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ジュノー襲撃Ⅱ

「に、人間魚雷ですか? これほど有利な戦況で、日本軍がそんなものを投入するとは……」

「空母の艦載機と同じように船魄技術を使えば、無人化することもできるだろう」

「な、なるほど……」


 艦載機を無人化するのと同じ手段で無人化すれば、回天は自爆を必要としない誘導魚雷になる。敵までの直線を確保できずとも、障害物を回避して敵まで到達することができるのだ。


「まあ回天がどうかはともかく、相手が誘導魚雷ならば、回避できるとは思えない。こうなったら頑丈な艦を盾にするしかない」

「だ、誰を盾に……?」

「ハワイ級を使おう。ハワイに繋いでくれ」


 シャーマン大将はハワイに艦隊の盾になってくれと頼んだが、返事は当然のものであった。


『――ふざけるなよ、大将。私がそんなクソッタレの任務をやるとでも?』

「君達しかいないんだ。ハワイ級の船底は四重底。水中防御は世界で最も厚い」

『だからと言って自分から魚雷を喰らいにいく馬鹿はいないだろうが』

「……君が嫌なら、君の妹達にやらせるまでだ。君のように反抗的ではないからな」

『何だと? 貴様、自分が何を言っているのか分かっているのか?』


 実際に対面していたら今すぐ殺されそうな殺意を、ハワイはぶつけてきた。ハワイ級の主砲が旋回を始め、シャーマン大将の司令室に、レキシントンに向けられる。


「時間がないんだ。これ以上艦艇を沈められる訳にはいかない。君も、その反抗に意味がないことは知っているだろうに」


 今頃ハワイの脳天には幾つもの銃口が向けられていることだろう。


『……クソッ。ならば私がやる。覚えておけよ』

「ああ。全ての責任は私が負う」


 ハワイは魚雷の針路を塞ぐように陣取った。誘導魚雷と言えど急に曲がることは不可能であり、ハワイの舷側に4本の魚雷が次々と命中した。魚雷の爆発で上がった水飛沫はハワイの上甲板にまで届いた。


『クソッ。普通の魚雷より痛いぞ』

「回天は元より人間が入れる大型魚雷だ。人間を抜けば、威力を相当上げられるだろう。損害はどの程度だ?」

『装甲は貫通されていない。浸水はなしだ』

「それはよかった。もう少し耐えてもらうことになりそうだが、いいか?」

『私を舐めるなよ。この程度でくたばる訳がないだろ』


 ハワイは当面は大丈夫そうなので、シャーマン大将は次の命令をレキシントンに下した。


「レキシントン、今すぐ警戒範囲を広げてくれ。必ず近くに回天の母艦が存在する」

『それは水上にあるのかい?』

「ああ。あんな巨大な魚雷を何発も撃ってきている。潜水艦には不可能だ」


 潜水艦に回天を搭載することは可能だが、運べるのは1本が限界である。そんな大量の潜水艦が進出しているとは到底思えない。


 レキシントンが索敵を始めると、シャーマン大将の予想が的中していたとすぐに分かった。ジュノーから直線距離にして南東90km地点に、レキシントンは数隻の補助艦で構成された戦隊を発見したのである。


『――確かに、変な艦がいるね。甲板に潜水艦を載せているみたいだ』

「それが回天の母艦に違いない。今すぐ攻撃してくれ」

『向こうも航空支援を出してきたから、沈めるのは難しいと思うけど』

「沈めずともいい。敵に脅威を感じさせれば十分だ」

『了解』


 レキシントンは無理だと思いつつも、全力で攻撃を行った。


 ○


 さて、レキシントンが発見した回天母艦とは、球磨型軽巡洋艦の四番艦と五番艦、北上と大井であった。人間の艦だった時代を含めて、回天母艦として実戦に投入されたのは今日が初めてである。上甲板のスペースは回天を8本搭載することに費やされ、固有の武装は極めて貧弱。対空戦闘など不可能だ。


「うーん、見つかっちゃったね! まだ一隻しかぶっ殺せてないんだけどなあ」


 明るい声で物騒なことを宣う、この長い黒髪と角を持った少女は北上である。北上と大井と数隻の駆逐艦で編成されたこの戦隊の旗艦でもある。北上が呑気なことを言っていると、返事をしてくるのは幽霊のような声である。


『北上お姉様を傷付ける者は、皆殺しにしないと……』


 北上のすぐ下の妹、大井である。北上も大井も回天母艦という非常にロクでもない艦種になっているので、精神性がややおかしい。


「私達、高角砲も機銃も全然ないけど、どうするの?」

『愛の力で何とかします……』

「いやいや、無理でしょ」

『そんな、私を疑っておられるんですか……?』

「無理なものは無理だって。本当はあの戦艦ぶち殺したったんだけど、回天を捨てて逃げるとしますか。全艦、別に戦わなくていいから逃げるよ!」


 回天に爆弾を一発でも喰らえば一瞬で爆沈するので、攻撃される危険があれば回天を放棄する他にない。すぐさま残り4本の回天を海中に投棄して、北上達は逃げ去る。友軍の空母から援護があるので、損害は皆無であった。


『北上お姉様を傷付けた空母、いずれ海の底に沈めなければいけませんね……』

「別に私傷付いてないけど?」

『傷付けようとしただけで、万死に値します……』

「そうなの? まあ、空母をぶっ殺すのは賛成だよ!」


 サラトガを大破着底させるというそれなりの戦果を挙げることができたが、それはもののついでである。本来の目的はジュノーが最早安全ではないとアメリカ軍に知らしめることであり、それは無事に達成された。

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