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核攻撃

 両軍牽制し合って何も起こらないうちに、この大海戦始まって二度目の夜を迎えた。一寸先も闇という言葉が最もよく似合う夜闇の中、シャーマン大将は夜襲を掛けるか否かの最終的な判断を迫られている。


「日本軍は自身が夜襲を受けることには無警戒と予想されます! 我が軍の全力を以て、敵の主力艦に打撃を与えるべきです!」

「しかし閣下、我々は体系的な夜戦戦術を持っている訳ではありません。船魄と言えど、訓練もなしに夜戦を行うというのは、無理があるのではありませんか?」

「うむ……」


 シャーマン大将の参謀達は意見が真っ二つに割れていた。大将にはどちら側の意見にも理があると思われ、なかなか決断を下すことができなかった。図上演習の結果では割に会う戦果が出せる可能性が五分五分である。


 だが、その時であった。突然の報告が司令部を驚かせる。


「偵察のB47が撃墜されました! 4番機です!」

「何だと? 事故ではないのか?」

「事故などではありません! 和泉型戦艦の高角砲に撃墜されました!」

「和泉の15cm高角砲か……。化け物め」


 和泉型戦艦が観測機を一機も積んでいない代わりに装備しているのが、対空砲として世界最大級の15cm高角砲である。その最大射高は二万mに及び全世界のあらゆる航空機を撃墜するに足ると推測されている。


「直ちに全ての偵察機を離脱させよ! 急げ!」

「我々も敵の偵察機を撃墜しましょう!」

「もちろんだ。だが、そんなことをするまでもないだろうな」

「日本軍の偵察機、撤退していきます!」

「だろうな」


 日本の富嶽は速やかに離脱し、一機も撃墜されることはなかった。


「日本軍は何を考えている……? お互いに盲目の内に戦おうなど、正気の沙汰とは思えないが……」


 決定的に劣勢な側が万に一つの奇跡を狙う、というなら分かるが、別に日本軍は劣勢な訳ではない。こんな賭けに出る理由がないのだ。


「まさか、本当に夜襲を仕掛けてくる気だろうか……」

「確かに、こちらの戦艦を何隻か撃破すれば、日本軍の優位は絶対的になります」

「しかし、今の時代に夜襲など、やはり現実的ではないのでは? 視界がなくともレーダー射撃で対応できるかと」

「その通りだ。偵察機を潰したところで、それほど意味があるとは思えないのだが――」


 と、その時であった。通信士が大急ぎでシャーマン大将の許に駆け込んできた。


「閣下!! あ、アラスカから、弾道ミサイルが発射されました!!」

「……何だって?」

「弾道ミサイルです!! 恐らくは核兵器を搭載しています! それがここに飛んできています!!」

「ば、馬鹿なッ……! あり得ない……!」


 仮に本当に核兵器を使うつもりなら、正気の沙汰ではない。国際連盟が核戦争の引き金を引くなど、どんな冗談であろう。だが今はそんなことを言っている場合ではない。


「全艦に伝えろ!! 核攻撃に備えよ!!」


 もちろん、昔から核攻撃は想定されている。船魄は艦橋から離れられないので、艦橋の窓全てに自動で降りる鉛のシャッターが設置されている。直ちに全ての艦艇の艦橋シャッターが降ろされ、艦橋以外の乗組員は窓から離れて遮蔽物の後ろに隠れ衝撃に備えた。シャーマン大将も机の下に頭を突っ込んで、その時を待った。


 アラスカから発射されたソ連のR-7は、一直線にアメリカ艦隊の真上に飛んできた。到達までに掛かった時間はほんの十数分であった。


「間もなく弾着!!」

「衝撃に備えろ!!」


 シャーマン大将は最悪の場合レキシントンごと蒸発させられることも覚悟した。しかし、その時は永久に訪れなかった。


「……何が起こってる?」

「閣下! 外を見てください!」

「空が、燃えています……」

「あ、ああ、そのようだな……」


 それは見紛うことなく原子爆弾の炎であった。しかしそれは遙か上空で爆発し、シャーマン大将らは僅かな揺れも感じなかった。


「ご、誤爆か……?」

「閣下、もしかするとあれは、電磁パルス攻撃かもしれません」

「何だそれは?」

「高高度核爆発によって発生する電磁パルスで、電子機器を破壊することができるのです」

「何だって? すぐにレーダーと通信機を点検しろ!」


 大将は直感した。敵の狙いがまさにそれであると。結果はすぐに出た。


「レーダーが全てイカれています! 全く反応しません!」

「無線機は半分くらいは無事です! 通信の維持は可能かと」


 シャーマン大将はすぐさま全艦に点検を行うよう通達したが、結果はほとんど同じであった。ほぼ全てのレーダーが故障し使い物にならなくなっていたのである。


「なるほど……。偵察機もない、レーダーもない。つまり、日本軍が最も望んでいる状況という訳だ」

「し、しかし、これだけの危害範囲では、日本軍のレーダーも故障するのでは?」

「さあな。敵は依然として100kmは離れている。影響がないのかもしれないし、あったとしても、日本軍はそもそもレーダーなしで戦うことを前提に戦略を立ててきた国だ。日本軍が夜襲を仕掛けてくるぞ……」


 と、大将が確信を持った、まさにその瞬間であった。


「インディアナポリスより入電! 日本軍の攻撃を受けています!」

「始まってしまったか」


 レーダーを失ったアメリカ軍は、この真っ暗闇の中で目視に頼って戦うしかなくなった。それは帝国海軍が理想とする状況そのものであった。

船魄紹介だけを纏めたものを別の小説という形で独立させてみましたので、船魄達を見返したい時などにご利用ください。


https://ncode.syosetu.com/n7379jz/




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