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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第十四章 第二次世界大戦(覚醒編)

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ヴィルヘルムスハーフェン

 一九四四年九月九日、ドイツ国ヴェーザー=エムス大管区、ヴィルヘルムスハーフェン。


 グラーフ・ツェッペリンはドイツを代表する軍港の一つであるヴィルヘルムスハーフェンに入った。港に降り立つと、早速出迎えてきたのは無駄に華美な軍服を纏った太った男であった。


「ゲーリング……何の用だ?」

「別に用があるという訳ではないんだが、君を逸早く労いたくてね。何せ、西部戦線を一ヶ月とかからずに消滅させてくれたのだ。我が国にとって最大の英雄なのだよ、君は」

「そ、そうか。そう言われると、悪い気はしないな」


 ツェッペリンは褒められるのに慣れておらず、しどろもどろに応答してしまった。


「ならよかった。ついでだが、君にささやかながら贈り物があるぞ。ええと……これだ」


 ゲーリングが懐から取り出したのは、古風な拳銃であった。


「マウザーC96だ。帝政時代のものだ。格好いいだろう?」

「我は銃に大した興味などないから、違いが分からん」

「そうか……それは残念だ。だが、取り敢えず受け取ってくれたまえ。自前の拳銃は持っていないのだろう?」

「それもそうだな。ではありがたくもらっておこう」


 ツェッペリンはもらったC96を軍服に備え付けてあったホルスターに収めた。こうして生まれて初めてもらった拳銃は、ツェッペリンの愛銃となった。


「と、我が総統が君を待っているぞ」

「何? それなら最初に言え」

「まあまあ。そう急ぎの要件ではないからな」


 ツェッペリンはシュニーヴィント上級大将と共に、総統が待っているらしい港の一角に足早に向かった。総統は長机の置いてある少しばかり豪華に仕立てた部屋で待ち構えていた。


「我が総統……!」


 その姿を見るなり、ツェッペリンは嬉しそうにそう口にした。総統はそんなツェッペリンを見て微笑む。


「グラーフ・ツェッペリン、よくやってくれた。君のお陰で連合国のヨーロッパ侵略の野望は打ち砕かれた。君の活躍は一個軍集団にも等しいものだ」

「はっ……!」

「君のその活躍に相応しい褒章は、今のところドイツには存在しないのだが、せめてドイツで最高の栄誉を贈ろう」

「最高の栄誉、ですか?」

「ああ。私から君に贈ろう。黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付き騎士鉄十字章を。二人目の受賞者だ」


 総統はツェッペリンに近くに来るよう言って、自らの手でツェッペリンにその勲章を手渡した。光輝く黄金の勲章を前にして、ツェッペリンは感動のあまりどう反応すればいいか分からなかった。


「わ、私が、こんなものを受け取ってよいのですか……?」


 と、震える声で問う。


「当たり前だとも。一人目のルーデル大佐は一人で一個師団の役割を果たせる男だが、君は一個軍集団の役目を果たしたんだ。寧ろこんな勲章では足りないと思うがね」

「そ、そんなことは……」

「そう遠慮しなくていい。喜んでくれないと私が悲しいのだぞ」

「も、申し訳ありません……! 私は今、歓喜に打ち震えています……!」

「そ、そうか。まあ気を楽にしてくれ。君はこの国で最高の英雄なんだ」

「はっ……!」


 総統と一通りやり取りを終えると、ツェッペリンは椅子に座った。そして今度は傍に控えていたレーダー元帥が話し始めた。


「ごほん。えー、シュニーヴィント上級大将。君にも勲章を用意してある。貴官には柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を授与することとなった」


 ツェッペリンの授与された勲章の一段下のものである。とは言え、普通の人間であれば事実上最高位の勲章と言っていいだろう。


「よろしいのですか? 私などツェッペリンの隣で小言を言っていただけというのに」


 シュニーヴィント上級大将は、ツェッペリンがその言葉を肯定してくると思ったが、ツェッペリンの反応は意外なものであった。


「お前も少しは我の役に立った。素直に勲章を受け取るがよかろう」

「全く素直じゃない君に言われても、説得力がないな」

「わ、我の性格はどうでもいいだろう!」

「分かった分かった。では素直に受け取っておくこととするよ」


 シュニーヴィント上級大将はレーダー元帥から勲章を授与された。またグラーフ・ツェッペリンの乗組員達にも、最低でも一級鉄十字章が与えられることとなった。


 褒章の儀式が終わると、総統の表情は険しく、消耗しきったものに戻ってしまった。


「さて……。ツェッペリン、君には本当はもう暫く休んで欲しいのだが、我が軍の戦況は非常に悪い。君にはまだまだ働いてもらわねばならんのだ」

「無論です。休みなど必要ありません」

「そう言ってくれると、頼もしいな。では元帥、後は頼んだ」

「はっ」


 総統はレーダー元帥に続きを任せた。


「米英の脅威がほぼ消えた以上、我が国にとって最大の脅威は、言うまでもなくソ連、赤軍だ。海軍にできることは限られているが、バルト海の制海権を我々が握れば、ソ連の後背、ひいてはモスクワをも攻撃することが可能だろう」

「ほう。つまりバルト海の赤色海軍を殲滅してくればよいのだな?」

「その通りだ。ただそれだけに留まらず、陸上への支援もやってもらう」

「うむ。構わん」

「詳細な攻撃目標は後ほど」


 作戦説明は一旦終わりだ。


「そういうことだ。ツェッペリン、君にドイツの命運が掛かっている。よろしく頼むよ」

「はっ!」


 総統の激励を受け、ツェッペリンはすぐさまヴィルヘルムスハーフェンを発って、まずはキールに向かった。

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