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エンタープライズの特攻Ⅱ

『同志長門! また来たぞ!』

『波状攻撃とでも言いたいのか……。全艦、対空戦闘用意はできているな?』


 コメットはニューオーリンズから再び姿を現した。数は今度も30機ばかり。コメットは滞空して後続を待っていることができないので、纏めて出せる編隊の数には限りがあるのだ。


『距離60km……。よし。全艦、撃ち方始め!!』


 長門は先の戦闘で、敵が射程に入る前から斉射を行うべきだと確信した。コメットの速度ならば砲弾が届く頃には射程圏内に入っているからである。合計して67門の主砲が火を噴く。コメットより主砲の方が多いのだ。しかし、これほど大量の三式弾の爆風を浴びてもなお、一斉射で落とせたのは5機に満たない。


『こんな技術を持ってるのは、やっぱりエンタープライズしか考えられないわね』


 瑞鶴は長門に告げた。


『やはり、お前もそう見るか』

『ええ。あんなロクでもない機体を制御できてるだけで十分に手練だと思うわ。まあ実際にやったことはないから分からないけど』

『それはまた、厳しい戦いになりそうだ』

『鬼に金棒って奴ね』

『正に、その通りだな……』


 二度目の襲撃ともなると連合艦隊側の船魄も慣れてきて、最後まで生き残ったコメットは4機だけ。今度もソ連艦隊に狙いを定め、ソビエツカヤ・ウクライナの横腹に突入した。やはり狙いはソビエツキー・ソユーズのようだ。


『同志ウクライナ!! 大事ないか!?』

『わ、私は大丈夫だよ……このくらい、どうってことない……!』

『すまない……』

『面子にこだわる共産党の弱みを突いてくるなんて、嫌らしい敵だね』


 ソビエツカヤ・ベラルーシは他人事のように淡々と言う。ソビエツキー・ソユーズ級の誰であれ、撃沈される危険があれば第一書記に撤退を命令されるというのは、既にアメリカ軍にも知れているのだ。


 ○


 苦しい戦いを強いられている日ソ連合艦隊であるが、エンタープライズもまた大した成果を挙げられず舌打ちしていた。


「流石に戦艦を三隻も沈められる火力はありません。まさかこんな原始的な方法に遮られるとは」

「コメットの意外な欠点だな」

「ええ、まったくです。もっと低速だったら、上手いこと真上からソユーズだけを狙えるんですが」

「そんなのは自殺行為だろう」

「ええ、まったく。それに空爆で戦艦を沈めるのは不可能。作戦は失敗のようですね」

「なら、ソ連の空母を狙ったらどうだ?」


 キエフ級航空母艦二番艦ノヴォロシースクのことである。


「ふむ。政治的な効果は低そうですが、やってみましょう」

「些か小型だが、ソ連にとっては数少ない空母だ。奴らも相当嫌がるだろう」

「そうであるとよいのですが、物は試しですね」


 エンタープライズは次のコメットの発艦準備を進めさせた。


 ○


 その一方、連合艦隊もそろそろ黙ってやられることに飽きてきた。


『我はこちらからも艦載機を出して攻撃すべきだと思うが、どうだ』


 と、ツェッペリンは瑞鶴に提案した。


『そうね。黙っていても状況は良くならなさそうだし、エンタープライズさえ何とかすればこの攻撃も収まる』

『うむ。長門に言っておいてくれ』

『あんたが直接言えばいいのに』

『いや、その、長門とは一度も話したことがないからな。お前が言った方が早いだろう』

『はいはい』


 ツェッペリンの意見にも一理あるし、無駄な議論に時間を溶かす訳にもいかないので、瑞鶴は長門に攻撃を具申してみた。


『――なるほど。珍しく、お前の言う通りだ』

『……で、やるの? やらないの?』

『お前の提案を受け入れよう。全空母に告ぐ。直ちに全艦載機を発艦させ、ニューオーリンズ近海の敵艦隊、特にエンタープライズを攻撃し、これを無力化せよ!』

『珍しく話が分かるじゃない』


 早速、七隻の空母は発艦作業を開始した。瑞鶴の飛行甲板はまだ直っていないので他の艦より時間がかかってしまうのだが、もたついている間にまたしてもコメットが飛んで来た。


『次から次へと……。迎撃だ!! 今度こそ全て撃ち落とせ!!』


 三度目の迎撃を行うが、エンタープライズの回避の腕も上がっており、全て撃ち落とすことは叶わない。


『ソユーズが狙いではないのか?』


 長門はソビエツキー・ソユーズらの上空をコメットが飛び去るのを一瞬だけ追うことができた。そして次の瞬間、ノヴォロシースクの飛行甲板をコメットが貫通した。


『空母を狙いに切り替えたか……。ノヴォロシースク、損害は?』

『だ、大丈夫、みたいです、長門さん……。艦体を貫通、されてますけど、そのお陰で、致命傷は、ない、です……』


 コメットはあまりにも弾速が高く、ノヴォロシースクの飛行甲板どころか船体までも貫通して、反対側の海面で炸裂した。そのお陰で沈没の可能性は皆無なのだが、ノヴォロシースク自身には内蔵を抉られるような痛みが伝わっていた。


『とても大丈夫そうではないな……。お前は休んでいろ。これは命令だ』

『す、すみません……』


 ノヴォロシースクは艦載機を飛行甲板に戻す余裕もなく、全て着水させると死んだように眠りについた。


『我が艦隊から落伍者を出すとは。申し訳ない、同志長門』

『気にするな。だが、これ以上ノヴォロシースクが狙われるとマズいな……』

『誰かに曳航させて撤退させるか?』

『いや、敵がノヴォロシースクを沈める気なら、そんなことをしても意味はない』

『承知した。だが一応、我々がノヴォロシースクの盾になっておこう。構わないか?』

『ああ、頼んだ』


 ソビエツキー・ソユーズ級ならまだ耐えられるが、ノヴォロシースクがあまりにも攻撃を喰らうのは轟沈の危険がある。ソユーズの判断でソビエツカヤ・ベラルーシがノヴォロシースクの物理的な盾となった。


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