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ニューオーリンズ海戦

 一九五六年三月十八日、アメリカ合衆国ルイジアナ州ニューオーリンズ。


 アメリカとメキシコに挟まれた広大なメキシコ湾であるが、意外にも港は少なく、軍港という軍港も存在しない。だがアメリカ海軍はカリブ海に睨みを効かせる必要があり、ここニューオーリンズにエンタープライズら東海岸の主力艦隊を集めていた。なお、モンタナ級の二隻はバミューダ諸島に残っているグラーフ・ローンを警戒してワシントンに留め置かれている。


「エンタープライズ、お前にとっては良い報せだ」


 マッカーサー元帥はエンタープライズの艦橋に上がって来た。


「どうしたんですか?」

「日本海軍が総攻撃を仕掛けるつもりのようだ。瑞鶴達も一緒になってな」

「それはそれは。ふふ。アメリカ海軍にとっては最悪の報せですが、私にとってはとても良い報せです」


 エンタープライズは恍惚の笑みを浮かべる。ドイツ海軍と共闘した大西洋海戦はドイツの都合で打ち切られてしまったが、今回はそんなこともないだろう。


「日本軍の戦力は?」

「戦艦七隻、空母七隻、その他諸々だ」

「その数、ソ連海軍も加わっているのですか?」

「ああ、その通りだ」

「大した戦力を揃えたものですね……」


 敵の陣容は概ね把握した。エンタープライズは勝てるか否か、すぐさま頭の中で図上演習を展開した。


「空母の方はどうにかなるとして、戦艦七隻ってのは相手にならないと思うがな」


 エンタープライズの手元にある戦艦は、何代目か分からないニュージャージーとケンタッキーだけである。


「そうでしょうか? 相手はソビエツキー・ソユーズ級を除いて30年以上前の旧式艦です。恐れる必要もないでしょう」

「そのソビエツキー・ソユーズだけで三隻いるじゃないか」

「所詮はソ連の艦です。大して警戒する必要はありません」

「お前……諦めたくないから敵を軽視してるフリをしてるだろ」


 実際、純粋な戦闘能力はアイオワ級よりソビエツキー・ソユーズ級の方が高い。火力は同等だが防御力は負けている。アイオワ級は速度で上回っているものの、敵を翻弄したところでどうにもならない。


「まさか。そんなことはありませんよ」

「勝算でもあるのか?」

「ソビエツキー・ソユーズ級さえ無力化すれば、残りはニュージャージーとケンタッキーで適当にあしらっていればいいでしょう」

「無力化する方法は?」

「我が軍にはせっかくの新兵器があるじゃないですか」

「コメットか? だが、あれはもう既に部隊が崩壊してマトモに運用できる状態じゃない」


 民主主義への熱狂で自爆を強いるというのは、最近の若者には通じないようである。


「私がやりますよ。これを見越して、艦載機型も開発しているのでしょう?」

「それはそうだが……お前、本気か?」


 空母型の船魄とて何の痛みも感じずに闘える訳ではない。それどころか戦艦よりも痛みを感じることもあるだろう。艦載機の損傷はそのまま痛みとして伝わるし、艦載機が落とされると擬似的な死の感覚すら伝わって来るからである。歴戦の瑞鶴やツェッペリンでも、自爆は極めてやりたくない。


「痛みなど、どうということはありません。ここで勝てば、瑞鶴をようやく私のものにできるのですから」

「……分かった分かった。好きにしろ」


 マッカーサー元帥はスプルーアンス元帥に確認して、エンタープライズの提案を作戦に組み込むことにした。スプルーアンス元帥は東海岸全体の防備を固めるべくバージニアのノーフォーク海軍基地にいる。


「――ありがとうございます、元帥閣下。しかし、ドイツ海軍が襲って来ないのは幸運でしたね。ドイツ軍も一緒になって攻め込んで来たら、私も流石に逃げるしかありませんでしたから」

「まあ、ついこの前殺しあったばかりだからな。昨日の今日で仲良く一緒に戦おうとは行かんだろう」

「ふふ。実に僥倖です」

「それについては俺も同意見だ」


 エンタープライズは日本・ソ連連合艦隊を壊滅させて瑞鶴を自分のものにする気である。


 ○


 長門の指揮の下、日ソ連合艦隊は北上する。プエルト・リモン鎮守府からニューオーリンズまで、急いで2日で到達することができた。アメリカ海軍はもう余裕がないのか、ここまでの航路で妨害を受けることもなかった。


 そして今、連合艦隊はニューオーリンズの南方300kmほどの地点にあり、空母を守るように大きな輪形陣を組んでいる。再外周には対潜警戒の駆逐艦、その内側に盾となる戦艦、更に内側に巡洋艦達と言った陣形である。因みに瑞牆は先の大西洋海戦でまたしてもボロボロになってしまったので、今回は不参戦である。


『最上型の皆さんとも、仲良くできないものでしょうか……』


 すぐ近くの最上型重巡洋艦達を眺めながら、高雄は妙高にぼやいた。


「本当はそうしたいけどね……。高雄の第五艦隊の時の先輩が、最上型の鈴谷さんだったんだよね」

『ええ。姉妹の方にはお会いしたことがないので、いつかお話したいなと』

「そっか……。でも、どうしたらいいのかなあ」

『わたくしにも、何とも……』


 瑞鶴が夕張からもらった敵味方識別装置を解除する装置のことは知っているのだが、それを使える状況はかなり限られている。妙高も高雄もただ嘆くことしかできなかった。


 と、その時であった。全艦隊に向けてソビエツキー・ソユーズからの通信である。


『北方より迫る高速の飛翔体を確認した! コメットに違いない!』


 エンタープライズがコメットで先制攻撃してきたのである。

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