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援軍

 一九五五年十二月二十日、コスタリカ、プエルト・リモン鎮守府、長門の執務室。


 少しだけ時を遡り、月虹がヨーロッパから出発した頃のこと。長門に頭を抱えたくなるような電文が届いていた。


「何なのだ、この命令は……。瑞鶴を助けて来いだと……?」


 連合艦隊司令部から長門に届いたのは、ドイツ海軍が月虹を攻撃する可能性が高く、それを阻止するべく出撃せよとの命令であった。


「どうして私がこんなことを……」


 瑞鶴の為に危ない橋を渡るなど全く不本意ではあったが、しかし連合艦隊からの命令を拒否するなど論外だ。長門は早速、陸奥と信濃を呼び出して事情を伝えた。


「なるほどねえ。楽しそうじゃない」


 陸奥は乗り気である。


「我らがこの地を離れれば、誰が大和の姉様を守るのだ?」


 信濃は乗り気ではない。キューバにある大和の防衛は第五艦隊に任されているからだ。


「それが問題だな。では、お前と大鳳だけを残して、残りの者を向かわせるというのはどうだ?」

「それならば、問題はあるまい」

「よし。ではそういう編成で行こう」


 長門は早速出撃の準備を始めようと思ったが、陸奥がそれに待ったを掛ける。


「空母なしで戦場に向かって、本当に役に立つのかしら?」

「どういうことだ?」

「だってこれって、実際にドイツと戦う気はなくて、艦隊を見せつけて大洋艦隊を撤退させようって話でしょう? 空母がいないとあんまり効果的じゃないと思うけど」

「確かに相手は強力な航空戦力を擁しているようだが……」

「それに、戦艦の戦力でも負けてるし」

「うむ…………。いや、そうだな。いないよりはいる方がいいだろう」

「そうよね。やっぱり信濃と大鳳も連れていきたいんだけど、どう?」

「我はここから離れられぬ」

「じゃあ大和を第六艦隊のところに下がらせたらいいじゃない」

「そうするとキューバへの援護がなくなってしまうが」

「長期的に見たら月虹がいた方がキューバにとっては役に立つし、一時的に援護が消えるくらいカストロも認めてくれるでしょう」

「それもそうだな。信濃、そのようにキューバと連合艦隊司令部に伝えてくれ」

「承知した」


 信濃が電報を打つと、一時間も経たずに両方から承諾の返事が返ってきた。


「――よろしい。では第五艦隊は全力を挙げ、月虹の援護に向かう。全艦直ちに出撃の支度をせよ」


 長門はそう命令を下し、直ちに出撃の準備が開始された。が、すぐに文句を言いに来る船魄が一人。雪風である。


「あら雪風ちゃん、どうしたの? 私にいじめて欲しくなった?」


 陸奥が全くふざけて出迎える。


「今はそういう状況ではないです」

「陸奥、今は静かにしていろ」

「はいはい」

「で、どうしたのだ、雪風?」

「長門さん、本気で瑞鶴の救援に向かうつもりですか?」

「ああ、本気だが」

「あのような不穏分子に艦隊の総力を挙げて手を貸すなど……」


 憲兵隊の息がかかっている雪風は、海軍の規律を乱す月虹を甚だ嫌っていた。


「仕方ないだろう。連合艦隊司令部からの命令なのだ。逆らいたくても逆らえん」

「そ、それはそうですが……」


 軍紀を乱す奴を助けるという命令であるが、それに抗うことは自ら軍紀を乱すことに他ならない。雪風は結局命令通りに駆逐隊を率いて出撃するのであった。


 ○


 一方その頃。アメリカ軍はドイツ軍と月虹の動向をほとんど完全に把握していた。


「エンタープライズ、お前に伝えたくないお知らせがある」


 マッカーサー元帥はエンタープライズの艦橋に気だるそうに上がって来た。エンタープライズはマッカーサー元帥になど興味がなさそうである。


「はい。何でしょうか?」

「ドイツ軍は月虹を挟み撃ちにして、恐らく拿捕する気だ」


 そう告げた途端、エンタープライズの目の色が変わった。その視線はもう遥か遠くの瑞鶴に合わせられたようであった。


「そう、ですか。それはいけません。とても容認できません。ナチ共が瑞鶴に手を出すなんて私が許しません」

「そう反応すると思ったよ」

「今すぐ出撃します。瑞鶴は私のものです。ナチなどには渡しません」

「おいおい、ドイツに喧嘩を売る気か? そんなことをしたらアメリカは滅びるし、そうなったらお前も解体されるかも知れないんだぞ?」

「そんなこと知ったことではありません。瑞鶴が私以外のものになるくらいなら死んでも構いません」


 エンタープライズには、いつも浮かべている不気味な笑みがなかった。マッカーサー元帥ですら見たことがないほどに、彼女は本気だった。


「俺の話に聞く耳はなさそうだな。はぁ、分かった分かった。ドイツに圧力を掛けるくらいならいいだろう。お前が反乱を起こすよりはマシだ」

「ふふ、やはり閣下は物分かりの良い方ですね」

「1時間待ってくれ。そうしたら出撃しろ。ソ連海軍のことは気にしないでいい」

「承知しました。では最大戦速で瑞鶴のもとへ行きましょう」

「そんなことしたらプロペラがぶっ壊れるぞ」

「片道持てば構いません」

「分かった。好きにしろ」


 原子力空母たるエンタープライズの燃料はほとんど無尽蔵のようなものである。燃料だけを考えれば最大戦速で地球を一周することも容易い。もちろんそんなことをすれば駆動系に多大なダメージを受けることは違いないが。

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