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仁淀の戦い方

 暫くするとアメリカ海軍は第三次攻撃隊を発艦させた。今回も洋上で編隊を合流させる手法で90機を一気に飛ばしてくる。


「敵編隊、90機、600kmに確認」


 仁淀は偵察機で敵の存在を把握した。仁淀自体には艦載機を運用する能力がないので友軍の空母に載せてもらっているものである。とは言え、敵が対空電探の探知距離に入るまではまだ、行動を起こすことはできない。


「目標、300km」


 対空電探が敵を捕捉した。


「目標を選定。16。上甲板の無人を確認。対空誘導弾全弾発射」


 仁淀上甲板の外周に並んだ16基32門の誘導弾発射機から32本の対空ミサイルが射出される。甲板に人がいたら全身火傷で即死間違いなしの火花を放ちながら、あっという間に水平線の向こうに消えていった。


「全誘導弾発射を確認。直ちに装填を開始せよ」


 無感情な声で仁淀が艦内に告げると、すぐさま上甲板に50人ほどの兵士が出てきて、次のミサイルの装填を始める。誘導弾発射機はようやく実用化に漕ぎ着けたばかりで、艦砲のように装填を自動化できていないのだ。


 しかし彼らは訓練に訓練を積み重ねてきた精鋭兵である。ほとんどの艦艇が船魄化されている帝国海軍において、戦闘艦艇に戦闘要員として乗り込めているというのは大変な栄誉なのだ。彼らの仕事は実に素早く、32本のミサイルを再装填するのに僅か150秒しか要さなかった。コメットの速度を考えるとまだまだ十分とは言えないが。


「全弾再装填を確認」


 コメットは14機減らしたが、まだまだ残っている。仁淀は次の目標を選択する。


「目標を選定。16。上甲板の無人を確認。対空誘導弾全弾発射」


 先程と全く同じ口上と共に、再び全誘導弾を発射する。仁淀によって制御されたミサイルに狂いはない。


 ○


「またです! もう残り40機しかありません!」

「クッ……。日本軍に先を越されたということか」

「先を越された、ですか?」

「ああ。これで確信した。彼らが運用しているのは対空ミサイルだ。我が国でも研究はされているが、実用化の目処は立っていない」


 シャーマン大将は日本軍の新兵器の正体をほぼ完全に見抜いた。対空ミサイルそのものは第二次世界大戦の頃から盛んに研究が始まっていたのだが、アメリカの対空ミサイル「テリア」や「ターター」は試作段階で留まっており、とても実戦投入できる代物ではない。


「ドイツより日本が対空ミサイルで先を越している、ということでしょうか」

「ドイツは巨大なミサイルを造ることには長けているが、ああいう小型のミサイルの技術は大して持っていない。それに対して、日本と我が国は昔から実用的な武器としてのミサイルに興味を持ってきたからな……」


 先の大戦でアメリカが運用していたコメットI型も対艦ミサイルと言えば対艦ミサイルである。


「第三次特別攻撃隊、全滅!」

「何の成果も、挙げられなかったようです……」

「閣下、いっそ哨戒艦を狙ってはいかがですか? 孤立している駆逐艦くらいなら簡単に沈められます」

「そんなものを沈めたところで、何になると言うんだ? 憂さ晴らしにしかならないだろう」

「そ、そうですね……」

「それよりも、一番いいのは敵のミサイル艦を沈めることだ。敵は恐らく、ミサイルを数隻程度の専用艦に纏めて運用していることが推測される」

「ミサイルは防御上の弱点でしかないから、ですか」


 魚雷に引火して爆沈というのは、日本でもアメリカでもよくあることであった。魚雷よりも火薬の塊であるミサイルが被弾したらどうなるかは、考えるまでもない。


「おお、よく分かってるじゃないか。そう、最前線で撃ち合う可能性がある艦にミサイルを載せることはできない。空母に載せるという手もあるだろうが、重点的に観測している空母からミサイルが発射されている様子はない」

「なるほど……。しかし、そういう艦艇は確認されておりませんが……」

「ミサイルの軌跡からして、それが敵艦隊の内側にいることは確かだ。よく探すんだ」

「それはつまり、その為だけにコメットを使うということですね?」

「……そうだ。魚の餌に人間の命を使うとは、ルーズベルトも驚くだろうがな」


 シャーマン大将は自嘲する。


 第四次特別攻撃隊として30機のコメットが出撃した。観測機は日本艦隊の上空でミサイルが発射される瞬間に目を凝らし、そして仁淀を発見した。


「敵のミサイル艦は一隻だけでした。和泉の陰に隠れていたようです」

「前線部隊にいたか」

「しかし、これさえ沈めれば、我々は勝てます!」

「そうだ。その通りだ。第五次攻撃隊を90機で発艦させよ。目標は敵ミサイル艦、ただ一隻だ!」

「しかし閣下、敵が戦艦に隠れたら、コメットではどうにもならないのでは?」

「大丈夫だ。ミサイルを発射する為には、正面に障害物があってはならない。ミサイル艦がコメットを攻撃できるのならば、我々もミサイル艦を直接攻撃できる」

「なるほど……」


 コメットは専用の輸送艦で千機以上持ち込んできている。仁淀を撃沈さえできれば、日本軍の空母に損害を与えることも可能になる筈だ。

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