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サンフランシスコ海戦Ⅲ

「尊い若者の数百の命を犠牲にして、和泉の副砲を多少破壊できた程度か……」


 シャーマン元帥はコメットによる攻撃の戦果を聞いて、深く溜息を吐いた。


「しかし閣下、我々は和泉に一定の打撃を与えることに成功したのです! このまま攻撃を続ければ、和泉を沈めることも――」

「馬鹿を言え。和泉はそもそも、コメットより遥かに高威力の51cm砲弾に耐えられる装甲をしている。加えて、特攻では水線下に傷を付けるのは難しい。奴を沈めるには、魚雷が必要だ」

「で、では、高角砲を片っ端から破壊して雷撃するというのはいかがでしょうか?」


 和泉が不沈艦であるのは、圧倒的な対空砲火によってどんな艦載機も寄せ付けないからであって、それさえなければ攻撃機を出しまくって大量の魚雷を浴びせ、撃沈することができるだろう。


「それには一体何百人の若者の命を消費したら足りるんだ?」

「お言葉ですが閣下、今は人道を唱えている時ではありません。今が千載一遇の好機であることに疑いようがなく、今この場に全戦力を投入するべきです!」

「…………確かに、あのような化け物が三隻も揃ったら手の打ちようがない。だがなあ……」

「閣下! ご決断を!!」

「……分かった。コメットを全機出すよう、空軍に要請してくれ」


 コメットの所轄は空軍である。しかし空軍はシャーマン元帥に「コメットはこれ以上出せない」と報告して来た。パイロットの脱走が相次いで纏まった数を出せないらしい。コメット隊は早くも崩壊しているようだ。


「先の大戦でも同じことになったのだ。こうなることは、まあ十分に予見できたことだ。となると、戦艦で勝負を決するしかないようだな」

「そ、そうですね……」

「何だ、さっきみたいに勇ましく決戦を訴えたりはしないのか?」

「そ、それはその……我が軍は51cm砲を持つ戦艦を保有しておりません。大和にアイオワで挑むような愚行は……」

「まあなあ。だがハワイ級は46cm砲12門、理論上は和泉型とも互角に戦える筈だ。それに三隻もいる」

「理論上は確実に勝てる筈、ですね」

「ああ。今ここで和泉を沈めなければ、我が軍に勝機はない……。全艦隊に通達。和泉への総攻撃を開始する」

「はっ!」


 シャーマン元帥は和泉をここで沈めることを決意した。


 ○


 その動向はたちまち日本側にも察知された。


「ハワイ級戦艦が三隻か……。流石にこれは厳しいな……」


 草鹿大将が唸っていると、和泉が司令部に降りて来た。


「和泉、状況は分かっているな? 流石にこれを相手するのは無理だ」


 大将は和泉がハワイ級戦艦を沈めないと気が済まないだろうと思って声を掛けたが、返事は意外なものであった。


「ん? そんなことは当たり前じゃないか」

「そ、そうか。分かってるならいいんだが」

「こんなところで死にたくないからね。サンフランシスコは放棄して逃げるとしよう」


 和泉は勝ち目がない戦いになど興味がなかった。


「君がそう考えてくれるなら、よかった。ハワイまで撤退して体勢を立て直すとしよう。既に横須賀と大湊から第一艦隊と第二艦隊が向かっている」

「摂津が来てくれるのなら安心だ」


 和泉は信濃などと共にハワイに撤退することにしたが、その前に草鹿大将は地上の辻中将に通信を掛けた。


「辻中将、サンフランシスコは長くは持たない。今の内に脱出するべきだと思うが、どうだ?」

『草鹿大将閣下、お心遣いには感謝します。しかし、北米方面軍の最高司令官である私が、ここを離れる訳にはいかないのです』

「……分かった。可能な限り早く、ここに戻って来よう。それまで、武運を祈る」

『ありがとうございます。閣下もご武運を』


 辻中将は和泉に乗って脱出することを選ばなかった。その理由は海軍に頼りたくないという消極的なものではなく、一秒でも長くサンフランシスコに籠城してメキシコ国民が避難する時間を稼ぐという覚悟であった。


「流石に、私達が戻って来るまでサンフランシスコが持つとは思えないけどねえ」

「それくらいは分かっている。辻中将はサンフランシスコと共に玉砕する覚悟なんだろう」

「陸軍は大変そうだ」

「まったくだ」


 和泉達はサンフランシスコを捨てて、ハワイへの航路に着いた。


 ○


「和泉は逃げるようです! 追い掛けましょう! 連合艦隊と合流させる訳にはいきません!」

「それができればいいんだがね」

「と、言いますと……」

「和泉の速度はどれほどだ? ちゃんと観測してくれ」

「はっ……」


 シャーマン元帥は和泉を追撃する試みが失敗する予感を持っていた。そしてそれは的中する。


「和泉はおよそ29ノットで航行しています! とんでもない速さです!」

「やはりな……。ハワイ級とは航洋性が段違いだ」


 あれほどの巨大戦艦なのに巡洋艦並の速度が出せるのは化け物じみているのだが、ハワイ級は51cm砲艦に対抗するべく装甲を増設して速力が低下しており、和泉には全く追い付けないのであった。


「空母だけで追撃するというのは……」

「普通の艦載機では相手にならない。コメットを艦載すれば話は別だが」

「で、では、諦めるしかありませんか」

「ああ。我々はサンフランシスコへの攻撃に専念することにしよう」


 第1艦隊は和泉をみすみす取り逃してしまった。和泉型が三隻揃った連合艦隊と衝突することは避けられない。

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