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ジュノー襲撃

 国連軍はウィルミントンに上陸して北上を続ける。ソ連軍はカナダとアメリカの国境を越えようとしている。マーシャル元帥は徹底的な焦土作戦を繰り広げ、国連軍に犬小屋一つ使わせないほど徹底的に文明の産物を破壊していた。焦土作戦と並行して、兵士の大半にはゲリラ戦を命じて後方を撹乱すると同時に、国連軍に隙が見えれば虎の子の戦車師団を投入して押し返すという巧みな采配を振り、国連軍の進撃を可能な限り食い止めていた。


 とは言え、それも僅かな時間稼ぎにしかならない。北から迫るソ連軍、西から迫るドイツ軍、南で圧力を加える日本軍を同時に相手取ることなど、元より生産力でソ連一国に劣っているアメリカには到底不可能なのだ。


 ○


 一九五六年六月十三日、カナダ共和国ブリティッシュ・コロンビア州、ジュノー。


 ジュノーに籠城しているアメリカ第1艦隊であるが、ジュノーは完全に包囲され、戦況に積極的に寄与する能力は失われていた。


 もちろん、第1艦隊の戦力は依然として無視できないものではある。それ故に国連海軍は常に大規模な艦隊を眼前に配置し、地上部隊がレキシントンやサラトガに襲撃されることに備え大規模な航空隊を配備せざるを得ない。敵の戦力をそれなりに拘束することができており、現存艦隊主義の目的は果たせていると言えるだろう。


 ジュノーは複雑な入江の奥深くにあり、かつ46cm砲を含む要塞砲や隠顕された魚雷発射管が大量に配置されており、国連海軍も迂闊には手を出せない。


 その筈だったのだが、その日、事態は唐突に動き出した。


「閣下! 魚雷です! 魚雷を探知しました!」

「何だと!? あり得ない!」


 ジュノーは多くの島々に守られている。魚雷をここに届かせるには、遠くとも30km以内には近寄らなければならない。だが、その距離まで近付いた敵影を見逃すというのは全く考えられない。


「し、しかしこれは――」

「全艦に通達!! 今すぐに回避行動を取れ!」


 しかし、余りにも突然の出来事であるし、対応できる猶予もなかった。結果としてサラトガの左舷に3発の魚雷が命中した。


「サラトガが被弾! 浸水が発生しているとのこと!」

「ダメージコントロールを急がせろ! それと、最悪の場合に備え港に入れ!」


 港の中で沈めば引き揚げて修理することもできる。サラトガはみるみるうちに傾いていき、本当に沈んでしまいそうだ。


「浸水が激しく、傾斜が回復できません!」

「クッ……。サラトガに繋いでくれ」

「はっ!」


 シャーマン大将はサラトガの船魄と直接通信を繋いだ。自身の損傷を一番良く認識できるのは船魄である。


「サラトガ、まだ動けるか?」

『あー、動けないことはないよ』


 気だるそうな声が返ってくる。危機感はまるで感じないが、それはレキシントンと同じく感情表現というものを知らないからだろう。


「浸水は食い止められるか?」

『それは無理そう』

「分かった。ならば埠頭に突っ込め。港に着底させるんだ」

『それで生きてるって言えるの?』

「今すぐやれ!」

『はいはい』


 サラトガに対処を命令したところで、シャーマン大将にはすぐさまやらなければならないことがある。どこから魚雷が飛んできたのか確かめることである。


「周辺に本当に敵艦はいないんだな?」

「はい。複数のレーダーで確認していますが、周囲30km以内に敵の姿はありません」

「なら、水上艦の攻撃ではないな。やはり潜水艦だ。レキシントンに通達。今すぐ偵察機を出して潜水艦を炙り出せ!」


 潜水艦以外あり得ないと判断したシャーマン大将は、レキシントンに対潜哨戒を行わせた。だが、ジュノー周辺の狭い水路を探せばいいだけにも拘わらず、敵を発見することはできなかった。


『潜水艦なんてどこにもいないよ。これ以上探すのは無駄だね』

「分かった。だが警戒は続けてくれ」

『了解』

「一体、どうなっているんでしょうか……」

「もう逃げたのか、或いは空からでは見つけられないほど深く潜れる潜水艦でもいるのか……。論理的に考えればそれくらいしか考えられないな」

「では、後者の可能性を考えて、こちらも潜水艦で索敵を行いましょう」


 索敵範囲は航空機と比べ物にならないほど狭いが、潜水艦を見つけることに一番秀でているのは潜水艦である。シャーマン大将はジュノーから6隻の潜水艦を出撃させ索敵を続ける。だがジュノーに魚雷が届く範囲に敵を発見することはできなかった。


「やはり、敵はもう逃げたのでしょうか」

「そうとしか考えられないが、魚雷を一回撃って逃げることに何の意味がある?」

「我々への脅しになるのでは? いつでも攻撃することができるのだと」

「既に我々は警戒を強めた。二度目の攻撃はあり得ない」

「た、確かに……」


 シャーマン大将は敵の意図を全く読めなかった。だがその時であった。すぐ上にいるレキシントンから通信が入る。


『敵の魚雷を確認したよ。ここから南東に50km地点』

「何だと? そんな場所に魚雷があったところでジュノーには届かないが」

『うーん……。どうやら、魚雷が曲がっているみたいだ』

「何? 誘導魚雷ということか?」

『それは知らないけど、人の手で操縦されてる感じはするね。何か大きいし』

「……分かった。君は引き続き警戒をしていてくれ」


 レキシントンに毅然と命令するが、シャーマン大将は頭を抱えるしかなかった。


「て、敵は一体、何なのですか?」

「この世界に実用的な誘導魚雷は一つしかない。日本軍の回天だ」


 帝国海軍が開発していた人間魚雷こと回天。世界初の特攻専用兵器であるが、実用に供されることはなかった。それが今になって姿を現したらしい。

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