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デモインの感情

 デモインの敗走を受けて、スプルーアンス元帥はアイゼンハワー首相に報告に向かった。


「――リュッツオウ級重巡洋艦ですが、あれは我々が想定していたより脅威のようです」

「15年前は大したことないと言っていたのにか?」


 リュッツオウ級重巡洋艦は戦艦に速力で勝り巡洋艦に火力で勝るという謳い文句であったが、実際は戦艦に火力で劣り巡洋艦には速力で劣ると評され、先の大戦では大した活躍を見せられなかった。


「状況が異なるからです。リュッツオウ級が通商破壊を行っている時は、その速力の低さ故に大した脅威にはなりませんでした。しかし、彼女達が護衛する側に回ると、速力はさして問題になりません。我々の方から近寄らなければならないのですから。そして、リュッツオウの28cm砲は、ヒトラーが宣伝していた通り、重巡洋艦を容易に撃破することができます」

「なるほど。面倒だということは理解した。ではいっそ、戦艦を通商破壊に出せばいいんじゃないか?」

「そうすれば、ドイツ軍も船団護衛に戦艦を出してくるだけでしょう。モンタナ級戦艦ではモルトケ級にも勝てませんし、グラーフ・ローン級が相手なら尚更です」

「頼れるのは潜水艦くらいしかないということか」

「はい。もっとも、潜水艦とて何もできず撃沈される可能性が大ですが」

「じゃあ、海軍には何もできないのか?」

「申し訳ありませんが、その通りです」


 海軍力の差は歴然であり、最早アメリカ海軍に打てる手は残されていなかった。アメリカ海軍はワシントン要塞に引き籠って、沿岸砲台や基地航空隊のように振る舞うことしかできないのだ。


 ○


 一九五六年六月一日、アメリカ合衆国バージニア州ノーフォーク海軍基地。


 チェサピーク湾の入口にあり、世界最大の海軍基地と目されるノーフォーク海軍基地は、今や東海岸に残された最後の安全地帯である。デモインとニューポート・ニューズは修理を受ける為にノーフォーク海軍基地に入っていた。


 しかし、デモインの容態は未だ改善されていない。敵に装甲を撃ち抜かれたことが余程こたえたようだ。ケネディ少将はこの事態への対処方法に全く思い当たりがなかったが、取り敢えず頼りになりそうなマッカーサー元帥に相談してみた。


 マッカーサー元帥の回答は「エンタープライズに聞いてみろ」であった。エンタープライズがそういう方向に手がかかったことはないので、マッカーサー元帥もどうすればいいか分からないのである。


 ケネディ少将は早速エンタープライズを訪ねた。


「――なるほどなるほど。軍艦が死ぬことを恐れるなんて、とんだ笑い話ですね」

「真面目に答えてくれないか?」

「そう言われましても、自分の命に興味がない私みたいな船魄に聞くのは不適当ではありませんか?」


 ケネディ少将は真面目にデモインを心配しているのだが、エンタープライズは揶揄うようにしか取り合わない。


「君以外の船魄は、そもそも心というものがあるのか分からないような子達ばかりだ。君の他に参考になりそうな子がいない」

「ははっ、確かに。我が軍には死んだような船魄しかいませんからね」

「で、どうなんだ?」

「これは私の持論ですが、人間の皆さんは死を恐れていて、しかし死は絶対に避けられない運命なのに、正気を保っていられるのは、それを忘れられる気晴らしをしているからです」

「君もそうなのか?」

「ふふ、私は瑞鶴を手に入れることしか興味がないですが、ある意味そうかもしれませんね」


 エンタープライズは楽しそうに語る。


「そうか。しかし、彼女にそういったものを見出すのは難しそうだな……」

「そもそも船魄にできることなんて限られています。この自由の国では特に。その中で他のことを忘れられる気晴らしなんて、自ずと限られてくると思いますがね」

「君、ロクでもことを考えていないか?」

「価値観の相違ですね。取り敢えず、デモインさんを連れてきてくだされば、何とかして差し上げられると思いますよ」


 ケネディ少将は他に頼れる者もいなかったので、エンタープライズのもとにデモインを送り出した。少将はまるで娘を嫁に出す父親のような気分であった。


 エンタープライズはデモインを自分の部屋に招き入れて鍵を閉めた。彼女の部屋は殺風景だが綺麗に掃除が行き届いている。


「さて、デモインさん、自分が沈むのを想像して怖くなってしまったのですよね?」

「……うん」


 デモインは俯きながら弱々しく返答した。


「そんな貴女に、気を紛らわす方法を教えてあげましょう。ふふ。まずはベッドに横になってください」

「意味が分からない……」


 デモインは怪訝そうな顔をしながら簡素なベッドの上に仰向けに横たわった。すると即座にエンタープライズが覆い被さってくる。


「……何をしているの?」

「開明的な日本やドイツでも、船魄に与えられた自由は極めて限られています。アメリカにおいては尚更です。そんな状況でできる気晴らしなんて、せっかく与えられた身体を使う他にないでしょう?」

「何が言いたいのか分からない……」

「おやおや、そうですか……」


 デモインの察しの悪さに驚いたが、初心なところにも興奮するというものである。


「では、体験してみるのがいいでしょう」


 エンタープライズはデモインのセーラー服の中に手を潜り込ませた。


「あなたは、性的なことをしようとしているの?」

「多少の知識はあるようですね。経験は皆無なようですが」


 エンタープライズは笑みを浮かべながら舌なめずりをした。そしてデモインの服を剥ぎ取ると、彼女の「気晴らし」をデモインの身体に教え込む。

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