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妙高型と武尊

 そのほんの数分前のこと。


 帝国海軍の夜襲部隊は補助艦によって構成される。その中で最も大きいのは武尊型大巡洋艦であり、その下に重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦が続く。国連艦隊は夜襲部隊を二つ編成しており、その片方の旗艦は武尊で、もう片方は霊仙である。


 武尊は敵艦隊を視界に収め、艦隊に突入前最後の言葉を投げかける。


『これより我らは夜襲を敢行する! 一寸先も見えぬ闇の中での戦いであるが、訓練の日々を思い出せば恐るることなし! 生きんと戦えば必ず死に、死なんと戦えば必ず生きるものなり! 者共、我に続け!!』


 そう宣言した次の瞬間、武尊の31cm主砲6門が火を噴き、前方20kmにいた米重巡インディアナポリスの第一主砲塔に3発が着弾した。インディアナポリスの主砲は一撃で破壊され、闇夜の篝火となって周囲の艦艇を照らし出す。


 それを一番に目撃したのは、武尊の三方を守るように展開する重巡洋艦達であった。誰かと言えば、妙高の妹達、那智・足柄・羽黒である。


「うわ、流石は31cm砲。重巡洋艦なんて木っ端微塵だね。妙高ちゃんにも見せてあげたかったなあ」


 と、呑気なことを言っているのは那智である。那智は竣工が妙高より早いので自分が一番艦であると主張して止まないのだが、妙高型という類別が公的に変わったことは一度もない。


『敵がよく見えるねえ。全部沈めてやろうじゃん、姉さん?』


 と、楽しそうに言うのは足柄である。まあまあ不名誉なものだが『飢えた狼』という渾名を持っている彼女は、その名の通り獲物に飢えているのである。


「命令なしに勝手に撃っちゃダメだからね、足柄ちゃん」

『ははっ。そりゃ気分次第ってもんだ』

「気分次第とか、軍艦が一番言っちゃいけない言葉だからね?」

『分かってる分かってる。だけど、敵はもう主砲の射程に入ってるよ?』


 この闇夜の中では観測機も出せないので、戦闘は完全に前時代的な有視界戦闘である。水平線の向こうの敵は全く見えないので、最大射程が40kmを超えている武尊も20kmまで近づかなければならなかった。つまり那智達の主砲も既に敵を捉えている。


『姉様、足柄の言うことも一理ありますし、ここは武尊殿に具申するべきかと』


 と、静かに告げるのは羽黒である。他の姉妹と全く似ず、感情を見せない少女である。


「うーん、そうだね。武尊さんに言ってみるよ」


 武尊は相変わらず砲撃を続けて敵の重巡洋艦を立て続けに粉砕しているが、那智達に砲撃の命令は下さなかった。那智は武尊に通信を繋いでその訳を聞いてみた。


「――武尊さん、何で私達に攻撃命令を出さないんですか?」

『敵に我らの戦力を悟らせぬ為に、お前達はもっと接近してから攻撃を始めるのだ。それまでは黙って我に着いてくるがよい』


 武尊率いる夜襲部隊は重巡洋艦5隻や軽巡洋艦10隻など結構な数がいるが、大砲を動かしているのは武尊だけである。敵は武尊の存在しか確認できまい。


「分かりました……」

『足柄が暴れたがっておるのか?』

「ええ、まさに」

『もう暫しの辛抱だ。15分も掛からぬであろう』

「そういう風に言っておきます」

『うむ。頼んだ』


 そういう訳で、那智はもう少しだけ待っていてくれと足柄に頼んだ。


『まあ15分くらいなら、待ってやってもいいかね』

「待つのが当然なんだからね? 勘違いしないでよ?」

『ちゃんと分かってるって』


 流石の足柄もそのくらいは我慢が持つようであった。15分で部隊は10km前進して、武尊は先程言った通り、重巡洋艦と軽巡洋艦に命令を下した。


『重巡、軽巡、共に撃ち方始め! 全ての敵を薙ぎ払え!』

『お、待ってました!』

「ちょっと、抜け駆けしないでよ!」

『速やかに攻撃を開始しましょう』


 武尊が敵艦を何隻か燃やしているお陰で、敵の姿はよく見える。重巡洋艦である妙高型三隻と伊吹型二隻は、敵の軽巡洋艦以下の艦艇を狙って一斉に砲撃を開始した。 但し敵に真正面から突っ込んでいるので、一番二番砲塔を除いて主砲の射角は大きく制限される。


『よしッ! 一匹仕留めた!』


 足柄は一発目から駆逐艦一隻に主砲弾を命中させ、その駆逐艦は大爆発を起こして瞬く間に爆沈した。


「あー! 私が一番先に手柄を挙げたかったのに!」

『姉さんがちゃんと狙わないからだよ!』

「このお! 私も負けてないんだからね!」

『敵も反撃を始めました。お気をつけて、姉様方』


 突然の攻撃にほとんど何も対応できていなかった敵軍だが、ここでようやく舷側を向けて反撃の構えを見せた。敵の複縦陣に横から突っ込むという一般的には非常に不利な状況であるが、敵の戦力と統制は既に損なわれており、有効な反撃は行えない。


 敵の重巡洋艦は武尊が4隻潰して残りは5隻程度であるし、その重巡洋艦も武尊を必死に攻撃して那智達には目が向いていない。軽巡洋艦の砲撃は近距離だとそれなりの脅威だが、敵は全く統制が取れずバラバラに撃ってきているだけで、重巡洋艦には通用しないというものだ。

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