カナダにおける不朽の自由作戦
一九五六年五月四日、ハワイ王国オアフ島、真珠湾基地国際連盟軍総司令部。
エルヴィン・ロンメル元帥は、不朽の自由作戦の開始時刻を現地時間にして13時きっかりに指定した。そして今は、アラスカ時間にして12時50分。作戦開始まで残り10分である。
「間もなく、作戦開始の時刻です。総司令官閣下、作戦が始まれば数百万の犠牲が出ることは避けられないでしょう。それでも、作戦を始めますか?」
山下奉文元帥陸軍大将は、ロンメル元帥に最後の確認を行う。山下元帥は日本が国連軍最高司令官に推薦していた将軍であるが、今は最高司令部の一員という立場である。
「全て承知の上です。どれほどの犠牲を出そうとも、国際連盟はアメリカの侵略に制裁を下さなければなりません。そうでなければ、国際連盟の存在意義がなくなってしまう。先の大戦でアメリカが日本を侵略しようとした時、国際連盟は何もしませんでした。二度と同じことを繰り返す訳にはいきません」
「その通りですな。国際連盟は真の国際組織になったと知らしめねばなりますまい」
「無論です。国連はいかなる侵略も許しません」
そしてロンメル元帥は全軍に命令を下した。
「国際連盟軍全軍に、国際連盟軍総司令官の名で告げる。これより、不朽の自由作戦を開始する。同時にその第一段階『カナダにおける不朽の自由作戦』を発動する」
ついに不朽の自由作戦が開始されたのである。第一段作戦として、アメリカへの通り道であるカナダ共和国の制圧作戦、カナダにおける不朽の自由作戦が発動された。
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一九五六年五月四日、カナダ共和国ユーコン準州、対ソ連国境要塞サンローラン線。
サンローラン線は全部で248の要塞が5km間隔で並んだ長大な要塞線である。主要な要塞はほとんどが地下に埋まっており、数百人が暫く暮らせるほど巨大な地下壕が広がっている。
「時刻、1255を回りました。5分後に、ソ連軍が攻撃してきます……」
「心配の必要などない。この41cm砲が、近寄ってくる全ての敵を粉砕するのだからな!」
要塞に埋め込まれている41cm3連装砲は、アイオワ級戦艦の主砲と全く同じものである。敵が攻め込んでくれば砲塔が地上に現れ、41cm砲があらゆる敵を粉砕するのだ。
「どんな大砲も41cm砲を壊すのは不可能なんだよな?」
「当たり前だ。41cm砲を壊せるのは41cm砲だけだからな。戦艦に車輪が生えて攻め込んできたら別だがな」
「だけど、敵を一人残らず殺さないと、要塞に敵が入ってくるんじゃないのか?」
「歩兵を一人残らず殺すのは無理だろうが、その時は機関銃で皆殺しにしてやるだけさ」
「そ、そうだな……」
と言っている間に、予定の時刻がやってきた。
「総員配置につけ!!」
「13時になりました!」
「多数の砲撃音を確認! 数え切れません!」
「衝撃に備えろ!!」
ソ連軍の無数の重砲が火を噴いた。世界最強のソ連砲兵がサンローラン線に全力を注いでいるのである。しかし、陸上の大砲など所詮は15cm砲程度に過ぎない。地下壕を覆う分厚いコンクリートを貫通することは不可能である。
「敵軍、動き出しました!」
「よーし! 41cm砲を出せ! ロシアの戦車を一つ残らず吹き飛ばせ!」
アイオワ級の砲塔が地中から姿を現す。もちろんアイオワ級と同等の装甲が施されているので、砲兵の砲撃ごときではビクともしない。
「目標、前方の戦車師団! 撃て!」
サンローラン線から反撃が開始された。戦艦の主砲の威力は絶大であり、爆風を喰らっただけでも戦車は足回りを破壊されて動けなくなる。直撃すれば跡形も残らない。射撃速度も優れており、30秒に1発の射撃が可能である。
「装填急げ!!」
「撃てます!」
「よし! 撃てッ!!」
敵の装甲車両は尽く41cm砲に粉砕され、ここからは見えないが歩兵も粉々になっていることだろう。一方でソ連軍の攻撃は全く通用せず、まさに一方的な戦いであった。
「この調子なら守りきれますよ!」
「ああ! 国際連盟がなんだ! カナダを舐めるな!」
「「おう!!」」
と、その時であった。慌てた様子の兵士が駆け込んできた。
「巨大な砲撃音を確認!! 41cmどころではない音です!!」
「何だと? 馬鹿な、そんなものある訳がない」
「で、ですが、こんな音はこれまで一度も聞いたことがありません!」
「計器の故障か何かだろう。すぐに修理をし――」
まさに、その瞬間であった。地下壕にいた者全ての命が、突然に終わりを迎えた。41cm砲も跡形もなく消し飛ばされた。誰も自分が殺されたことに気付かなかっただろう。
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一九五六年五月四日、アメリカ合衆国ワシントン特別区、首相官邸ホワイトハウス。
不朽の自由作戦が開始されて1時間が経過した。アイゼンハワー首相に不可解な報せがもたらされていた。
「首相閣下、サンローラン線司令部との通信が途絶しました」
「何? 電線でも切られたのか?」
「状況は不明ですが、カナダ政府も連絡が取れないとのことです」
無線で最低限の連絡は取れる筈。それすらもないのはおかしい。
「クソッ。何が起こってるんだ」
「か、閣下! 大変です! サンローラン線の東にソ連軍の戦車を確認したようです!」
「馬鹿な。何かの間違いだろう」
「サンローラン線との通信が回復しました。回復しましたが、その……」
「何だ? 早く言え」
「サンローラン線司令部は、既に、壊滅しています……」
「は……?」
アメリカとカナダが威信をかけて建設したサンローラン線は、僅か60分で突破されたのである。国連軍はその日の内に突破口を広げて安全な回廊を形成し、サンローラン線は無力化された。