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ハワイ再び

 さて、瑞鶴がパナマ運河を通過している頃。サンフランシスコに停泊している戦艦和泉と連合艦隊司令部は当然、瑞鶴が太平洋に入ろうとしているという情報を手に入れていた。


「瑞鶴が一隻だけ、だと? 一体何をする気だ……」


 和泉艦内の連合艦隊司令部で、連合艦隊司令長官の草鹿龍之介大将は報告を受けた。だが大将は突拍子のない展開に困惑するばかりであった。


「ともかくだ、すぐに出せる部隊を出して、瑞鶴の監視を行う。場合によっては鹵獲も視野に入れてな。和泉も出すぞ」

「しかし、サンフランシスコには和泉の他には最低限の部隊しかありませんが……」

「和泉があれば十分だ」

「連合艦隊司令部が直接攻撃を受ける恐れがありますが……」

「常に先陣に立つのが連合艦隊司令部だろうが。すぐに用意をしろ」


 戦艦として働くべく和泉は連合艦隊司令部を乗せたまま出撃することになった。が、すぐに内地から電報が飛んで来た。阿南内大臣からの電報という世にも珍しいものである。


「阿南大将から? 見せてくれ」


 その電報には瑞鶴を内地まで通してやれとあった。


「阿南さんが瑞鶴とつるんでいるのか……? 何がどうなってるんだ」

「さ、さあ……」

「いや、事情の詮索は後だな。出撃は中止だ」


 作戦は何もせず中止になった。すると不満に思ったのか和泉が艦橋から降りて来た。和泉は連合艦隊旗艦という立場から人間の決定に関与することも数多い。


「草鹿大将、出撃取り止めとはどういうことだ? また瑞鶴を罠に掛けるつもりなのかな?」

「何故だが分からないが、内大臣府から瑞鶴を見逃すように言われたんだ」

「阿南が? だとしても、海軍が内大臣の命令に従う理由はないんじゃないかな?」

「確かに理論的にはそうかもしれないが、こんなことで政府と不和を生む訳にはいかんだろう」


 これは大日本帝国憲法の欠陥なのだが、内閣総理大臣にすら軍部への命令権がないのである。軍部が政府の方針に従っているのは慣行に過ぎないのだ。


「瑞鶴を捕獲することより政軍関係の方が大事なのかな?」

「今は政府と軍部で協調するべしというのが、帝国の大多数の意思だ」

「内大臣の意思が政府の意思だとは限らないんじゃないかな?」

「阿南大将が勝手にやっていると? いや、まさかそんなことは……」

「まあいいよ。どうせ私だけでは瑞鶴に追いつけないし」


 和泉はせっかくの出撃を妨げられたというのに、やけに楽しそうに司令部を後にした。


 ○


 一九五六年二月六日、ハワイ王国オアフ島、真珠湾警備府。


 パナマ運河を越えた瑞鶴はおよそ10日でハワイに到着した。真珠湾警備府に入り、燃料の補給を受けるのである。瑞鶴は自分の艦内で待っていることにしたが、ハワイの側から客人がやって来た。


「お久しぶりです〜。瑞鶴さん〜」

「そうね。久しぶり、土佐」


 ぼんやりして何を考えているのか分からない少女、名目上はハワイ警備艦隊旗艦ということになっている土佐である。


「今日は、どういう事情で来たんですか〜?」

「聞いてないの?」

「聞いてません〜」

「何か知らないけど、阿南大将に東京に来いって言われたのよ」

「内大臣さんが、ですか〜。それはどういう理由なんですか〜?」


 問われて、瑞鶴は答えていいものか一瞬迷うが、別に口止めされている訳でもないので普通に話すことにした。


「私も詳しいことは知らないけど、ドイツと秘密に交渉するらしいわ。その特使を私に運んで欲しいって」

「なるほど〜。ここまでするということは、政府や軍部にも秘密なんですかね〜」

「そうみたいね」

「頑張ってください〜。補給が終わるまでは、ここで休んでもらって構いませんよ〜」

「今回はその気はないわ。でもありがとう」


 話はそれまでであった。


 土佐は瑞鶴から退出したが、すぐさま次の客が入って来た。船魄の秘密を解き明かす為に自分すら平気で実験材料にする少女、夕張である。


「やあ瑞鶴。今日は妙高は来ていないのかい?」

「ええ、私だけよ」

「そうか……。それは残念だね」


 と、微塵も残念ではなさそうに。


「妙高に会いたかったの?」

「それなりには。それはともかく、阿南大将が政府に勝手をやるなんて、面白いこともあるものだね」

「土佐から聞いたの?」

「ああ、もちろん。もし上手くいけば、キューバ戦争を終わらせられるかもしれないね」

「え、ええ、そうね」


 そこまでは言っていないというのに、夕張に阿南大将の意図を言い当てられてしまった。


「そうなったら、君達としてもやりやすくなる。そうだろう?」

「まあね。それが私達の当面の目標だし」

「楽しみだね」

「あんたは何が楽しみなのよ」

「さあ、何だろうね。ところで、君に耳寄りの情報があるんだけど」

「何?」

「私はついに発明したのだよ。敵味方識別装置を安全に解除する装置をね」

「え、ホント?」

「ああ。船魄というのは艦内に情報の中間処理を行う電算機を設置しているものだけど、そこに干渉することで、識別装置を簡単に解除できると分かったのさ」


 これまでは魚雷をぶち込むなど危険極まる方法でないと識別装置を解除できなかった。それに比べれば遥かに安全である。


「でも、当然ながら相手の艦内に入らないといけない、つまり洗脳されている相手に 信用してもらわないといけない。なかなかの難題だよね」

「なるほどねえ。で、それを私にくれるの?」

「条件次第ではね」

「何?」

「本当なら妙高がよかったんだけど、君が私に抱かれてくれたら、いいよ」

「あ、そう、そんなこと。問題ないわ。さっさとして」


 あまりにも素っ気ない態度に夕張の方が驚かされてしまう。


「え、ああ、うん。じゃあ遠慮なく」


 という訳で、瑞鶴は夕張から装置をもらった。

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