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夜襲 雷撃戦Ⅱ

「お待たせ、峯風さん! 遅れてごめんね!」

『間に合っているから大丈夫だ』


 峯風の支援要請から20分ほど。妙高型の三人は妨害を撃退して、ようやく応援に駆けつけることができた。


「で、私達は何すればいいの?」

『あの戦艦を沈めてくれ。既に護衛は排除している』

「それって、あなた達の仕事じゃないの……?」

『普通はそうだが、護衛を沈めるのに魚雷を使い切ってしまってな』

「そ、そうなんだ……」


 那智は状況を大体理解したが、それでも戦艦に突撃などしたくなかった。重巡洋艦は駆逐艦と比べれば遥かに鈍重で、かつ大きい。戦艦の主砲の直撃を喰らう可能性は十分にある。


「……仕方ないよね。ここでやらないと、夜襲の意味がないんだから! 足柄ちゃん、羽黒ちゃん、敵の戦艦に向かって突撃するよ!」

『楽しそう!』

『私達の火力はそれほど大きくありませんから、まずは一隻に集中しましょう』

「わ、分かった!」


 那智・足柄・羽黒は単縦陣で敵戦艦の斜め左後方から突撃を開始した。現時点で双方の距離は3kmほど。昼間であればあまりにも近すぎると言える距離だが、この闇夜の中ではまだ見えていないらしい。


「敵が撃ってきたよ!」

『見つかったか』

『どうでしょうか。当てずっぽうなだけかもしれません』

「取り敢えず速度は緩めず回避!」


 那智はすぐ針路を右に曲げ、足柄と羽黒もそれに続く。敵の戦艦からの砲撃は、彼女達が直進していたらいたであろう場所とも今いる場所ともズレた、全く的を射ない場所に落着した。


「あれ、あさっての方向に飛んでったね」

『やはり。戦艦と比べれば私達は小柄です。よく見えないままに撃っているのでしょう』

『じゃあ近付き放題じゃん!』

「でもそれ、運が悪いとどんなに回避しても当たるってことなんじゃ……」

『迅速に行動するしかありません』

『当たらない当たらない!』


 この広い海で狙いも定めず砲弾を撃って命中する確率など如何程であろうか。実際それは無視できるほどに小さい。そういう訳で那智は敵に向かって一直線に突入することを決めた。


 戦艦からの砲撃が那智達の周囲に次々と水柱を立てて、偶に水中で爆発した衝撃が伝わってくるが、重巡洋艦がその程度で損傷することはない。


『敵艦までの距離、1,500mを切りました』

「もうちょっと近寄りたいかなあ」

『こんぐらいでも十分当たるでしょ!』

「うーん……」


 と思っていると、突然那智の視界が目が眩むほどに明るくなった。


「何!?」

『お、曳光弾じゃん! 誰かが撃ってくれたのかな?』

『あれは曳光弾ではなく照明弾です』

『あ、そうなの? まあどっちでもいいや』


 戦艦を頭上から太陽のように照らすのは照明弾である。眩く発光する弾頭をパラシュートなどでゆっくりと降下させることで、敵の姿を一方的に曝け出せるのだ。それが何発も降り注ぎ、水面の細かな波までもが詳らかになる。


『これで敵の速度と向きが分かります。この距離でも十分命中を期待できるでしょう』

「そうだね! 後ろの方の戦艦狙って魚雷斉射!」


 現在の妙高型は4連装発射管を6基装備しているが、片側に向けられるのは12門だけである。それでも三隻合わせて36本の魚雷が一隻の戦艦目掛けて発射された。発射し終えると、那智達は全速力で離脱した。


『大当たり!!』

「やったね、足柄ちゃん、羽黒ちゃん!」


 最低でも10本ほどの魚雷が戦艦の左舷に命中し、一時的に戦艦の姿が見えなくなるほど水飛沫が上がった。それが晴れると、戦艦は見て判るほど急速に傾いていく。一度に大量の魚雷を浴びたことでダメージコントロールが崩壊したのだろう。あの様子では助かるまい。


『残りの魚雷も撃っちゃおうよ!』

「確かに、ここで撃ち尽くしちゃった方がいい気もするけど……」


 と思っていると、那智に通信が入った。


「那智です!」

『阿賀野だ。もう一隻はこっちが仕留める。安全なところに下がっておけ』

「わ、分かりました! 頑張ってください!」


 阿賀野と能代、それにいつの間にか加わっている川内型の三隻が突入を開始した。重巡洋艦より小さく身軽なので戦艦の攻撃は脅威にならず、魚雷も合わせて40本を一気に放てるので、火力も足りている。


 決着はすぐに着いた。逃げ延びようとする戦艦を大量の魚雷が襲った。致命傷を負った戦艦は転覆し、真っ逆さまになったところで火薬庫に引火したのか、火山の噴火のような巨大な爆炎の中に消えていった。


『全艦に告ぐ。我らは十分な戦果を得たり。速やかに撤退せよ!』


 武尊が号令を掛け、夜襲部隊は速やかに撤収を始めた。撤退を妨害してきそうな巡洋艦は武尊や伊吹型が既に沈めていたので、何の問題もなく撤退することができた。


 ○


「ノースカロライナ、ワシントン、撃沈されました!」

「敵軍は既に撤退した模様です」

「援軍は間に合わなかったか……。何と無様な采配か……」


 シャーマン大将は日本軍の主力部隊の位置を掴むとすぐに増援を差し向けたのだが、間に合わなかった。


「これで、我が方の戦艦は三隻沈められました……。戦艦の数の優位は、失われたかと……」


 もう一方の夜襲部隊にウェストバージニアが沈められている。


「まだこちらには九隻の戦艦がある。決して数の上で負けた訳ではない……」


 ハワイ級と和泉型という切り札を除けば、戦艦の数は三対六で負けてはいない。日本軍にはアイオワ級を束にしないと勝てない武蔵がいるが。

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