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あきつ丸

 瑞鶴は鈴木中将を応接室に招いて話を聞くことにした。


「取り敢えず質問なんだけど、私達はどこに上陸するの?」

「我々が上陸するのはキューバ北西のコチノス湾だ」

「へえ。面白そうなことするわね」


 キューバ軍はキューバの南東の端に追い詰められているのだが、それとは真逆の北西に上陸するというのが国連軍の作戦であった。首都ハバナの目前である。


「コチノス湾から一気呵成に上陸を成功させ、ハバナを制圧する。キューバに居座っているアメリカ軍の指揮系統を崩壊させるんだ」

「だったらハバナに直接乗り込めばいいのに」

「あんな場所で上陸戦を行えば、ハバナ市民に大きな犠牲が出る。カストロ議長はそれを断固として拒否するそうだ」

「ゲバラも拒否しそうね」


 上陸作戦では事前の艦砲射撃などで辺り一帯を更地にする必要がある。ハバナに直接上陸することは不可能だ。


「それはそうと、君に幾らか頼みたいことがあるんだが、聞いてもらえるか?」

「内容によるわ」

「ああ。一つ目は、フロリダに先制攻撃を行って、敵が空から妨害してくるのを防いでもらいたい」


 フロリダのメイポート補給基地にはエンタープライズを初めとして有力な空母が何隻か存在している。そこから艦載機を飛ばせばコチノス湾まで十分に届くだろう。


「なるほどね。それは良い手だと思うわ。アメリカはエンタープライズが他の空母の制御も奪っているだろうから、エンタープライズの気さえ引けば空は安全よ」

「そうなのか?」

「知らずに提案してたの? まあ普通に思い付くことではあるだろうけど」

「そういう事情があるのなら助かる」


 ついでに、瑞鶴の艦載機が赴けば、エンタープライズの注意を更に引くことができるだろう。


「でも、私はフロリダで殴り合いながらこっちの指揮もすることになるけど、それは大丈夫なの?」

「確かに……そういうことになるのか。私は船魄の能力の相場はよく分からないのだが、君としては可能なのか?」

「世界最初の船魄を舐めないでよね」

「分かった。君に任せよう。もう一つの頼み事だが、君達の重巡洋艦に上陸部隊の直接の護衛を務めてもらいたい。どれほど準備砲撃を行っても、敵の陣地を完全に破壊することは不可能だろうからね」

「つまり、重巡に砂浜ギリギリまで近付けってことね?」

「そういうことになる。どうだろうか?」

「陸にある大砲なんて大したことないわよね?」

「野戦砲程度しかないだろう。口径としては、5インチくらいが精々だ」

「高角砲くらいね。そのくらいなら重巡でも問題ないわ。まあ愛宕が認めてくれるかは分からないんだけど」


 重巡洋艦の装甲であれば12.7cm砲くらいは余裕で耐えられる。愛宕が高雄を出撃させることを拒否しても、妙高と愛宕は参戦してくれるだろう――という旨を瑞鶴は鈴木中将に伝えた。


「――委細承知した。頼み事は以上だ」

「そう。じゃあ質問なんだけど、何であんた達ここにいるの? この戦争が始まってから来た訳じゃないわよね?」


 陸軍船舶兵団はユーラシア大陸を横断して来た訳ではない。国際連盟軍が結成される前からグレナダにいたのである。


「陸軍がいて悪いかね?」

「だって、上陸作戦をする機会なんて、これまでは考えられなかったじゃない」

「確かに、帝国陸軍が参戦するという案は石橋首相に弾かれていたな。まあ、正直に話すとしよう」

「へえ?」

「我々の当初の目的は、君達だ。君達に乗り込んで制圧するというのが、本来の任務だった」

「そんなことだろうと思ったわ」


 海軍が月虹の捕獲に手間取っている間に手柄を上げようと陸軍が送り込んだのが彼らであった。艦内に乗り込んで制圧するというのは、世界最強の船魄である瑞鶴を相手取る方法として合理的である。まあ上手く奇襲できなければ近寄ることも叶わないだろうが。


「大本営が君達と共存する方針を取ったから、我々は宙吊り状態になってしまったがね。しかし、かつての仲間と争うよりは、正義の為に戦う方が余程気分がいい」

「あ、そう。……ん? 別のヘリコプターが来たけど」

「あきつ丸がようやく見つかったようだね」


 あきつ丸の船魄がようやく登場である。飛行甲板に迎えに行くと、着陸したヘリコプターから出てきたのは、陸軍軍服を身に纏って長い狐のような耳が生えている赤髪の少女であった。そして目付きが悪い。


「あんたがあきつ丸ね」

「ああ。陸軍特殊船丙型の一番艦、あきつ丸だ」


 刺々しい口調で自己紹介をすると、あきつ丸はすぐ鈴木中将に向かった。


「あんたがいるのに俺が挨拶に来る必要なんてあったか?」

「君と瑞鶴で打ち合わせくらいしておいてくれたまえ」

「打ち合わせ? ああそう言えば、大発の護衛をさせるとか言ってたな。やってくれるのか、瑞鶴?」


 大発こと大発動艇は帝国陸軍が誇る上陸用舟艇の一つである。乗員は70名程度の小さなボートであるが、砂浜に乗り上げると船首が開いて迅速に兵員を上陸させることができる。


「重巡洋艦に護衛させるって話でしょう?」

「そんな話だったな」

「それならやってあげることにしたわ」

「そうか。助かる」

「意外と素直ね」

「仲間は死なない方がいいに決まっているだろ」


 およそ人と仲良くすることを知らなそうだが、意外と義理人情に篤い船魄らしい。瑞鶴は少々の好感を持った。


「まあ、当たり前ね。マトモな奴みたいでよかったわ」

「何? 俺がマトモじゃないとでも思ってたのか?」

「いつの間にか行方不明になる軍人はマトモじゃないでしょ」

「挨拶なんて下らんだろ。俺は早く戦いたいんだ」

「それについては同感よ」


 ようやく準備が整い、国連艦隊はコチノス湾に向けて舵を切った。


あきつ丸

https://kakuyomu.jp/users/sovetskijsoyuz/news/16818093093389644817

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