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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第十四章 第二次世界大戦(覚醒編)

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ツェッペリンの目覚め

 ドイツ初の船魄を生み出す計画は「ツィクロン作戦」と名付けられ、総統・海軍・軍需省の支援を受けて進められた。


 船魄製造の実務を当初主導していたのはカール・ゲープハルト博士であったが、やがて発想の独創性を買われたヨーゼフ・メンゲレ博士が計画を取り纏めるようになる。


 グラーフ・ツェッペリンの建造もまた順調に進められた。元よりツェッペリンはほとんど完成していたので戦略物資の消耗は少なく、唯一割を食ったのは潜水艦の建造であった。潜水艦隊を指揮するデーニッツ大将はこれに抗議したが、時間稼ぎにしかならない潜水艦よりグラーフ・ツェッペリンに期待する総統によって、ツィクロン作戦は強引に推し進められた。


 ○


 一九四四年八月三日、ドイツ国シュレースヴィヒ=ホルシュタイン大管区、キール造船所。


 ツィクロン作戦がついに達成されようとしている頃。東部戦線ではソ連軍のバグラチオン作戦が成功し、ドイツ軍はソ連領から完全に追い出され、中央軍集団は壊滅した。西部戦線ではアメリカ・イギリス軍がオーバーロード作戦を成功させ、200万もの大規模な部隊をフランスに上陸させていた。都合800万の野蛮人がドイツ文明を破壊しようと迫っているのだ。


 ドイツの将来的な絶滅は間違いないと、枢軸国でも連合国でもほとんどの人間が確信していた。総統はこの情勢下にあって、最後の希望に縋る他になかった。


 ドイツを代表する軍港の一つ、キール軍港に政府高官や将軍達が集まっていた。ツィクロン作戦の行く末を見届ける為である。ほとんどの人間はこんな作戦が成功する訳はないと思っていたが。


「我が総統、全ての準備が整いました。これよりグラーフ・ツェッペリンを目覚めさせます」


 ヨーゼフ・メンゲレ博士は、手術台の上に乗った少女を目の前にして、総統に報告する。総統は作業を始めるよう命じた。


「それでは皆様、危険ですので少し離れていてください」


 メンゲレが何やら機会を操作すると、天井から吊るされた電線から少女の身体に電流が流れ、少女はビクビクと震える。まるで『フランケンシュタイン』劇中のような光景に、人々は息を呑む。20秒程度で電流は止まった。


「ここまでの工程に誤りがなければ、これで成功する筈です……」


 流石のメンゲレ博士も緊張して額から汗を流しながら、少女が目覚めるのを待った。それは実際にはほんの数秒であったが、博士には数分にも感じられた。


「動いた……! 動きました……!」


 少女の指がピクりと動くと、少女は目を開け、眠たそうな赤い目で周囲を見渡している。


「よし……。私の声が聞こえるか?」


 メンゲレ博士は少女の横からそっと話しかける。


「聞こえる……」

「よろしい。では自分の名前を言えるか?」

「自分の、名前……? 私は……」

「ふむ。やはり最初は記憶が定着していな――」

「いいや、そんなことはない」


 ぼんやりとしていた少女は突然、凛とした声で言った。


「そうかね?」

「ああ、私はグラーフ・ツェッペリンである。お前こそ誰だ?」


 グラーフ・ツェッペリンは目覚めて早々に確固たる自我を獲得したのである。ドイツの技術力の高さ故なのか何なのか、当時の人々は判断することは不可能であったが。


「私はヨーゼフ・メンゲレ。僭越ながら、君を目覚めさせた者だ」

「そうか。メンゲレとやら、大義である」


 まだ身体の調子は万全とは言えず手術台に横たわったままなのに、ツェッペリンは非常に尊大な態度である。


「取り敢えず、起き上がってみようか」

「ああ、そうだな。少し手伝え」

「何なりと」


 メンゲレ博士の助けを借りて、ツェッペリンは上半身を起こした。


「さて、君に紹介しなければならない人間が何人かいる」

「人間? まあいい。誰だ?」

我らが総統(ウンザー・フューラー)、アドルフ・ヒトラー閣下だ。閣下、こちらに」


 メンゲレ博士が呼びかけると、一人の男がツェッペリンの傍によってきた。男は実に壮健な様子であり、背は高く非常に整った顔をしていた。


「おはよう、グラーフ・ツェッペリン。私がドイツ国総統、アドルフ・ヒトラーだ」

「お前が、総統だと……?」


 ツェッペリンは怪しい占い屋でも見るような目で、総統と名乗った男を見る。


「何か……不満があるのかね?」

「お前のような中身のないつまらん男が、総統だと? そうであるのならば、ドイツは滅びた方がいいだろうな」

「ふむ…………。分かった」


 男は何かを観念したかのように言った。


「何が分かったというのだ?」

「私は確かに総統などではないということさ」

「ふん、やはりな。何のつもりでこんな茶番を?」

「君が私のことを総統だと信じてくれたら、君と色々とやり取りするのが楽になると思ったんだ。我が総統は多忙なのでね。私はオットー・シュニーヴィント。一応は海軍上級大将だが、まあ今は何の仕事もしていない」

「そうか。では本物の総統はここには来ていないのか」

「いいや、そんなことはないぞ。君の周りにいる30人ばかりの中に、本物の総統もおられる。見事総統が見つけることができれば、総統は大変お喜びになるだろう。さあ、どうかな?」

「何だその下らんゲームは……」


 ツェッペリンはうんざりした表情を浮かべながらも、シュニーヴィント上級大将の――いや総統の挑戦に受けて立つことにした。

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