空母対空母Ⅱ
「悪いが、容赦はせんぞ。全砲門、撃ち方始め」
ツェッペリンはユニコーンの艦尾に集中砲火を行う。たちまちユニコーンの飛行甲板は崩れ落ちて、格納庫が露出して火災が起きる始末であった。
「ユニコーン、急速に回頭しています!」
「まだそんなに動き回れるのか……」
「ほう。我と真正面から撃ち合おうと言うか」
ユニコーンの方が小柄であり、小回りが効く。ユニコーンはツェッペリンに左舷を向けるよう急速に舵を切り、そして左舷の大砲から一斉射を仕掛けてきたのである。ツェッペリンの艦橋は衝撃に揺られる。
「クッ……まさか、奴も我と同じ装備を?」
「いや、8インチ砲に撃たれたらこんなものでは済まない。恐らくは高角砲だろう」
「なるほど。高角砲を対艦用に使うとは、面白い。とっとと叩き潰して――うぐっ」
その時、つい今のものより激しい衝撃が走り、ツェッペリンは苦痛に顔を歪めた。
「どうした、ツェッペリン?」
「先程のより遥かに痛い……。これは、奴の主砲だ」
「そうか……。あれなら、側面までなら何とか撃てるのか」
ユニコーン艦首の主砲は、片方だけだが側面に指向することもできる。ツェッペリンが一方的にユニコーンをいたぶることは叶わないのである。
「だが、奴の主砲は半分! とっとと沈めてくれるわ!」
「ああ。損害はこの際気にせず、ユニコーンとの戦闘に集中するんだ」
「言われずとも!」
気を取り直したツェッペリンはユニコーンの左舷に4門の8インチ砲と12門の6インチ砲で砲撃を行なう。この距離ならば砲弾が到達するのを待つ必要もない。装填され次第即座に砲撃を行う。ユニコーンはそれに対して、8インチ砲2門と4インチ高角砲12門しかなく、砲の数はツェッペリンが圧倒している。
お互いに舷側を向けて舷側の大砲で撃ち合うなど、まるで中世のガレオン船の戦闘のようであった。両艦はお互いに後ろを取ろうと動き、結果的に円を描くように航行していた。
「クソッ! 奴はまだ動けるのか!?」
「流石は海軍大国イギリスの軍艦と言ったとところだな」
「敵を褒めてどうする!」
ユニコーンはもう大破と言ってもいい状態であった。舷側の高角砲も半分は破壊され、飛行甲板も半壊して空母としての体をなしていない。ツェッペリンも被害甚大であるが、ユニコーンに負けることなどあるまいと、シュニーヴィント上級大将も確信した。
が、その時であった。一際大きな爆発音が鳴り響き、途端にツェッペリンが言葉にならない呻き声を発した。
「ツェッペリン? 何があった!?」
「主砲が……クソッ……破壊、された…………」
「砲塔の防御なんぞ考えてなかったからなあ」
ツェッペリンの8インチ砲が1門破壊されたのである。ツェッペリンはこれまでにない激しい痛みに耐えるしかできなかった。
「ツェッペリン、ならばこちらもユニコーンの主砲を狙い撃ちにするんだ。できるか?」
「で、できると、思うか……?」
声が震えて顔が青くなっている。
「無理のようだな。では、全艦、全砲塔の操作を手動に切り替え! ユニコーンの主砲を破壊しろ!!」
「か、勝手なことを、するな……」
「無理だと言ったのは君だろう。君は操艦にだけ集中しているんだ」
直ちにツェッペリンの主砲、副砲の操作を兵士達が引き継ぎ、ユニコーンへの砲撃を再開する。が、慣れない大砲の操作は覚束ず、ましてやユニコーンの艦首にある大砲を狙撃するなど望めない。
「閣下、敵味方揺れ動いているこの状況で、的の主砲を直接狙うなど不可能です!」
「そんなことは分かっている! だが一発だけでもいい! 何としてでも当てるんだ!」
元より敵艦の主砲をピンポイントで狙うなど砲兵の仕事ではない。そして状況は更に悪化する。
「ぐあああッ!!」
「ツェッペリン!?」
「左B砲塔が吹っ飛びました!!」
「何て命中精度だ……。ユニコーンはあんな状態でも平気なのか……?」
ツェッペリンの左舷主砲が半分破壊されてしまった。
「我に、制御を戻せ。お前達は、使い物にならん……」
ツェッペリンは苦しそうな声でそう言った。
「本当に大丈夫なのか?」
「奴の主砲を、壊せばいいのだろう? それくらいなら、やってくれるわ!!」
「お、おう」
ツェッペリンはこの一瞬にだけ集中力を全て注ぎ込み、残る2門の主砲の狙いをユニコーンの艦首に定めた。
「今度こそ、くたばれッ!!」
そして、引き金を引いた。次の瞬間、ユニコーンの連装主砲が火を噴いて、僅かな間を空けて大爆発を起こした。流石のユニコーンも沈黙し、戦場は静まり返った。
「おお、やったな! 凄いぞツェッペリン!」
「あ、当たり前、だろう…………」
「ツェッペリン?」
今の一撃で体力を使い果たして、ツェッペリンは意識を失ってしまった。椅子の上で死んだように眠っている。
「ど、どうしますか、閣下?」
「こっちには8インチ砲が残っているが、正直言ってユニコーンを沈められる気がしないな」
「で、では?」
「ユニコーンは反撃する能力を失ったんだ。投降を呼び掛けるべきだろう」
「敵はユニコーンが鹵獲されることを許さないのでは?」
「自沈することくらい許してやってもいいだろう。勝敗は決したんだ」
シュニーヴィント上級大将は一先ず、ユニコーンに停戦を申し入れた。




