表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
453/608

ドイツ海軍の進出

 一九五六年五月十四日、アメリカ合衆国フロリダ州メイポート補給基地。


 時は少し戻って、コチノス湾上陸作戦が成功に終わり、クラーク大将が戦死した翌日のこと。アメリカ海軍の東海岸における最大の拠点メイポート補給基地にて。


「ドイツ艦隊が一斉に動きだしました! ほぼ全ての艦艇が、一斉にここに向かってきています!」

「そいつは困ったな」


 報告を受けたマッカーサー元帥は全く動じなかった。ドイツ海軍が攻め込んでくるなど、別に驚くべきことではない。予想より少しばかり動きが早かったという程度だ。


「敵の数はどれくらいだ?」

「戦艦六、空母七が主力です。しかし日本軍やソ連軍が動き出せば、倍に増えるかもしれません」

「なるほど。そいつは全く勝ち目がないな」


 マッカーサー元帥の手元にあるのは戦艦四隻に空母三隻だけである。空母についてはエンタープライズもいるし、残りの空母も超大型空母と称されるミッドウェイ級だが、流石に国連艦隊とは数が違い過ぎる。戦艦については全く相手にならないだろう。


 報告を携えて、元帥はエンタープライズの艦橋に足を運んだ。


「――とのことだ。どうする、エンタープライズ?」

「この前と同じです。逃げる以外に選択肢はないです。ワシントン要塞に籠城しましょう」

「そうだな。スプルーアンスにも言っておこう」

「恐らく認めてくれるでしょう。私達にマトモに戦う戦力は残っていないのですから」


 ワシントンで色々やっているらしい艦隊司令長官スプルーアンス元帥に、マッカーサー元帥はメイポート補給基地を放棄する許可を求めた。どうして陸軍軍人のマッカーサー元帥がこんなことをしているのか、平時ならば大問題になるだろうが、今や誰も気にしていなかった。


 スプルーアンス元帥は直ちにマッカーサー元帥の提案を受け入れて、全艦隊にワシントンまで撤退するよう命令した。ワシントン以南の東海岸を放棄したのである。


 ○


 一九五六年五月十四日、アメリカ合衆国ワシントン特別市、首相官邸ホワイトハウス。


 同日、スプルーアンス元帥はアイゼンハワー首相に呼び出され、海軍の状況について報告を求められていた。


「元帥、君の判断は支持するが、これからどうするつもりだ?」

「海軍としては、アイスバーグ作戦に基づき、ワシントン要塞への籠城を基本としつつ、適宜通商破壊を行って、敵の補給を可能な限り妨害します。出せる艦は巡洋艦以下の艦に限られますが」

「分かった。だが、海を捨てるなら、敵はまもなく東海岸に上陸してくるだろう。それはどうする?」


 アイゼンハワー首相は陸軍参謀総長マーシャル元帥に尋ねた。


「陸路であれば、徹底した焦土作戦、道路の破壊で対応できるでしょう。特にドイツ軍の機甲師団は、道路がなければ動けません」


 戦車は荒地でも駆け回れるが、補給を支えるトラックなどはそれなりに整った道路が必要である。


「焦土作戦か」

「首相閣下、カナダ西部を焼け野原にしておいて、今更怖気付いたなどとは言いますまいな?」

「そんなことは言わん。必要であれば、ニューヨークだろうと焼け野原にして構わん」

「はっ」

「閣下、そこまでして悪足掻きをして、一体何になると言うのですか?」


 スプルーアンス元帥は首相に尋ねる。その質問は、ここにいる誰もが意識的に避けていたものであった。


「時間さえ稼げば、いずれ国連軍が仲違いして、どこかが講和に応じるかもしれない」

「確かにドイツか日本かソ連が戦争から離脱すれば、勝ち目はあります。しかし、そんなことが現実的にあり得るとお思いなのですか?」

「それに賭ける以外、我々に選択肢はない。だがその可能性を上げる方法は、一人でも多く敵を殺すことだ」


 アイスバーグ作戦とは、列強の少なくとも一国が諦めてくれることに賭けた作戦なのだ。


 ○


 一九五六年五月十八日、フロリダ州メイポート補給基地。


 メイポート補給基地は事前に破壊されていたが、広大な港湾を完全に破壊するなど無理な話。そもそも天然の地形こそが良港の本質なのであって、艦隊の停泊に適していることに変わりはない。


 ドイツ海軍はメイポート補給基地を無抵抗で確保し、ここに新たな拠点を置くことにした。その中にはアトミラール・ヒッパー級重巡洋艦達の姿もあった。岸壁に三人の船魄が語らっている。


「久しぶり、ヒッパー。大西洋を行ったり来たりしてお疲れ様」


 プリンツ・オイゲンが無駄に挑発的に呼びかけたのは、長姉のアトミラール・ヒッパーである。灰色の髪と青い目に白い軍服をして、癖の強い妹達の対処に困り果てている苦労人であった。


「ああ、久しぶりだな、オイゲンとザイドリッツ。だが、お前達もこれから大西洋を駆け回ることになるんだぞ」

「あら、そうなの?」

「聞いてないのか? バミューダ諸島からアメリカまでの海上護衛を、私達が任されることになった」

「つまらない任務ね」

「ところでヒッパー姉さん、ブリュッヒャー姉さんはどこにいるのですか?」


 ザイドリッツはヒッパーに問い掛ける。


「さあな。待っていればそのうち現れるだろ」

「左様ですか」

「ふふ。ヒッパーも意外と雑なところがあるわよね」

「姉妹とは言え、一挙手一投足まで把握しているのは気持ちが悪いだろう」

「それもそうね」

「姉妹を揃えて会いに来るようビスマルクに言われている。探しに行くか」

「ヒッパー姉さん、こういう時にお互いが動き回ると却って時間がかかるかと」

「そうか? ならば、ビスマルクのところで待っているとしよう。ブリュッヒャーもこのことは知っている」


 ヒッパーと姉妹達は取り敢えずビスマルクに向かうことにした。ビスマルクは彼女の艦にいるので、港を歩いて向かう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ