リッチモンド航空戦
『瑞鶴さん、空軍が富嶽と十三式千番徹甲弾を貸してくれるそうです』
「へえ、そう。随分と早い判断ね。危険な任務なのに」
『それについてですが、私から一計を案じさせてもらいました』
「どういうこと?」
『実は私、四発爆撃機を運用することも可能でして、富嶽に船魄制御装置を取り付けたものが幾らか用意してあるのです』
鳳翔は世界最大の空母であるから、適切なカタパルトを使えば戦略爆撃機を運用することも可能である。可能とは言っても、仮に運用するとなれば格納庫に全く収まらないので、露天繋止で3機を運ぶのが限界であるが。
ともかく、富嶽を鳳翔で運用することはある程度想定されており、一部の富嶽はそれに対応した改修がなされている。富嶽は元より巨大な爆撃機なので、船魄が使えるよう制御装置を設置しても、普通に人間が運用できるほどに余裕がある。
「つまり、あんたが富嶽を操って爆撃するってことね?」
『その通りです。失敗しても被害は私が少し痛いだけです』
「……そうね。ありがとう。それでいきましょう」
メキシコから離陸した無人の富嶽が6機、鳳翔の制御を受けてリッチモンドまで遥々飛んできた。流石は第四世代型船魄と言ったところで、これ程の大型機の制御も問題なさそうである。瑞鶴には到底不可能な芸当だ。
○
「首相閣下、日本軍の戦略爆撃機をフロリダに確認しました。リッチモンドかワシントン要塞に地中貫通爆弾を投下するつもりかも知れません」
マーシャル元帥はアイゼンハワー首相に報告した。
「ついこの間失敗したばかりなのにか。エンタープライズに連絡だ。すぐさま迎撃の用意を。リッチモンドにも近付けるな」
「はっ。直ちに」
現在位置がアメリカの南端だとしても、リッチモンドやワシントンに到達するには一時間しかかからない。アイゼンハワー首相は敵が地中貫通爆弾を使うつもりだと断定し、マッカーサー元帥とエンタープライズに全ての戦略爆撃機を撃墜するよう命令した。
○
さて、エンタープライズは先日と同じように450機ほどの艦上戦闘機を上空に待機させ、敵の襲来を待った。だが、富嶽が到着する前に別の動きがあった。
「元帥閣下! 東から多数の敵機が接近してきています! およそ千機です!」
月虹とは別に、ドイツ海軍を中心とする航空艦隊がエンタープライズに直接攻撃を仕掛けてきたのだ。
「クソッ。そいつは面倒だな。戦力を分散させざるを得ない」
「ふふ。大変なことになってしまいましたね、元帥閣下」
「一番の当事者はお前なんだぞ?」
「私はリッチモンドが陥落しようとホワイトハウスが瓦礫の山になろうと別に興味ありませんから」
「はぁ……まったく」
マッカーサー元帥は盛大に溜息を吐いた。
「お前自身を守るには、戦闘機がどれくらい必要だ?」
「敵が1,000なら、300は欲しいところですね」
「分かった。じゃあ残りの150で富嶽を落とすことにしよう」
「私に二箇所で同時に戦えと仰るのですか?」
「流石にキツいか?」
「ええ。流石に無理があります」
エンタープライズ一人に頼り切っていることの弱点が露呈した。二箇所が同時に襲われるとどうしようもないのである。戦場が一箇所だけなら全ての艦載機がエンタープライズ並の能力を得られる強力な手段だったのだが。
「なら、富嶽を攻撃する方はミッドウェイとコーラル・シーに任せよう」
「体当たりでもすれば簡単に落とせますから、大丈夫でしょう」
「まあ、それもなしではないか」
エンタープライズ及び残存するアメリカ艦隊の防衛をエンタープライズが担い、富嶽の迎撃はミッドウェイ級空母の二隻に任せられることになった。エンタープライズの言う通り、全滅してでも富嶽を撃墜するのが彼女達の役目である。
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「さあて、敵のお出ましみたいね」
瑞鶴とグラーフ・ツェッペリンが富嶽の護衛役であるが、艦上戦闘機の数は60機程度である。鳳翔も一応戦闘機を飛ばしているが、富嶽の操縦に集中しているので大した戦力にはならないだろう。敵は150機であり、普通に考えれば極めて不利である。
「ツェッペリン、こっちから仕掛けるわよ」
『任せるがいい。一機残らず落としてくれる』
守勢に回ると不利だと判断した瑞鶴は積極的に敵を落とすことにした。そして、その戦いは一方的なものになった。
『敵はとんだ雑魚であるな』
「エンタープライズじゃないわね。そうと分かれば、とっとと全滅させてやりましょうか」
戦いはどちらが攻め手なのか分からなくなるほど一方的なものになり、瑞鶴とツェッペリンはアメリカ軍機を次から次へと落としていく。だが、二人とも調子に乗っていたその時であった。
『瑞鶴! 敵が後ろに抜けていったぞ!』
「え、あ、マズいかも!」
『敵を落とすことしか考えてないせいだぞ』
「どの口が言うのよ」
最高速度はどの戦闘機もほとんど同じであり、一度逃げられると追い付くのは難しい。F9Fは急速に高度を上げ、富嶽に迫る。