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海上要塞攻略Ⅲ

 海上要塞の魚雷は使い切りだったようで、最初の攻撃以降は全く撃ってこなかった。妙高、高雄、愛宕は簡単に要塞の目の前に到達した。


『で、ここからどうするの、妙高?』


 愛宕が尋ねる。


「ここからはキューバ軍の皆さんに頑張ってもらいます。ゲバラさん、いいですよね?」

「ああ。僕達の準備はできているよ」

『でも、敵の罠だったらどうするの?』

「そ、それは……」


 警戒し過ぎかもしれないが、そういう可能性も残されている。例えば兵らが突入したところで入口を爆破するなど、古典的な手段は幾らでも考えられる。


「君達は突入しなくてもいい。ボートとかで僕達だけが要塞に突入すればいいだろう」

「で、ですが、それではゲバラさん達が危険です……」

「大丈夫だ。少しは君達に恩返しをさせてくれ」

「恩返しなんて、妙高達の方がしないといけないことでは……」

「そんなことはないよ。君達はとてもとても役に立っている」

「……分かりました」


 ここで誰が恩返しをするべきかの議論をしていても時間の無駄である。ゲバラがやると言ってくれたのなら素直に頼るのが合理的というものだ。


「では、ゲバラさん、ご武運を」

「ああ。すぐに制圧して帰ってくるよ」


 ゲバラは妙高が搭載している内火艇に数十の兵士と共に乗り込んだ。内火艇の操縦自体は妙高が行う。兵士達は多数の装載艇に分乗し、海上要塞に向かって突入が開始された。妙高達の内火艇は基本的に移動用であり、強襲上陸に使えるようなものではない。乗っている兵士達を守るものはほとんどないのだ。


 妙高は要塞の外からその様子を見守ることしかできない。装載艇は海上要塞に開いた口から突入する。要塞内部に突入するとアメリカ軍が突撃銃で攻撃してくるが、ゲバラ達は直ちに突撃銃で応戦し、素早く上陸した。


 しかし、アメリカ軍の抵抗はすぐに消え失せた。海上要塞の入口を守っていたのは僅かに30人ばかりの兵士だけで、あっという間にドックの一つが制圧されたのであった。


『妙高、僕達は奥に突入して完全に制圧することを試みる。待っていてくれ』

「わ、分かりました。どうかご無事で……」


 妙高は要塞の奥に消えていく兵士達を見守ることしかできなかったが、彼女の心配は杞憂に過ぎなかった。海上要塞内部はまるでもぬけの殻であり、抵抗という抵抗はなかったのである。そしてゲバラから、要塞司令官を見つけたが自決したとの報告が入った。


 どうやら瑞鶴の機銃掃射で戦闘要員はほとんど全滅していたらしく、残っているのはほんの僅かな兵士と技術者だけであった。こうして海上要塞はキューバ軍の手によって制圧されたのである。


 ○


「海上要塞は制圧したそうよ。作戦成功ね」

「私達はあまり役に立てなかったようだな……」


 有賀中将は申し訳なさそうに言った。結局敵は玉砕を選び、脅しは意味がなかった。大和を動かした意味はなかったのである。


「用意したもの全部が役に立つってこともないでしょ。一つでも上手くいけばいいのよ」

「君はなかなか達観しているな」

「そう? あ、でも、海上要塞の曳航は大和にやってもらいたいわ」

「そのくらいのことなら任せてくれ」


 ここにいる艦艇の中では圧倒的な馬力を持つ大和に適任であろう。要塞内に敵が残っていないかなどを厳重に確認し、生存者を適当に放逐した後、海上要塞の曳航が始められた。


 ○


 さて、海上要塞の曳航には丸二日かかるとのことなので、その間に瑞鶴は海上要塞内部を検分することにした。


「なかなか広いわね。居心地はよさそう」


 海上要塞は中心部に円筒状の生活空間があり、その周囲に浮きドックを並べたような形状になっている。それなりの期間要塞に留まることも想定しているようで、要塞の設備は一般的なホテルと同じくらいには整っていた。


「まあ、さっき殺した奴らがここで生活してたって思うと、あんまりいい気分じゃないけど」

「瑞鶴さん……嫌なこと言わないでくだいよぉ……」


 せっかくの新拠点を手に入れて喜んでいたところで妙なことを言われ、妙高は抗議する。


「事実じゃない。嫌だったら造船屋が使ってた場所でも使えったら?」

「そ、そうさせてもらいます……」

「まあ、概ね使えるってことは分かったし、各々好きな部屋でも確保しといて」

「……我に部屋の掃除をしろというのか?」


 ツェッペリンは不快そうに。


「あんただっていつも自分の部屋の掃除くらいしてるでしょ」

「それはそうだが、日々の掃除と汚い部屋を使えるようにするのとでは全く話が違うであろうが」

「別にここを使えって命令してる訳じゃないし、嫌だったら自分の艦で寝ればいいわ」

「そ、それは……」

「好きにしなさい。他の皆はどうする?」

「妙高はどこかの部屋を使わせてもらいます」

「では、わたくしも――」

「お姉ちゃんは私と同じ部屋にしましょう?」


 愛宕は有無を言わさぬと言った調子で言った。


「え、ええ、構いませんよ」

「ふふ。お姉ちゃんと私の愛の巣ね」

「えっ」

「だったら、妙高も高雄と一緒の部屋に――」

「あなたは一人部屋でしょ? 一緒の部屋になっていいのは姉妹艦だけよ」

「そんな海軍刑法はないと思うんですけど……」


 結局愛宕に押し切られ、高雄と愛宕は一緒の部屋に、他の三名はそれぞれ一人部屋を得ることになった。

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