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カナダにおける不朽の自由作戦Ⅱ

「サンローラン線は突破されました。作戦は破綻ですな」

「分かってる。アイスバーグ作戦は、プランAからDが全部破綻だな」

「はい。しかしプランEが残っています」

「よかろう。速やかにプランEを実行。カナダを併合する」


 アメリカ軍は計算高く、サンローラン線が機能しなかった場合もアイスバーグ作戦に織り込み済みである。そのプランEとは、現地に送り込んである部隊でカナダ政府と軍部を掌握し、カナダの主権を奪うことにあった。カナダそのものをアメリカ軍が取り仕切るのである。


 全ては順調に推移した。アイゼンハワー首相がプランEの実行を命じてから2時間で、カナダ共和国は事実上滅亡したのであった。


「カナダ軍を掌握し終えました。焦土作戦を開始するとしましょう。甚だ人道に悖る作戦ではありますが」

「自爆専用兵器を大量生産しておいて、今更人道など気にしていられるか。これからソ連軍が目にするのは、焼け野原だけだ」

「はっ。直ちに」


 アメリカ軍の基本戦略は焦土作戦である。あらゆる道路、集落、その他ソ連軍が使えそうな施設を全て徹底的に破壊するのだ。当然、カナダ西部に住む住民は突然に家を焼き払われることになり、餓死者も続出することになる。


「戦争は始まったばかりだ。何千万人が死のうと、アメリカ合衆国は決して屈しない。我々は自由と民主主義を守り抜くのだ!」


 国連軍が実際のところ何を考えているのかは分からないが、アイゼンハワー首相は彼らがアメリカ合衆国を滅亡させるつもりだと信じていた。自分自身の命などに興味はないが、アメリカ合衆国の独立はどんな犠牲を払おうとも守らなければならないと、首相は決意していた。


 ○


 それから5日。カナダ軍が一瞬で崩壊したこともあり、国連軍のすぐ近くでは焦土作戦が間に合わず、サンローラン線から400km離れたジュノーにも国連軍が押し寄せてきていた。だが、ハワイ級戦艦が三隻いるジュノーに攻撃を仕掛けるのは、流石のソ連軍にも無理そうである。


「死ね、ロシア人共。合衆国の土地に足を踏み入れる者は、個人が判別できなくなるまで粉々にしてやる」


 ハワイは46cm砲12門を一斉射。50km先にいたソ連軍の大隊を一撃で壊滅させる。


『サンローラン線は突破できても、流石に君に地上兵器で打ち勝つのは不可能なようだな』

「当たり前だ。どんな軍艦でも私を沈められないのに、地上の大砲ごときで私を破壊しようとは馬鹿げた考えだ」

『頼もしいね。だが、敵はサンローラン線の41cm砲を破壊しているんだぞ』


 それを言われると、ハワイも言葉が止まる。それは本来あり得ないことなのだ。


「……私より遥かに防御の薄いアイオワ級とは言え、主砲塔を一撃で破壊するなどあり得ない。空爆でも喰らったのか?」

『いいや、それはない。航空機を確認したという報告は一つも入っていない』

「なら、最低でも46cm砲の威力を持った大砲が地上に存在するとでも?」

『そうだな……。この世に一つだけ、そんなことが可能な大砲は存在する。ドイツの80cm列車砲だ』

「80cmだと? そんな馬鹿げたものが本当に存在するのか?」


 ドイツ陸軍の80cm列車砲は、全長48mにして1,350トンという駆逐艦並みの重量の大砲である。誰に聞いても世界で最大最強の大砲であるが、列車砲という名の通り線路がある場所でしか運用できず、使い勝手は悪い。


『実在は確実だ。ただ、あれほど巨大なものをバレずにアラスカに運び込んだとは、信じられなくてね。一体どうやって海を越えるんだ』

「お前達が偵察をサボっていたせいだな」

『制空権は完全に敵のものだ。無理は言わないでもらいたいな』

「まあいい。ここに来る前に空爆が何かで破壊しておけ」

『おや、君も恐れるものがあるのだな』

「80cm砲弾など耐えられる訳がないだろ」

『当然だな』


 と話していると、ジュノー周辺の偵察を行っていたレキシントンからシャーマン大将に報告が入ってきた。わざわざ艦橋から電話する必要もないので、レキシントンは司令室に降りてきている。


「噂をすればって感じだけど、80cm列車砲をここから70km北北東に確認したよ。ここに向かっているみたいだね」

「それはマズいな……。レキシントン、食い止められるか?」

「敵は護衛がいっぱいいるし、難しいかもしれないね」

「何とかしてくれ。そうでないとここにいる軍艦全てが消し飛ばされる」

「確実にやるのなら、サラと一緒に特攻するのがよさそうだね。美しくないやり方だけど、まあいいや」

「頼んだ。何としてでも止めてくれ」

「艦載機の補充はちゃんと用意してくれるよね?」

「もちろんだ」

「じゃあ行こう」


 周辺に敵がいないのなら、空母の船魄はわざわざ艦橋に登る必要はない。まあ大抵の空母はその方が気分が乗るので、艦橋にいることを好むが。


 レキシントンは司令室からやる気なさげに艦載機を操り、姉妹艦のサラトガと共に80cm列車砲に特攻を仕掛けた。山ほどいる護衛の戦闘機が爆撃機を狙ってくるが、それは全て囮である。


「まったく、戦闘機の無駄遣いだと思うんだけど」


 レキシントンはF9Fを全速力で急降下させ、列車砲の基部に突入させた。80cm砲そのものは無傷であるが、車輪は破壊され、動かすことはできまい。実際、千トンを超える列車砲を現地で修理するのは非常に困難であり、国連軍はジュノー攻撃を断念せざるを得なくなった。

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