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援軍のアテⅡ

「――っていう話になったんだけど、鳳翔はどう思う?」


 鳳翔に第六・第七艦隊との連絡役、つまりこれら艦隊の実質的な旗艦になってもらうという案を、瑞鶴は提案した。


「話は理解しましたが、私は最前線には赴けませんし、非現実的と言わざるを得ないかと」

「ま、そうなるわよね……」


 仮に実行に移すとなれば、最前線で妙高などが指示したいことを後方の鳳翔に一旦伝えて、そこからまた前線に伝えるという非効率な形態を取らざるを得ない。咄嗟の命令はまず間に合わないだろうし、現場を見ていない鳳翔の仲介を経てきちんと意思疎通が取れるかも怪しい。


 別に鳳翔の能力が欠如しているという訳ではなく、どんな空母がやってもこのやり方は非現実的だろう。


「じゃあ、あんたのところの夕風にやらせてみるってのは?」


 瑞鶴はふと思い付いた。鳳翔の専属メイドである夕風を使うのはどうかと。


「それは、申し訳ありませんが、無理です。夕風がいつ建造された駆逐艦だと思っているのですか?」


 鳳翔の口調にはやや怒りが感じられる。が、瑞鶴は単純に夕風の艦歴を知らなかった。


「ええと……いつ?」

「……1921年です。それに、吹雪型駆逐艦の以前と以後では、性能がまるで違うでしょう?」

「そんな話は聞いたことあるわね。あんま知らないけど」


 吹雪型駆逐艦は駆逐艦という概念を塗り替えたと言われるくらい革新的な、重武装化かつ航洋性に優れた駆逐艦であった。それ以降の全世界の駆逐艦は吹雪型を手本にしたと言っても過言ではないが、逆に言うとそれ以前の駆逐艦は現在では非常に非力なのだ。


「ともかく、夕風を前線に出すなんて私は許しませんからね」

「分かった。それは構わないけど、夕風は本当にそれでいいの? 軍艦……ではないけど、帝国海軍の駆逐艦なら戦いたいんじゃないかしら?」

「それは……」


 夕風の気持ちを無視しているのではないかと指摘され、鳳翔は反論できなかった。


「まあ、峯風型駆逐艦じゃ今の戦争に着いていけないってのは流石に知ってるから、この話はこれで終わりね」


 結局、第六・第七艦隊の力を借りることは不可能と判断された。


 ○


 さて、アメリカ軍がそんな事情に構ってくれる筈はなく、依然として攻勢は続いている。月虹は丸一日かけて海上要塞をベネズエラの沿岸に移動させ、大和を沿岸砲台にし、ここを絶対防衛圏とすることに決めた。


 もちろんアメリカ軍の補給路への爆撃は続けているが、アメリカ軍も再び大規模な護送船団を編成して大量の物資を運び込んで対抗してきた。戦況は依然としてキューバに不利である。


 ○


 一九五六年四月六日、アメリカ合衆国ワシントン特別区、首相官邸ホワイトハウス。


「キューバ戦線の平均的な進軍距離は、一日におよそ20km。依然として順調です」


 マーシャル元帥はアイゼンハワー首相に淡々と報告する。


「また、エンタープライズも間もなく動かせるそうです。彼女をハバナにでも配置すれば、瑞鶴達の襲撃に逸早く対応することができるようになり、地上からでも物資を輸送できるようになるでしょう」

「そうか」

「しかし、恐らく明後日には、我が軍はキューバ軍の防衛線に衝突するでしょう。キューバの狭隘な部分を効果的に活用した防衛線です。突破することは困難かと」

「また大和か……」

「はい。あれを撃沈ないし無力化することは、キューバを早期を占領する上で必要不可欠です」

「それができれば苦労はしないのだ……」


 大和は瑞鶴が徹底的に守っているし、戦艦を差し向けたとしても、アイオワ級の火力で大和を撃沈するのはほぼ不可能である。こちらが船魄化されていたとしても、装甲を貫通できない以上はどう足掻いても無駄だろう。


「閣下、キューバの攻略は諦めて、ドイツ軍が来ても時間を稼げるように防衛線を固めておくという手もあります」

「そうだな。キューバを全土占領しても、今のままでも、大して変わらないかもしれんな」

「私としてはそれが妥当かと思いますが」

「だが、元帥は一つ忘れていることがあるぞ。ドイツ軍には強襲上陸を行う能力がないということだ」


 第二次世界大戦中にドイツがイギリスに上陸した時は、海岸の防衛線を徹底的に破壊し、妨害などほとんどない状態であった。ドイツは水際防御を強行突破して迎撃する術を知らないのである。


「確かに、それはその通りですが、上陸地点に徹底した砲撃を浴びれば、イギリスの二の舞になるだけでは?」

「塹壕とトーチカでも用意しておけばいいだろう。キューバはそもそも上陸できる場所が少ない」

「可能な限りの備えはしましょう。では、我々は引き続き、キューバの全土占領を目指す、ということですね?」

「ああ」

「しかし、先程も申し上げましたが、キューバ軍の防衛線は非常に堅固で、簡単に突破することは不可能です」

「それなら、一つ作戦を思い付いた」

「と、言いますと?」

「ニュージャージとケンタッキーをキューバに突入させ、沿岸砲台にする。大和と同じようにな」

「海上護衛と海岸の防衛を捨てるおつもりで?」

「そんなものはクソ喰らえだ。フロリダが焼け野原になろうと……この戦争に勝てばいい」


 アイゼンハワー首相はキューバ突入作戦をスプルーアンス元帥に命じた。

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