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援軍のアテ

 さて、ドイツ海軍大洋艦隊第二隊群は無事に撤退することに成功したが、それはただでさえ少ない国連軍の駒が減ったことを意味していた。


 先のマイアミ沖海戦から3日後、アメリカ軍は再び揚陸艦を用いた輸送作戦を実行に移した。瑞鶴、グラーフ・ツェッペリン、鳳翔はこれに対し全力で航空攻撃を行ったが、エンタープライズの妨害もあってそう上手くはいかず、敵輸送船団の半分を撃沈するに留まった。


「クソッ……。これは失敗ね」


 鳳翔艦内の会議室で瑞鶴は舌打ちした。普段は瑞鶴を擁護するチェ・ゲバラであるが、この時は彼も余裕がなかった。


「ああ。アメリカ軍は恐らく、輸送船の半分くらいは沈むことを想定している。前線の勢いが衰える気配はないし……状況はとても悪い」


 どうせ襲撃を受けるのならば大多数が沈められても問題ないくらい大量の輸送船を一気に投入しようというのが、アメリカ軍の判断であった。アメリカの生産能力と人的資源はまだまだ健在なのである。


「そろそろここも危うくなってきたのではありませんか?」


 鳳翔は問う。ゲバラは溜息を吐いて応えた。


「その通りだ。ここトリニダは敵に包囲されつつある。明日か明後日には完全に包囲されることには違いない。大和がある以上、ここに立て籠ることは可能だろうが……」

「それでは大和を置いておく意味がなくなってしまいますね」

「そうだ。ここに大和がいれば、アメリカの補給をかなり妨げることができるが……それは間違いないんだが、敵が船を使い始めた以上は、あまり意味があるとは言えない」


 東西に長いキューバの、南北の幅にして半分ほどが大和の主砲射程圏内に入っている。アメリカ軍は北半分を通って物資を運ばなければならないが、陸上輸送がそもそも重要でなくなってきているのだ。


「大和がいなくなったらもっと酷いことになるんじゃないの?」

「それはそうだが、かと言ってこのままでは僕達は負ける」

「では、前線を後退させるしかないんでしょうか……」


 妙高は申し訳なさそうに言った。


「恐らくは、そうすることになるだろうね。ここから東に120kmほど下がったところで、クーバは一番細くなっている。そこに大和を置けば、アメリカは地上からほとんど侵攻できなくなるだろう」


 キューバの地方都市ベネズエラの当たりで、キューバの幅は僅か80kmにまで細くなる。ここに防衛線を敷くしかないとゲバラは判断した。そしてその日のうちに、カストロ議長から正式に防衛線の再編が命じられた。


 という訳で月虹はベネズエラの沿岸に撤退することになった。もちろん海上要塞も引っ張っていく。瑞鶴が落ち着ける居場所欲しさに奪った海上要塞であるが、その場で補給や整備が行えて、大和を四六時中同じ場所に停泊させていられるので、案外有用なのである。もちろん居住空間としても有能であるが。


 海上要塞の曳航は大和と鳳翔に任せて、瑞鶴は大和の艦橋に来ていた。その目的は有賀中将に第六艦隊の扶桑と連絡を取ってもらうことである。特に問題もなく、扶桑と連絡が取れた。ニューオーリンズの戦いで大破した扶桑は現在、プエルト・リモン鎮守府で修理を受けているらしい。


「――あの時の損傷は大丈夫なの? まあ死んでなければどうとでもなる気はするけど」

『大丈夫と言われますと……わたくしは生きておりますから、大丈夫です。損傷具合としては、最低限の応急処置にも3ヶ月はかかるとのことです』

「当分は動けないのね」

『はい。不甲斐ないです……』

「それはそうと、あんたに頼みがあるわ」

『何でしょう』

「あんたの艦隊の艦を何隻か貸して。こっちは今キューバを守るのに全く戦力が足りないのよ。大体、何で私達みたいな民間団体にキューバを任せっきりなのかも分からないけど」


 ついうっかり現状に対する不満が漏れてしまった。帝国海軍の最大戦力である鳳翔を寄越してくれたとは言え、それ以外は月虹に丸投げとは、酷い話である。


『なるほど……。そうしたいのは山々なのですが……瑞鶴さんもお分かりでしょう? それがわたくしの意思で決められることではないということくらい』

「じゃあ連合艦隊と交渉してよ」

『それは構いませんが、敵味方識別装置を解除するというのは、不可逆の行為です。そう簡単に言わないでいただきたいものです』


 扶桑なしで月虹と行動を共にできないのは、彼女達が未だに敵味方識別装置の制御下にあって、月虹のことを人類の敵アイギスであると認識しているからである。


「そんなこと、キューバの危機より大事なの?」

『そんなこと、などとは言わないでください。長門さんなどには言われたと思いますが、敵味方識別装置は船魄の心を守る措置でもあるのです』

「それについては同意しかねるけどねえ」

『……誰もが瑞鶴さんのように簡単に同類を殺せはしないのです』


 扶桑からの回答は、拒否であった。瑞鶴にこんな所で倫理の議論をする気はなく、言い返すことはなかった。


『――仲介役が欲しいというのなら、鳳翔さんに頼めばよろしいのでは?』

「なしではないんだけど、鳳翔はあんまり旗艦とかには向いてなさそうなのよね。咄嗟の事態に弱そうだし。それに前線には出せないし」

『背に腹は代えられないのではありませんか?』

「まあねえ……」


 どうやら扶桑と山城は役に立たなさそうなので、瑞鶴は鳳翔を活用する方針を模索せざるを得なくなった。

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