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ユニコーンの最期

「ユニコーン、完全に沈黙しました」

「うむ。終わったようだな」


 ユニコーンは艦橋を吹き飛ばされ、完全に無力化された。グラーフ・ツェッペリンの勝利である。


「では、せっかくだしユニコーンに乗り込むとしよう」


 ツェッペリンは唐突に提案した。


「どうしてそうなる?」

「ユニコーンは生きているかもしれないし、そうであれば捕獲することに意味はあるのではないか?」

「確かに、合理的な見解だな。そうしよう」


 そういう訳で早速、ツェッペリンとシュニーヴィント上級大将は完全武装の兵士200名ばかりを率いて、沈黙したユニコーンに乗り込んだ。ユニコーンの乗員はツェッペリンと同様、通常の空母と比べて遥かに少なく、艦内はまるで無人のようであった。


 稀に見つけた兵士は戦うまでもなく投降し、ツェッペリンは檣楼を登って艦橋に迫った。階段を登っていくと、その時、銃声が響き渡った。


「隠れろ!!」

「まだ抵抗する気があるとは。とっとと殲滅せよ」

「彼らは君の部下ではないんだがなあ……」


 シュニーヴィント上級大将が改めて命じて、小さな銃撃戦が始まったが、結果は言うまでもない。護身用程度の拳銃しか持っていないイギリス兵など、突撃銃の集中砲火であっという間に皆殺しにされた。


「敵は全滅しました!」

「うむ。大義である。行くとしよう」


 水兵に先導されつつ、ツェッペリンはユニコーンの艦橋に入った。艦橋はあちこちが焼け焦げていたが、既に火は消し止められていた。しかし爆死して四散した死体や焼死した死体があちこちに転がっている。


「ふむ。ユニコーンも死んでしまったか……」

「こっちだ! こっちに、ユニコーンがいるぞ!」

「何?」


 兵士が呼ぶところに行っていると、額から長い角の生えた少女が横たわっていた。その左脚は太腿の辺りから切断されており、到底助からないほどの血を流していたが、まだ意識はあった。


「お前が、ユニコーンか」

「あ、あなたが……ツェッペリン、ですか……?」


 今にも途切れそうな声でユニコーンは問う。


「いかにも」

「そう、ですか……。今すぐ、殺してさしあげたい、ですが……武器もなく、手も動きません……。残念、ですわ……」

「そうか。せっかくの同類ができたと思ったが、残念だ」

「残念……? 何を、言っているんですか……?」

「何でもよかろう。ただ、もう少し話をしたかったというだけだ。最期に言い残すことは?」

「そう、ですね……。英国と、国王陛下に……栄光、あれ…………」


 そうして、ユニコーンは眠るように死んだ。船魄として生まれてから僅かに10日ほどの一生を終えたのであった。ユニコーンの遺体はツェッペリンに運び込まれ、大戦終結の後にイギリスに返還された。


 空母ユニコーンはドイツ海軍によって鹵獲され、ドイツの船魄技術に多少の見識をもたらしたが、余りにも損傷が激しく、調査の後に解体された。なおラムゼー大将は空軍の爆撃で既に死亡していた。


 しかしツェッペリンも左舷を大きく損傷して大破判定であり、少なくとも半年はドックに籠らないと応急修理すらままならないという状況であった。とは言え、ヨーロッパを主戦場にしている限りは地上の飛行場が使えるので、ツェッペリンはまだ暫く酷使されることとなるのだが。


 ○


 さて、イギリス軍はユニコーンという最後の希望を失い、ドイツ軍に抵抗する能力を完全に失った。事実上の最高指揮官になっていたモンゴメリー元帥は無条件降伏の意思を固め、国王にそれを上奏した。


 イギリス国王は急遽モンゴメリー元帥を首相に任命し、イギリスはモンゴメリー首相の名でドイツに対して無条件降伏を申し入れた。ついに悪の連合の一角が崩れたのである。


 また、イギリスが降伏すると同時に、ツェッペリンはユニコーンがチャーチルを殺していたことを知った。


「ほう、ユニコーンがそんなことを。とんだ忠義者だな、奴は」

「上司を裏切ったのだから、忠義者とは真逆じゃないのか?」


 シュニーヴィント上級大将は不思議そうに聞き返した。


「チャーチルは世界の癌だが、イギリスにとっても癌そのものであった。ユニコーンは国王への忠義故に、寄生虫を駆除したのであろう」

「なるほど。そういう考えもあるな」


 そんな下らない話をしつつ、一行が向かったのはベルリンであった。連合国の無差別爆撃から解放されたとは言え、未だに活気の戻らぬベルリンである。ツェッペリンは総統官邸に呼び出された。


 総統の宮殿のような執務室にツェッペリンは一人だけ呼び出された。緊張して中に入ると、総統と数名の高官が待ち構えていた。


「さあツェッペリン、緊張しないで、こっちに来てくれ」

「は、はい!」


 ツェッペリンは肩身が狭そうにしながら総統の机の前に立った。そして総統は、ツェッペリンに桐の箱を自ら手渡した。


「こ、これは……?」

「大鉄十字章だ。君の貢献に報いるには、これを贈る他にはないと思ってね」


 第一次世界大戦以降では、ゲーリング国家元帥に次いで2人目の受賞である。


「わ、わざわざこのようなものを下さるとは、感謝のしようもありませんッ!」

「喜んでもらえたなら、私も嬉しいよ。本当にありがとう。君のお陰で、ドイツは救われたのだ」


 ソ連との戦争はまだ継続しているが、米英の支援が途絶え、制海権も奪われた赤軍に、ドイツに侵攻する力は最早残されていない。ヨーロッパはツェッペリンによって救われたのだ。

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