテは戦車としては異常な大きさとは言え、軍艦と比べれば、PTボートよりやや大きい程度なのです。それも地上にあるとなれば、コメットを命中させるのは極めて困難でしょう」
「だったら当たるまで撃ちまくれ!」
「そんな運用をすれば流石に反乱が起こるでしょう。それに、ワシントンからリッチモンドまで150km程度しかありません。この距離ではコメットが安定し切りませんから、貫徹力も期待できませんかと」
「クソッ!」
アイゼンハワー首相は机を叩きつけた。机は凹んだ。
「ならば、マーシャル元帥、リッチモンドで時間を稼げ」
「既に要塞は陥落寸前であると申し上げましたが――」
「市街地で抵抗させろ! ラーテもリッチモンドの中には入ってこれん」
「市街戦、ですか。リッチモンド市民に多大な犠牲が出ることは、分かっておいでですか?」
「当たり前だ。国連軍に、ワシントンに攻め込んだらどうなるか見せつけてやれ!」
「はっ……。そのように手配しましょう」
市街地というのはある意味で最高の要塞である。民間人の犠牲を厭わなければ相当長く抵抗することが可能だ。そしてリッチモンドで抵抗すればするほど、国連軍はワシントンに攻め込むことを躊躇する筈である。アイゼンハワー首相の狙いはそこにこそあった。国際連盟に譲歩を迫るには溺れるほどの血を支払わなければならない。




