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ゲッベルスとの対立

 一九四八年九月十七日、ドイツ国大ベルリン大管区ベルリン、新総統官邸。


 ヒトラー時代に新総統官邸として建造された建物は、名前はそのままにゲッベルス大統領の官邸として使用されることとなった。ドイツ、ひいてはヨーロッパの政治の中心と言ってもいいだろう。


 ゲッベルスは国防軍最高司令部(OKW)の権限を大幅に強化して陸海空軍をその麾下に収め、自らがその最高司令官に就任することで軍を完全に統制下に入れた。そのOKWでは早速、今後の軍事政策について会合が行われていた。


「現状、我が国にはやることが多過ぎる。連合国に焼き払われたフランスや我が国の北西部、地上戦に巻き込まれたイタリアなど、復興しなければならない場所は数えきれない。こうなると、軍事費に回せる予算も限られてくるだろう」


 ゲッベルス大統領はつまり、総統が立てた軍拡計画を修正しようとしているのであった。


「しかし、軍備なくして国はありません。国内の復興よりも軍事を優先させるべきでは?」


 グデーリアン元帥は言う。国家を外敵から防衛することこそ、国家の最低限の役割ではないかと。


「もちろん、軍事力の重要性は理解しているつもりだが、軍事力は結局のところ生産力だ。国内の産業育成を疎かにしては、ジリ貧になるだけじゃないか? 要するにだ、僕はヨーロッパを防衛できる戦力を維持しつつ軍事費を削減したいと思っているんだ」

「それはなかなか、無理難題を仰いますね」

「分かってる。だからこそ、諸君の意見を聞きたい」

「であれば、私から一言」


 デーニッツ海軍国家元帥が名乗りを挙げた。


「予算を可能な限り削減したいとあれば、まず削減するのは海軍費でしょうな。何故なら、攻め寄せてくる敵を撃退するだけなら、空母も戦艦も不要だからです。陸上の飛行場から航空機を飛ばせばよろしい」

「つまり、水上艦艇の建造を中止しようといえ話か」

「ええ、その通りです。我々はヨーロッパを制し、資源の自給自足も可能となっております。英仏海峡の制海権さえ確保できていれば戦争経済に問題はなく、それならば艦艇は必要ありますまい」

「なかなか過激な意見だな……。僕が言うのもなんだが、海軍としてはそれでいいのか?」

「既にある艦を沈めるのは問題ですが、そうでなければ大きな問題はありません」


 軍艦を減らすのは海軍の将兵を解雇するということに等しい。しかし、まだ存在しない艦艇ならばその心配はないのだ。


「陸軍の私が言うのもなんだが、そうであるのなら、どうして日本やソ連は大型艦を建造し続けているんでしょうか?」


 グデーリアン元帥はデーニッツ国家元帥に問う。派閥主義的に考えれば海軍の予算が減るのは好ましいことなのだが、国家に仕える軍人の一人として、そう問わざるを得なかった。


「現代、主力艦と呼ばれる艦艇は尽く、本質的に敵国に攻め込む為の兵器だ。国家を防衛するだけならば、それらは不要なのだ」

「つまり、向こうから殴りかかってくるのに耐えるだけで、何もやり返せないということですか?」

「言葉を選ばなければ、そういうことになるな」

「それは抑止力という観点から、好ましくないのでは?」


 抑止力とは相手に戦争を思い留まらせる能力のことだ。殴っても殴り返してこない国に、誰が戦争を躊躇うだろうか。


「そんなことは分かっている。だが、少なくとも数年以内には、列強同士が戦争に至るような事態は考えられない。最低限の抑止力として、ヨーロッパに攻め入ることが不可能な体制を整えておくことが、最も合理的な予算の使い方だと私は思う」

「デーニッツ国家元帥の考えはよく分かった。僕も概ね国家元帥に賛成だ。一度ヨーロッパを建て直すことができれば、再び軍事に注力することもできるだろう」


 かくしてゲッベルス大統領は、海軍力の増強を後回しにして空軍力の増強に務めることを決定した。航空機の技術、特にジェット機の技術はドイツが他国を圧倒しており、十分な物量さえあれば空軍だけで十分なのだ。


 ○


 ゲッベルスの決定は合理的なものであった。だが、それを受け入れられない者もいた。


「ゲッベルス!! ペーター・シュトラッサーの建造を中止するとはどういうことだ!?」


 その報せを聞くと、ツェッペリンは新総統官邸の執務室に単身で乗り込んだ。とんでもない仕事の邪魔である。


「言っただろう。国防軍は暫く空軍の整備に注力することにしたんだ」

「今すぐ考えを改めろ! 反撃能力こそ抑止力の要であろうが!」

「それは分かっている。だが、今はその余裕もないんだ。海軍は即戦力となる既存艦艇の船魄化に集中してもらう」

「……ふん。まあ、我がいれば反撃能力など十分ということか」


 ツェッペリンのいきなりの変節に、ゲッベルス大統領は困惑してしまう。


「あ、ああ、そういうことだ。君は依然として、いや海軍の規模が縮小されたからこそ、我が国にとって重要な戦力なんだ」

「そんなことは言われるまでもない。では、さらばだ」


 ツェッペリンは先程の怒りなどなかったかのように立ち去った。ゲッベルス大統領は多忙であり彼女のことをそれ以上気にかける暇はなかったが、その数時間後にとんでもない報告を受けることになった。


「な、何だって!? ツェッペリンが脱走!?」

「は、はい、閣下。間違いありません」

「わ、分かった。最優先で対応する」


 ゲッベルスは公務をほっぽり出してキールに飛んだ。

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