ユニコーン撃沈作戦
イギリス全土を舞台にツェッペリンとユニコーンが航空戦を開始して、3日が経過した。
「ツェッペリン、朗報だぞ。敵の船魄が乗っていると思われる空母を発見した」
シュニーヴィント上級大将は朗報を持ってやって来た。
「ほう。空軍も少しはやるではないか。で、どんな奴なのだ?」
「艦形から見て、敵は空母ユニコーンだと思われる。現在はベルファストに留まっているようだ」
「ユニコーン? そんな奴いたか?」
「航空機補修艦という扱いで建造された艦らしいから、我々の警戒対象には入っていなかったからな」
ユニコーンは本来空母として運用される筈ではなかったのに空母として扱き使われている艦である。当然ながら空母としての能力は低く、ドイツ軍は大して注意を払っていなかった。
「なるほど。しかし陸地が近くにあるのならば、空母としての能力は大して関係なかろう」
「その通りだな。君達は本当にそれでいいのかと、私は思うがね」
「それは我も思っていた」
グラーフ・ツェッペリンもユニコーンも、イギリスの戦いでは地上の飛行場を当然のように使いまくっている。本体であるべき空母は船魄の移動手段と化しているのだ。空母である必然性が甚だ薄れてしまっている。
「で、奴をどうするのだ? 正直言って、そ奴の高角砲など考えれば、我が沈めるのは厳しいぞ」
「分かっている。だから今回は、陸上から攻めることにした。君は制空権さえ取ってくれていればいい」
「ほう。まあよかろう」
陸海軍協同してのユニコーン撃沈作戦が早々に開始された。
陸軍4個師団が速やかにアイルランド中部に上陸し、足元を固めるとすぐさまベルファストに向かって進軍した。アイルランドに上陸してからベルファストに到達するまで僅か3日であった。イギリス軍に抵抗する力は残されていなかったのである。
地上部隊がベルファストを包囲し、12.8cm自走砲を30両ばかり持ってきて、港湾を射程に収めた。
「陸からの砲撃で軍艦を沈めるなど、本当にできるのか?」
ツェッペリンはシュニーヴィント上級大将に問う。彼女は作戦に懐疑的であった。
「別に沈める必要はないんだ。無力化さえできればそれでいい。で、周囲に憂慮すべき敵はないな?」
「少なくとも海には、ユニコーンの他にマトモな軍艦はおらぬな」
ベルファスト港に停泊している大型艦はユニコーンのみ。他には駆逐艦が数隻残っているだけである。
「なら、問題はないな。陸軍に作戦開始を通達する」
「上手くいくといいな」
「大丈夫だ。上手くいくさ」
陸軍にとっては重巡洋艦の一隻でも大きな脅威だ。下手に時間をかけてイギリス海軍の生き残りが来る前に、作戦は迅速に実行されることとなった。
が、どうやらツェッペリンの直感は間違っていなかったようである。
「――何? 向こうが反撃してきただって?」
「どうしたのだ?」
「ベルファストから砲撃で撃ち返してきたそうだ。ツェッペリン、現地の状況はどうなっている? 要塞砲でもあるのか?」
「そんなものはないと思うが」
ツェッペリンは戦闘機を可能な限り近寄らせてベルファストの様子を探る。
「ふむ。ユニコーンが艦砲射撃をしているな」
「空母が艦砲射撃だって?」
「ああ、間違いない。そもそも、我も艦砲射撃くらいできるぞ」
「そう言えばそうだったな。いや、そんなことをイギリス軍がしてくるとは思わなかった」
ツェッペリンは元々の設計段階で軽巡の主砲並の対艦砲を装備し、現在では重巡の主砲並の大砲すら装備しているが、それは護衛に期待できないことを前提に、単独で完結した戦闘能力を持たせる為のものである。イギリス軍がそう言った設計思想を持っているとは予想外なのだ。
「敵の備砲は?」
「航空偵察でそんなことまで分かる訳がなかろう。しかし……あれは連装砲塔か?」
「砲塔?」
「ああ。ユニコーンの艦首に重巡の主砲みたいなものがある。まるでかつての赤城のようだな」
「なるほど……。それは厄介だな」
かつて赤城と加賀は艦首に20.3cm連装砲塔を2基装備していたが、それと同様のものがユニコーンに装備してあるようだ。
ユニコーンは艦首の主砲(そう呼ぶべきかは分からないが)や舷側の高角砲を用いて艦砲射撃を行い、自らを包囲するドイツ軍の自走砲を次々に破壊していった。まるで戦艦を相手にしているようである。
「どうするのだ? 船魄相手に砲撃戦など無謀だと思うが?」
「……そうだな。陸軍には直ちに撤退してもらった方がよさそうだ」
「それがよかろう」
ユニコーン撃沈作戦はこうして失敗に終わってしまった。
「すまない、ツェッペリン。作戦は中止された」
「ではどうするのだ?」
「君の戦力を消耗させたくもないし……。次は重巡洋艦でもレニングラードから呼び戻してこようか」
「流石に重巡であれば撃ち負けることはなかろう。それで手配せよ」
まるで総統になったかのように堂々と振る舞うツェッペリンに苦笑いしつつ、シュニーヴィント上級大将は「分かった分かった」と応えた。