表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
352/613

アメリカ討伐決議案

 一九五六年三月十日、大阪府大阪市北区、国際連盟本部。


 日本とドイツが開催を要請した臨時国連総会が始まろうとしている。大阪城が見下ろす大阪の国連本部にて、暗躍する者の姿があった。アメリカのダレス国務長官である。ダレスはドイツのザイス=インクヴァルト外務大臣と非公式に面会していた。もちろんダレスの方がドイツ語に合わせている。


「閣下、我が国との戦争は賢明な選択ではありません。今回の決議案でも拒否権を発動するべきです」


 アメリカ討伐決議案が反対多数で否決されることはあり得ない。これを阻止するにはどこかの常任理事国に拒否権を発動してもらう必要があった。


「そう言われても困りますよ。我が国において我が総統の権威がどれほどのものか、知らない訳がないでしょう? 我が総統が御自らあのような声明を出された以上、アメリカ討伐に賛成せざるを得ません」

「ヒトラー総統が政府に勝手でやったことです。何の拘束力もありますまい」

「確かに法的な拘束力はありませんが……。そう簡単に割り切れるものではないのです。それに、政府は既に方針を決定しました。私に何かをする権限なんて最初からありませんよ」

「最終的に投票するのは閣下です」

「そう言われましてもね。検討はしておきますよ。それでは」


 ザイス=インクヴァルト外務大臣は明確には何も答えずに立ち去ってしまった。ダレスは引き続き、ソ連のモロトフ外務大臣にも拒否権を発動するよう頼み込んだが、それは無意味なように思えた。


 ○


 翌日。ついに国連総会が始まった。開会早々に演壇に上がったのは石橋首相であった。


「えー、皆さん、我が国の要請に応じお集まりいただき、感謝を申し上げます。我が国が要求するところはただ一つです。選挙の票稼ぎのためだけにキューバを不当に侵略し、その民を無慈悲に殺し、経済的に搾取し続けているアメリカの蛮行を、日本はこれ以上許すことはできません。しかし我が国は法治国家ですから、連盟の要請なしに軍を出すことはできません。これまで何度となく否決されてきたことは分かっていますが、私は何度でも訴えます。今こそアメリカに対する軍事制裁、国連軍の結成を! 国際連盟は決してお題目だけの存在ではないと世界に示すのです!」


 石橋首相が柄にもない演説を行った後、ダレスも反対演説を行った。いつもならここで議場から出ていくフルシチョフであるが、今回は「遺言くらいは聞いてやる」と言って残っていた。


「我が国は自衛をしている過ぎません。キューバは我が国に対し敵対的な行動を取り、外国勢力と結んで我が国を侵略する用意をしていた。ですから先制攻撃を仕掛けた。ただそれだけのことです。我が国はただ、キューバの中立化と非軍事化のみを求め、キューバを侵略する意図など断じてありません! どうやら我が国が邪魔で、我が国を侵略しようとする勢力が存在するようですが、そのような者の声に耳を貸してはなりません! 皆さんは、冷静になって、本当の侵略者は誰なのか、見極めていただきたい」


 一通りの主張が終わると、投票が開始された。ダレスは自席に座りながら瀕死の病人のように全身を震えさせていた。


「ドイツでもソ連でもいい……。拒否権を使え……」


 ダレスはそう願うが、しかし、投票は何の支障もなく淡々と進められた。ドイツの国連大使もソ連の国連大使も、何事もなかったかのように投票箱に用紙を入れたのであった。ダレスもまた、どうせ無意味であろう反対票を投じることしかできなかった。


 結局、最後まで拒否権を発動する国は現れなかった。日本、中国、ソ連、ドイツ、イタリア、全ての常任理事国は軍事制裁決議案に賛成し、反対したのはアメリカを含めて6ヶ国だけであった。


「賛成多数により、アメリカに対する軍事制裁決議案は可決されました」

「馬鹿なッ……。本当に第三次世界大戦を始めるつもりなのかこいつらは……」


 ダレスは人知れず拳を握りしめるが、その時であった。ダレスの肩を誰かが強く叩いた。


「ジョン・フォスター・ダレスだな?」

「な、何だお前は」


 日本の警官らしき男が数人、ダレスの後ろに立っていた。ダレスが振り返ると、男達はすぐに旭日章が印刷された手帳を見せる。


「警視庁警部の土田だ。お前を逮捕する」

「なっ……ふ、ふざけるな! 貴様、何のつもりだ! 私は外交特権で守られてるんだぞ!」


 ダレスは途端に激昂するが、警察官達はまるで気にしない。


「たった今、国際刑事裁判所からお前に逮捕状が出た。よって、日本の警察である我々がお前を逮捕し、速やかに国際刑事裁判所に移送する」

「ば、馬鹿なッ……」

「とっとと来い」

「さ、触るなッ!!」


 ダレスは不合理にも逃走を試みたが、すぐに取り押さえられて手錠を嵌められる。


「わ、私を逮捕したらどうなるか分かってるの!? 外交の窓口を閉ざすなど正気じゃないぞ!!」

「我々はただ、逮捕状の出された相手を逮捕するだけだ。弁解があるなら国際刑事裁判所でするといい」

「クソッ!! クソがッ!!」


 ダレスは逮捕され、京都の国際刑事裁判所に護送された。その罪状は平和に対する罪と人道に対する罪であり、裁判では平和に対する罪が認められて、死刑が言い渡された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ