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ダウンフォール作戦

 一九五六年六月十日、ハワイ王国オアフ島、国際連盟軍総司令部。


「総司令官閣下、今度のワシントン攻略作戦についてですが、英国より作戦名の強い要望が届いております」


 エルヴィン・ロンメル元帥に珍しい電報が届いた。それに曰く、ワシントン攻略作戦の名前を「ダウンフォール作戦」にしてもらいたいとのことであった。


「ダウンフォール……英語で滅亡と言った意味だな」

「はい。ジョイス首相はこの名前を使うことを強く希望しております」

「つまりは、私にアメリカ合衆国を滅ぼせということかね?」

「アメリカ合衆国は、英国が生み出してしまった悪魔です。その存在は歴史から抹消されるべきです。総司令官閣下も、アメリカを滅亡させることに躊躇はないと仰っていたではありませんか」

「それはアメリカに侵略を止めるつもりがないと判断した時に限られる。我々からアメリカを滅亡させるなどと言うことはできない!」

「既にキューバは解放され、国連軍はワシントンまで500kmに迫っているのです。それでもなお降伏しないということは、アメリカに帝国主義を放棄するつもりがないということではありませんか?」

「そうと決まった訳ではない」

「恐れながら閣下、国際世論は既に、アメリカとの融和など眼中に入っていません。国連軍がこのまま進軍してワシントンを占領し、アメリカ合衆国の歴史を終わらせるのだと、誰もが当然のように捉えております。アメリカは人類の敵なのですから」

「……ああ、分かっている。そんなことくらいは、分かっているんだ」


 ロンメル元帥自身は、自ら演説で宣言した通り、アメリカが全ての侵略行為を停止するならば国連軍を速やかに解体し、アメリカを国際社会に復帰させるつもりでいた。だがそう考えている者は極めて少数。軍人も民間人も、アメリカは滅亡して当然だという考えが支配的である。


 結局のところロンメル元帥は、この事実に見て見ぬふりをしていただけであった。世論と直面することを余儀なくされれば、元帥の力はそれほど大きくない。


「――たかが作戦名では済みますまい。このような名前を採用すれば、アメリカとの講和の可能性は潰えます。アメリカを本当に滅ぼすか、或いは無条件降伏させるか。その二択しか残りますまい」


 ロンメル元帥に助言を求められ、山下奉文元帥はそう答えた。


「その通りです。このような名前、本来は採用したくはない。しかし、どうやら英国がこの件を言いふらしているようです。既に噂が広まっています」

「それは難儀なことですな」

「山下元帥閣下としては、どうなのですか? 賛成ですか? 反対ですか?」

「個人的な意見を申し上げるのでしたら、賛成です。個人的にアメリカを憎んでいることは抜きにしても、アメリカに無条件降伏を迫る強烈な圧力になりましょう。わざわざ英語で作戦名を付けるというのは、実に英国人らしい皮肉ですな」

「そうですか。確かに、そういう考え方もできます」

「最終的な判断は無論、総司令官閣下に委ねられておりますが」

「ええ。もう作戦は始まります。作戦名は早々に決めなければなりません」


 ロンメル元帥は最終的に、アメリカが無条件降伏を申し入れてくることに期待して、英国の提案を受け入れることにした。降伏させることさえできれば、そこから色々とやりようはある。


 ワシントン攻略作戦が開始されるに先立って、ロンメル元帥は再び全世界に向けて演説を行った。


『国際連盟軍総司令官のエルヴィン・ロンメルです。つい先日、国連軍はアメリカ合衆国東海岸のウィルミントンに上陸を成功させ、ワシントンD.C.に手が届くところまで来ています。ここに国連軍は、ワシントンへ進軍することを決定しました。そして各国政府や幕僚達と相談の上、この作戦の名前をダウンフォール作戦と名付けました。


 ダウンフォールとは、滅亡という意味です。この作戦が完了することは、アメリカ合衆国が地上から消滅することを意味します。事態はそれほどまでに進展してしまいました。最早、アメリカに必要以上の慈悲を掛けることはできません。アメリカ合衆国の運命は二つだけです。完全な滅亡か、或いは無条件降伏か。


 降伏の機会は残っています。アイゼンハワー首相並びに閣僚諸君に、改めて通告します。ダウンフォール作戦は、アメリカの首都圏が戦場となります。犠牲者の数もこれまでとは比べ物にならないほど膨れ上がるでしょう。自らの国民の生命と財産を守るつもりがあるのなら、今すぐに降伏せよ』


 その演説を聞いたアイゼンハワー首相であったが、降伏などする訳がなかった。


「降伏だと? どうせ占領した後にアメリカが滅ぼされるに決まっている。論外だ」

「国際連盟の側から講和を持ちかけてくるまで持久戦をするおつもりなんですか?」


 ニクソン副首相は半ば呆れたような声でアイゼンハワー首相に尋ねた。


「ああ、そうだ。そうでなければ、アメリカの独立は失われる」

「お言葉ですが、閣下は自分が死にたくないだけでは?」

「馬鹿を言え! 自分自身の命などどうなろうと構わない。私はチャーチルやド・ゴールのような屑とは違う!」

「それは良かったです。私も私自身が処刑されることは一向に構いませんがね、しかし本当に勝ち目はあるんですか?」

「ウィルミントンからここまで500kmもあるんだ。時間くらい幾らでも稼げる」

「上手くいくことを祈っていますよ」


 ニクソン副首相は元軍人だが海軍軍人なので、焦土作戦の効果がどれほどか明確に予想することはできない。とは言え、アイスバーグ作戦に勝算がないことは、半ば本能的に理解するところであった。

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