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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第十九章 メキシコ戦役

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サンフランシスコ海戦Ⅱ

 三式通常弾というのは、人間が扱う分にはほとんど効果がない豆鉄砲であるが、船魄に任せると効果絶大である。どんな最新の技術でも巨大な主砲を航空機に追随させるのは不可能だが、船魄は電探の情報からほぼ完璧に偏差射撃を行い、効果的に弾幕を形成することができる。


 三式弾という名前は相変わらず使われ続けているが、1943年のそれとは性能も別次元である。即ち、昔は事前に設定した時間で炸裂する時限信管を装着していたが、今は敵機に近付くと自動で爆発する近接信管が採用されている。まあ近接信管などなくても和泉は精確無比の射撃を行うことが可能ではあるが。


 九門の主砲から放たれる51cm砲弾の威力は凄まじく、巻き込まれた米軍機は粉々に粉砕される。和泉は命中を確かめるまでもなく、再装填終わり次第斉射を行い、米軍が手を触れることも許さず多大な損害を与えた。


「二百機くらいしか落とせなかったか。まあ、これ以上近寄ったら、もっと大変な砲火に晒されるだけだが」


 和泉の舷側にずらりと並んだ長10cm砲。その数は片舷に8基16門であり、また20.3cm砲も10門が横を向いている。大和と同様に檣楼の基部には12.7cm連装砲が片舷6基12門もある。40mm機銃は数知れずだ。それに、人間の戦艦であれば主砲発射の爆圧で上甲板の人間が死ぬので、敵の接近を許すと主砲が実質的に使えなくなるが、船魄はそんなことを気にする必要はない。


 高角砲の榴弾の雨嵐に飛び込んだ米軍機は瞬く間に数を減らし、機銃の射程に入った瞬間に撃ち落とされる。和泉に手を出すことなどできない。最終的に300機ほどを落としたところでアメリカ軍は諦めた。


「おや、逃げ帰って行くのか。つまらないなあ」


 結局、第1艦隊は和泉にかすり傷を負わせる事すらできずに逃げ帰った。和泉は中甲板の連合艦隊司令部に戻った。


「ご苦労だった、和泉。期待以上の戦果だ」

「褒めても何も出ないよ」

「見返りを期待してなどいない」

「これでアメリカ海軍はお終いかな」

「いや、艦載機の補充など幾らでもできるだろう。敵に損失を与えた訳ではない」

「それは残念だね」

「ああ。だが、敵はこれで、戦艦同士の撃ち合いに訴えるしかなくなった筈だ。であれば、こちらが圧倒的に有利だろう」


 51cm砲の威力は圧倒的だ。アメリカのどんな戦艦を圧倒することができる。が、アメリカもそれは分かっているのか、別の手を打って来た。


「閣下! 西から多数の敵機が接近してきます!」

「地上から攻撃か? そんなの無駄だろうに」

「そ、それが、敵機の速度は1,000ノットを超えています!」

「何? 例の自爆兵器か……。あれならば、確かに対空砲火を突破することも可能かもしれないな」


 アメリカ軍はおよそ300機のコメットで和泉を攻撃するつもりである。


「和泉、敵は音速の倍で突っ込んでくる敵だ。君とて撃ち落とせないかもしれない」

「私を舐めないで欲しいな。人間の飛行機なんか落とせない訳がないだろう?」

「普通の機体とは訳が違う」

「けど、ここで迎え撃つ以外に選択肢などない。そうだろう?」

「……確かに、それはその通りだな。全力を尽くそう」


 和泉は艦橋に戻って信濃に通信を掛けた。


『コメットか……。すまぬが、我らでは役に立てそうもない』

「そうか。まあ、少しくらいは数を減らしておいてくれたまえ」

『可能な限りの努力はしよう』


 つい先日コメットとやり合ったばかりの信濃は、コメットを撃ち落とすのが極めて困難であることを知っている。襲来するコメットの群れに対して信濃と大鳳は攻撃を行うが、今回は30機を落とすのが精一杯であった。コメットは空母にとっては天敵と言ってもいいだろう。


「ふーむ……やはりとんでもなく速いな……」


 流石に驚きつつも、和泉は主砲による対空砲火を開始した。しかし三式弾はまるで効果がないようであった。


「まさか、速過ぎて近接信管が間に合ってないのか?」


 近接信管は普通の艦載機の手前でちょうど爆発するよう設定されているが、コメットは想定より遥かに速く、三式弾が爆発する頃には通り過ぎてしまっているのだ。流石の和泉もこれには焦るが、次の手を打つのにそう時間はかからなかった。


「近接信管から時限信管に切り替え。撃ち方始め」


 近接信管が役に立たないなら自分で爆発までの時間を調停すればよいのである。和泉の計算に狂いはなく、コメットを三式弾の爆風に巻き込んで、たちまちに200機を落とした。が、敵はあまりにも速く、もう高角砲の射程に入っている。


「アホみたいな速さだな、まったく……」


 全ての高角砲と機銃を総動員して弾幕を張る。が、気付いた時には20機ほどのコメットが和泉の左舷に突入していた。


「うっ……ぐっ……。この私に、傷を付けたな……」


 一瞬の出来事で、何が起こったのか目視することはできなかった。しかし確かに、左舷の長10cm砲3基、20.3cm砲3基全て、檣楼の12.7cm高角砲4機が破壊され、火の手が上がっていた。だが船体に致命的な損傷はない。音速の倍近くで飛来する砲弾を想定した和泉の装甲を、徹甲弾でもないコメットが貫くことは不可能なのである。


 しかし、コメットに耐えられるのは戦艦だけであろう。その他の艦にとっては十分致命傷になり得る。草鹿大将はアメリカの狂気の新兵器に警戒を強めるのであった。

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