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 水平装甲を貫いた爆弾は艦内で爆発し、艦橋は大きく揺さぶられた。


「閣下! お怪我はありませんか!?」

「艦長、君は私のことなど気にしていないで、自分の艦の心配をしたまえ」

「す、すみません……」

「別に謝ることはないが。デモイン、君は大丈夫か?」

「痛い……」

「すまない。少しだけ我慢してくれ」


 デモインの反応は明瞭だったので、致命的な損傷にはなっていないとケネディ少将は判断した。損傷はあるが、デモインにはまだまだ対空砲火を維持してもらわなければならない。


「敵機、撤退していく模様!」

「効果がないと判断したんだろう。放っておけ」


 一時的にペースを崩されていたエンタープライズが反撃に出て、敵の攻撃機を撃墜し始めていた。


「閣下、どうなさいますか? 今なら霧島を追撃することも可能では?」

「そうしたら、また全力で攻撃してくるぞ。我々の目的は戦艦を一隻でもキューバに送り届けることであって、我々は敵を撃退することに成功した。これ以上を求めるべきではない」


 アメリカ側の被害はニュージャージーが大破(あの損傷では廃艦は免れないであろうから、実質的に轟沈も同じ)と、デモインが中破であった。ニュージャージーが失われるのは想定外だったものの、ケンタッキーは無傷で残っている。キューバへの支援は問題なく行えるだろう。


 ケネディ少将が霧島に興味がないことを察すると、日本軍も自ずと引き上げていった。妙高と愛宕が放った魚雷も、流石に間隔が広く全て回避することができた。かくして戦闘は自然に終息したのである。


「諸君、我々の勝利だ。キューバに向かうぞ」


 戦術的には大した損傷もなくニュージャージーを撃破した日本側に軍配が上がるだろう。しかし、ケンタッキーがキューバに行くのを阻止できなかった時点で、日本側は戦略的に敗北しているのだ。


 ○


 さて、戦闘が終息した後、比叡は霧島に移乗していた。霧島は散らかった自室でベッドに横になっていた。


「あー、姉さん……」

「霧島、大事ありませんか?」

「うん。大分落ち着いてきたよ。……ねえ、アタシのせいで負けたのかな?」

「何を言っているのですか。あの場にいたのが霧島でなかったら、戦艦をどちらも無傷で通していたことでしょう。あなたはよくやりましたよ」


 比叡は霧島の頭を撫でる。


「そっか。まあ、姉さんが無事なら何でもいいか」

「もう少し軍人らしく、任務に忠実でいてくださいな」

「そんなの知らないー」


 霧島がいつもの調子を取り戻していることを確認すると、比叡は自分の艦に戻ろうとしたが、そこを霧島に止められた。


「姉さん、今日は一緒に寝よう?」

「あら。霧島がそう望むなら、もちろん構いませんわ」

「やった」


 その日の夜は大変熱いものになった。


 ○


 一九五六年四月十三日、キューバ共和国ベネズエラ南方。


 月虹は比叡や霧島を伴って海上要塞に帰投したが、ケンタッキーも襲来していた。幅がおよそ80kmのキューバを挟んで大和とケンタッキーが向かい合っているという奇妙な状況であるが、キューバ軍にとって事態は深刻であった。


「予想はしていたが、これはマズいな……」


 鳳翔の会議室で、ゲバラは地図を見つめながら呟いた。


「やっぱり、突破されそう?」


 瑞鶴は問う。


「ああ。南半分は大和のお陰で僕達の独壇場だが、北半分はアメリカの独壇場だ。防衛線は今日にでも崩壊しそうだ」


 ケンタッキーから艦砲射撃の援護を受け、アメリカ軍はキューバ軍の防衛線を急速に侵食している。ケンタッキーの主砲の射程圏内では抵抗するだけ無意味なのである。


「わたくし達が不甲斐ないばかりに……。申し訳もございません……」


 と、比叡は頭を下げた。


「いやいや、君達はよくやってくれたよ。格上の戦艦一隻を沈めてくれただけでも十分だ」

「しかし、目標は達成できませんでしたわ」

「最初から無理な目標だったんだ。気にしなくていい」


 とは言いつつも、ゲバラはこの苦境を脱する手段を考えなければならない。


「瑞鶴、無理は承知の上だが、ケンタッキーを沈められないか?」

「爆撃して沈めるってこと?」

「そうだ」

「出撃した時点でエンタープライズから戦闘機が飛んでくるから、厳しいわね。向こうの対空砲火も無視はできないし。それと、ケンタッキーを攻撃したら、大和も攻撃されるでしょうね。それはあなた達も困るでしょう?」

「なるほどなあ……」


 両軍はお互いの戦艦には手を出さないと暗黙の約束をしているようなものだ。月虹もエンタープライズもキューバにおり、艦載機にとってはすぐ近くである。どちらかが相手を直接攻撃することを選べば、対応は間に合わず双方が壊滅的な被害を受けるだろう。暗黙裏に戦闘の激化を回避しているというのが現状なのである。


 ケンタッキーを沈めたとしても、大和が攻撃を受けて動かせなくなればキューバ軍に不利だ。陸上戦力ではアメリカが優勢だからである。大和がエンタープライズの攻撃を受けて航行不能になることは絶対に避けねばならない。


「大和を守り抜いてケンタッキーだけを沈める、とはいかないのか?」

「もちろん、上手くいけばできるとは思うけど……」

「大和を危険に晒したくはないか」

「いや、別にそんなことは――」

「構わないよ。元から大和は君のものだ。クーバの為に使ってくれているだけありがたいよ」

「あ、そう……」


 瑞鶴の判断が大和への愛によって曇っていることは否定できなかった。

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