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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第六章 アメリカ核攻撃

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ある科学者Ⅱ

「ねえゲバラ、こいつどうする? 殺す?」

「武器を持たない相手を殺すなんて考えられない。ふざけないでくれ、瑞鶴」

「私は殺されても構わない。だが、どうか原子爆弾だけは使わないでくれ」

「正直言ってこれ以上話す気はないんだけど」

「瑞鶴、一度他の皆の意見も聞いてみたらどうかな?」

「まあ、それもそうね。皆を呼び出すわ」


 瑞鶴は妙高、高雄、ツェッペリンを呼び出した。オッペンハイマーは彼女達に瑞鶴にしたのと同じように説得を試みた。だが案の定、誰にも大して響いてはいないようだ。


「つまり何が問題なのですか? 失礼ですが、あなたの言葉は要領を得ているとは言い難いのです」


 高雄は言った。オッペンハイマーは実際、原子爆弾投下を止めさせたいあまり、思い付くことを片っ端から口に出し、論理性を欠いていた。


「そう、だな。この場合の問題を整理しよう。問題はつまり、君達が原子爆弾を使うことで、核戦争の扉が開かれてしまう可能性があるということだ」

「逆に原子爆弾の威力が世界に示されることで、原子爆弾を誰も使わなくなるのでは?」

「……こうはあまり言いたくないのだが、君達は原子爆弾で誰も殺さないつもりのようだが、それこそが問題なのだ。原子爆弾の真の恐ろしさは放射能にある。人間を巻き込まなければ、原子爆弾の脅威は伝わならない」

「ではお前は、我らに原子爆弾で人を殺せと言いたいのか?」


 ツェッペリンは問う。


「誤解を恐れなければ、そうだ。誰も殺さぬ核攻撃より、まだ人を無惨に殺した方がよい。いや、そうでなければならないのだ」


 原子爆弾が人間に対して使用されなければ、世界は原子爆弾がただの強力な爆弾であると思い込むだろう。それこそが世界の破滅に繋がるとオッペンハイマーは訴える。これこそが彼の主張の核心であった。


「だが、君達はそんなことはできないだろう? 虐殺者の汚名を被りたくはあるまい」

「ああ。僕達はアメリカのように民間人を虐殺したりはしない」

「ならば、核攻撃は諦めるのだ。君達の行動が世界を滅ぼすのだぞ」

「そう言われてもねえ」


 世界の運命がどうこう言われても、実際にアメリカと殺し合いをしている月虹やキューバ人の心には全く響かない。


「では、オッペンハイマーさんが原子爆弾で死んでくださればいいのでは?」


 妙高はまたしても思いついた事をそのまま口に出してしまった。普段は不謹慎など気にしない瑞鶴も、流石にこれには苦笑いする。


「妙高、言っていいことと悪いことがあるでしょ」

「す、すみません……つい……」

「いや、謝らなくていい。それに、君の主張は的を射ている」

「はあ? 自殺でもする気なの?」

「私が死ぬことで世界に原子爆弾の恐ろしさを知らしめられるのならば、この命の使い道としては十分だ。君達の意思が変わらないのであれば、私は喜んで死のう」


 無差別殺人などしたくないキューバ軍と、誰かを見せしめにしなければならないオッペンハイマーの目的が合致した。オッペンハイマー自信が生贄になればよいのである。


「え、あんた本気なの?」

「無論だ。私などこれ以上生きていたところでしょうがない。原子爆弾などというものを生み出してしまった罪を核の炎で焼き尽くせるのなら、これ以上ない喜びだ」

「あっそう……。なら交渉成立ね。原子爆弾投下の座標は伝えてある。早く向かうことね」

「そうさせてもらおう。それと、妙高と言ったかな、いいアイデアをくれてありがとう」

「た、ただの思い付きですので……」

「思い付きは人類の進歩の原動力だよ。さようなら。もう二度と会うことはないだろう」


 オッペンハイマーはすぐに原子爆弾の投下予定地点に向かった。


「ほ、本当によかったんでしょうか……」

「まあ本人が望んでるんだしいいんじゃない? 死にたい奴は死なせてやるのがいいのよ」


 神妙な空気を引きずりながら、船魄達は各々の艦に戻った。アメリカ軍がそのうち核攻撃を阻止する為にやってくるだろう。


 ○


 半日後。核攻撃まで残り24時間を切った頃のことである。


「みんな、敵が来たわよ。空母4、戦艦2、その他20くらい」


 瑞鶴の偵察機祥雲は、北方400kmほどの地点にアメリカ艦隊を捕捉した。


『だ、大規模な部隊ですね……』


 妙高は恐れ慄く。


「そりゃあ本土を爆撃するって言われたら本気出すでしょ」

『エンタープライズという方は、おられないのですか?』

「高雄、あんなのに敬語使わなくてもいいんだけど、ええ、あいつはいないみたいね。ソ連に喧嘩売った件で怒られてるんじゃない?」

『国家の危機でそんなことを気にしている余裕があるとは思えませんが……』


 高雄はエンタープライズがまた襲いかかってくる可能性を危惧したが、瑞鶴はそれはないと考えている。


「ソ連と戦争になる方が国家の危機でしょ、普通に考えて」

『た、確かに』


 原子爆弾を無人の場所に落とされるなど大した問題ではないだろう。アメリカにとってはソ連を怒らせる方が遥かに問題だ。実際、この時の月虹は知る由もなかったが、ソ連の最高指導者フルシチョフはソビエツキー・ソユーズらが攻撃されたことにブチ切れて、アメリカにエンタープライズの処分を要求しており、エンタープライズを動かす訳にはいかなかったのである。

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